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世界一のストライカー【見て書いてきた少女】  作者: KASANE
7/24最終回です

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25/47

第23話「十階の、しょうにん」

画面の向こうで走る少年を、十階から見ている人がいました。

ぼくは、十階で。


同じ試合を、見ていた。


ソファに、深く沈んで。


煙草を、指に挟んで。


画面の中で。


海斗くんが、ボールを失った。


一度。


また、一度。


あの子の色は、


もう、知っている。


灰色。


植え込みの奥で、


腐りかけていた色。


ミスをして。


ベンチを気にする。


その動きに、


あの灰色が、


少しだけ、にじむ。


ぼくは、


息をつめた。


けれど。


次の瞬間。


また、


上がってきた。


誰かに引っぱられたんじゃない。


誰かに助けられたんじゃない。


自分で。


持ち直した。


あの、


植え込みで灰色だった子が。


いま。


少しずつ、


上へ。


「まだ、B級ですねー」


ぼくは、


そうつぶやいた。


語尾が、


少し伸びた。


誰もいないのに。


伸びた。


言ったら、


こぼれそうだったから。


ぼくは、


新しい煙草に、


火をつけた。


画面の中で。


海斗くんが、


走った。


怖がっている。


まだ、


怖がっている。


でも、


止まらない。


半歩、遅れていた子が。


半歩、早く動いた。


転がったボールに、


一番先に届いた。


ネットが、揺れた。


スタジアムが、


大きく揺れた。


ぼくは、


煙草をくわえたまま、


少しだけ、


目を閉じた。


「あー」


めんどくさいですねぇ。


まったく。


こんなの。


胸に悪い。


    * * *


ぼくは、


電話をかけた。


NAKANOの、


菜々子ちゃんに。


夜中だった。


でも。


あの子は、


起きているはずだ。


見ているはずだ。


ぼくには、


分かる。


呼び出し音が、


一つ。


二つ。


三つ。


「……はい」


小さな声。


やっぱり、


起きていた。


「あー、菜々子ちゃん」


「……ジオンさん」


「見てました?」


少しだけ、


間があった。


それから。


「うん」


短い返事。


でも。


その一音に、


ぜんぶ入っていた。


怖かったところも。


取られたところも。


走ったところも。


決めたところも。


ちゃんと、


見ていた声だった。


「そうですか」


ぼくは、


言った。


「よかった、です」


その語尾は。


伸びなかった。


菜々子ちゃんも、


何も言わなかった。


言わなくても、


分かった。


しょうにんは。


ちゃんと、


見ていた。


ゴールだけじゃない。


苦しいところも。


ぜんぶ。


ぼくは、


電話を切った。


煙草の煙が、


ゆらゆらと昇る。


白くて。


細くて。


匂いは、


しない。


ぼくの仕事は。


間違って、


いなかった。


あの子を、


植え込みの奥から、


引っぱり出したこと。


菜々子ちゃんに、


見ていてもらったこと。


それは。


間違いじゃ、


なかった。


「あー」


ぼくは、


ソファに沈んだ。


「めんどくせぇ」


誰もいない十階で。


ぼくは、


目を閉じた。

見届ける人がいるだけで、人はもう一度走れることがあります。

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