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世界一のストライカー【見て書いてきた少女】  作者: KASANE
7/24最終回です

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第20話「見る者」

く離れた場所でも、誰かを見続けることは、人を強くしてくれます。

ドイツの育成。


ぼくは、


まだトップチームには、


いなかった。


二部のトップチーム、


その下にある、


若い選手だけのチーム。


毎日、


走って。


ぶつかって。


負けて。


また、


走る。


あの日。


U-18の試合から、


ぼくは、


ずっと考えていた。


あの子には、


届かなかった。


半歩、


遅かったから。


だったら。


半歩、


早くいればいい。


ボールが来るより、


先に。


そうすれば、


届く。


    * * *


その日。


監督が、


ぼくを呼んだ。


相手には、


止められない選手がいた。


引いて受ける。


運ぶ。


かわす。


そして、


自分で決める。


誰も、


止められなかった。


監督は、


ぼくのゼッケンを、


指で軽くたたいた。


「お前が、あいつにつけ」


マンツーマン。


「ボールを見るな」


「あいつだけを見ろ」


「九十分、


 一歩も離れるな」


それだけだった。


戦術の言葉は、


まだ全部は、


分からない。


でも。


やることは、


分かった。


見る。


ただ、


一人だけを。


    * * *


笛が鳴る。


試合が始まった。


ぼくは、


ボールを見ない。


相手だけを見る。


目。


肩。


腰。


支え足。


その全部が、


次の動きを、


教えてくれる。


引いて受ける。


ぼくは、


縦のコースを消す。


裏へ走る。


ぼくが、


先に動く。


ボールより、


半歩早く。


右へ行くなら、


右。


左へ行くなら、


左。


相手が、


顔を上げるたびに。


そこには、


ぼくがいた。


    * * *


その子は、


何度も、


ぼくから、


消えようとした。


サイドへ流れる。


味方の後ろへ隠れる。


急に向きを変える。


でも。


ぼくは、


ついていく。


……知っているから。


消えたい気持ちを。


ぼくだって、


昔は、


消えたかった。


「消えろ」


そう言われて。


本当に、


消えてしまいたかった。


でも。


今は違う。


ぼくは、


消えない。


どこまでも、


ついていく。


走ることだけは、


負けない。


それだけは、


ずっと前から、


ぼくの武器だった。


    * * *


試合が進む。


相手の足が、


少しずつ、


重くなる。


ボールを受けても、


前を向けない。


自由に、


動けない。


止めているのは、


ぼくだ。


相手が、


ふっと、


顔を上げた。


目が合う。


その顔は、


苦しそうだった。


「消えてくれ」


そう言いたそうな、


顔だった。


昔。


ぼくが、


向けられていた顔。


でも。


もう、


逃げない。


    * * *


試合終了。


ぼくは、


点を取っていない。


アシストもない。


数字だけ見れば、


何も残っていない。


でも。


相手のエースも、


何もできなかった。


監督が、


ロッカーへ来た。


タブレットを、


机へ置く。


上から撮った、


試合の映像。


ぼくは、


小さな点にしか、


見えない。


監督は、


映像を止めた。


「ここ」


指が、


画面をさす。


「コースを消してる」


また、


映像が戻る。


「ここ」


「半歩、


 先に入ってる」


監督の声は、


いつも通り、


静かだった。


ほめるでもなく。


怒るでもなく。


ただ、


事実だけを、


話していた。


「今日は、


 点を取っていない」


知ってる。


「アシストもない」


知ってる。


監督は、


もう一度、


映像を止めた。


相手が、


立ち止まっている場面。


「でも」


「あいつを、


 九十分、


 消した」


その一言が。


胸の奥へ、


まっすぐ届いた。


「これが、


 お前の武器だ」


歓声は、


なかった。


拍手も、


ない。


でも。


その言葉が、


何より、


うれしかった。


    * * *


ぼくは、


やっと、


分かった。


ななちゃんが、


ぼくを、


見てくれていたように。


ぼくも、


相手を見る。


視線。


肩。


足。


その先まで。


ボールより、


早く。


それが、


ぼくの武器。


点を取る前に、


手に入れた力。


相手を、


消す力。


まだ、


怖い。


あの、


届かなかった背中は。


まだ、


ずっと上にある。


でも。


ぼくは、


前へ進んだ。


次の週。


監督が、


ぼくを呼んだ。


「上で、


 ベンチに入れ」


二部、


トップチーム。


まだ、


ピッチじゃない。


でも。


その扉は、


もう、


目の前にあった。

誰かを「見る力」は、それぞれ違う形で未来を切り開いていきます。菜々子は物語に、海斗はピッチに。その一歩は、まだ始まったばかりです。

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