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世界一のストライカー【見て書いてきた少女】  作者: KASANE
7/24最終回です

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第21話「2部リーグ、デビュー」

夢だった舞台に立てても、本当の勝負はそこから始まります。

ベンチに座っていた。


試合は、


もう後半。


ぼくは、


まだピッチに立っていない。


コートを着たまま、


足だけを動かしていた。


寒い。


ドイツの秋。


吐く息が、


白く空へ消えていく。


スタンドの声が、


背中を押してくる。


三年。


言葉も覚えた。


チームのやり方も覚えた。


この国で生きることにも、


少しずつ慣れた。


でも。


ぼくは、


まだレギュラーじゃない。


三年前。


ぼくは手紙に書いた。


「こわい」


あの一言だけは、


今でも忘れていない。


届かない背中を見て。


何度追いかけても、


届かなかった。


だから。


走った。


朝も。


夕方も。


みんなが帰ったあとも。


走った。


トレーナーのメニューを終えて。


そこから、


また一人で走った。


誰にも言わずに。


ノートは、


また一冊、


いっぱいになった。


でも。


結果は、


すぐには出なかった。


試合の日。


ぼくは、


いつもベンチだった。


名前を呼ばれないまま、


試合が終わる。


スパイクは、


きれいなまま。


芝の土も、


つかない。


それが、


一番つらかった。


走っても。


走っても。


立てない。


頑張っても。


届かない。


そのたびに、


あの背中が浮かぶ。


まだ。


届かない。


「カイ」


コーチが、


ぼくを呼んだ。


海斗。


でも、


ここでは、


カイ。


「ゲー」


行け。


その一言だった。


ぼくは、


コートを脱いだ。


冷たい空気が、


一気に肌へ触れる。


後半二十分。


二部リーグ。


初出場だった。


ピッチは、


速かった。


全部。


ボールも。


人も。


判断も。


ぼくが、


「ここだ」


と思ったときには、


もうボールは、


別の場所へ動いている。


三年前。


見上げることしかできなかった世界。


その真ん中へ、


ぼくは立っていた。


最初のプレー。


パスを受ける。


次の瞬間。


奪われた。


「しまった」


振り返る。


もう相手は、


走り出している。


追う。


届かない。


次のプレー。


味方へ出す。


少しだけ、


ずれた。


相手が奪う。


また、


走る。


半歩。


その半歩が、


遠かった。


息が苦しい。


足が重い。


芝が、


足へまとわりつく。


味方の一人が、


ぼくを見た。


何も言わない。


でも。


その目だけで、


分かった。


――大丈夫か。


ベンチでは、


交代選手が、


アップを始めていた。


ぼくの代わりかもしれない。


まだ。


何もできていないのに。


心臓が、


速くなる。


怖い。


また、


あの気持ちが、


胸の奥から、


はい上がってくる。


ここでも、


届かないのか。


ぼくは、


息を吸った。


冷たい空気。


青い芝の匂い。


そして、


思い出した。


三年前。


ぼくは、


手紙を書いた。


「こわい」


そう書いた。


その手紙を、


受け取ってくれた子がいる。


「見ててね」


そう頼んだ子。


ななちゃん。


きっと。


今も、


見ていてくれる。


強いぼくだけじゃない。


怖がっているぼくも。


失敗しているぼくも。


全部。


見ていてくれる。


だったら。


逃げるな。


怖くても。


走れ。


ぼくは、


走った。


奪われても、


また走る。


追って。


追って。


追い続ける。


息が切れても。


足がもつれても。


止まらない。


そのとき。


少しだけ。


見えた。


相手の視線。


肩の向き。


支え足。


次に、


どこへ出すのか。


ボールが来るより、


半歩、


早く。


ぼくは、


動いた。


パスを引っかける。


ボールが、


転がる。


味方が、


拾う。


そのまま、


前へ。


ぼくも、


走る。


パス。


シュート。


キーパーが、


弾いた。


ボールが、


ゴール前へ転がる。


誰もいない。


……いや。


一人だけ、


いた。


ぼくだ。


右足を振る。


ネットが、


揺れた。


入った。


一瞬、


音が消えた。


次の瞬間。


スタジアムが、


揺れた。


「カイ!」


「カイ!」


名前が、


何度も響く。


味方が、


駆け寄ってきた。


背中を、


思い切り叩かれる。


痛い。


でも。


うれしかった。


さっき、


ぼくを見ていた選手も、


笑っていた。


ぼくは、


叫ばなかった。


胸も張らなかった。


ただ。


拳を、


ぎゅっと握った。


心の中で、


海の向こうへ、


つぶやく。


――怖かった。


でも、走った。


それだけで、


十分だった。


ぼくは、


空を見上げた。


ドイツの空は、


今日も灰色だった。


でも。


ほんの少しだけ。


昨日より、


明るく見えた。

どんな一歩も、最初は震えながら踏み出すものなのかもしれません。

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