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世界一のストライカー【見て書いてきた少女】  作者: KASANE
7/24最終回です

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第25話「しょうにんは、見のがさない」

[▓▓▓]ー̀ωー́)ジーッ

画面に映るものだけでも、人の想いは伝わることがあります。

夜中だった。


わたしは、


起きていた。


NAKANOの、


すみっこ。


お店は、


もう閉まっている。


電気も、


すこしだけ。


ひざの上には、


フルートのケース。


両手で、


ぎゅっと抱いていた。


小さな画面の中で。


かいとくんが、


走っていた。


ボールのないところを。


だれも見ていないところを。


何度も。


何度も。


走る。


そのたびに。


わたしの目も、


かいとくんを追った。


    * * *


ルカっていう人が、


ボールを持つ。


九番。


点を取る人。


つよい人。


その人に、


二人もついていく。


かいとくんは、


その少し前へ、


走った。


手を上げた。


パスが来る。


すぐに、


返した。


ルカさんが、


抜けた。


シュート。


入った。


スタジアムが、


大きくゆれた。


「ルカ!」


画面の向こうで、


名前が響く。


かいとくんの名前は、


聞こえなかった。


でも。


わたしは、


見ていた。


あのパス。


あれがなかったら。


あのゴールは、


なかった。


    * * *


試合は、


続いた。


かいとくんは、


走る。


守る。


また走る。


ボールを持っていない時間のほうが、


ずっと長い。


でも。


その時間を、


だれよりも、


走っていた。


わたしは、


思った。


サッカーって、


点を取る人だけじゃないんだ。


点を取らせる人も、


いるんだ。


かいとくんは。


そっちの人なんだ。


    * * *


でも。


画面の中の、


かいとくんの顔が。


すこしだけ、


へんだった。


うれしい。


でも、


それだけじゃない。


何かを、


がまんしている顔。


くやしいのを、


のみこんでいる顔。


そんなふうに、


見えた。


試合の前に。


何か、


あったのかな。


そう思った。


でも。


わたしには、


分からない。


ロッカーは、


映らない。


画面の外は、


見えない。


だから。


全部は、


分からない。


    * * *


それでも。


最後まで、


見ていた。


試合が終わる。


インタビューが、


始まる。


ドイツ語は、


分からない。


でも。


「カイ」


そう呼ばれたのは、


分かった。


かいとくんは、


少しだけ、


照れたように笑って。


ぺこりと、


頭を下げた。


日本にいたころと、


同じ。


なんだか、


ほっとした。


最後に。


かいとくんが、


カメラを見た。


もちろん。


わたしを見たわけじゃない。


そんなこと、


分かってる。


でも。


少しだけ。


そう思いたくなった。


    * * *


前に。


わたしは、


思った。


もう、


しょうにんなんて、


いらないんじゃないかって。


テレビもある。


ニュースもある。


みんな、


見られる。


だから、


わたしじゃなくても、


いいんじゃないかって。


でも。


ちがった。


世界中の人は。


きっと、


ゴールを見ていた。


ルカさんの、


ゴールを。


でも。


わたしは、


ちがう。


その前の、


パスを見ていた。


その前の、


走りを見ていた。


もっと前の。


苦しそうな顔も。


くやしそうな顔も。


全部じゃない。


映っていないところは、


見えない。


でも。


映ったぶんだけは。


ぜったいに、


見のがさない。


それが。


しょうにんの、


しごと。


わたしは、


フルートのケースを、


ぎゅっと抱いた。


「見えたよ」


小さく、


つぶやく。


画面には、


届かない。


ドイツにも、


届かない。


それでも、


言いたかった。


「かいとくん」


「ちゃんと、


 見えたよ」


窓の外は、


まだ夜だった。


遠いドイツも、


きっと、


同じ空の下にある。


わたしは、


また、


見つづける。


あの人が、


前を向いて、


走るかぎり。

しょうにんは、すべてを見ることはできません。それでも、見えたものだけは、決して忘れません。

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