第17話「五年生に、なった」
春といっしょに、菜々子にも新しい毎日が始まります。
五年生に、なった。
新しい教科書。
ページを、めくる。
インクの、においがした。
ぴん、とした。
まだ、
わたしの、においじゃない。
これから。
わたしの、においに、なっていく。
クラスがえも、あった。
今まで、別のクラスだった子。
はじめて、同じ教室になる子。
知らない顔も、少しだけ、ある。
今までの、わたしを。
知らない子。
それは。
少し、こわい。
でも。
少しだけ、らくだった。
見られていない。
だから、
わたしは、自由に、見られる。
わたしは。
人を、見てしまう。
昔から、そうだった。
あの子は、
少し、緊張してる。
あの子は、
もう友達を、見つけた。
あの子は、
わたしと、おなじ。
まだ、
自分の席を、さがしてる。
見ようと、しなくても。
目が、動く。
しょうにんの、くせ。
新しい教室でも。
わたしの目は、
いつもと、おなじだった。
* * *
五年生になると。
クラブ活動が、始まる。
先生が、
黒板に、
クラブの名前を、書いていく。
運動。
工作。
理科。
音楽。
家庭科。
図書。
みんなは、
「どうしよう」
「どこにする?」
って、
楽しそうに、話していた。
でも。
わたしは、
もう、決めていた。
図書クラブ。
本を読んで。
文章を、書く。
そこへ、行く。
小四の、秋。
ジオンさんのことを、
日記に、書いた日。
あの日、
わたしは、気づいた。
書くって。
見るって、ことなんだ。
ちゃんと見ないと。
一行も、書けない。
だったら。
見るのが好きな、わたしは。
書くところへ、行こう。
そう、思った。
フルートは、
今も、続けている。
坂田先生の、ところで。
音楽クラブにも、
誘われた。
「いっしょに、合奏しようよ」
そう言って、
友達が、笑った。
でも。
わたしは、
首を、横に振った。
フルートは。
わたしの音を、
さがすもの。
みんなで合わせるのは。
まだ、
少し、ちがう。
だから。
クラブは、
書くほうを、選んだ。
* * *
図書クラブは。
図書室の、奥にあった。
小さな部屋。
本棚が、
壁いっぱいに、並んでいる。
古い紙の、におい。
インクの、におい。
少しだけ、
かびくさい。
でも。
いやじゃ、なかった。
机の上には。
原稿用紙が、
きれいに、積んである。
真っ白な、
マス目。
わたしは、
一枚だけ、
手に取った。
白い紙が。
「ここに書いて」
そう、言っている気がした。
胸の奥が。
少しだけ、
あたたかくなった。
ここなら。
わたしは、
何かを、
書けるかもしれない。
白い原稿用紙は、まだ何も書かれていません。でも、その一枚から物語は始まります。




