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世界一のストライカー【見て書いてきた少女】  作者: KASANE
7/24最終回です

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第14話「フルートの先生、坂田」

菜々子がフルートを通して、自分の道に気づきはじめるお話です。

あれから、わたしは、毎日、フルートを吹いた。


 漢字の練習と、おなじくらい。


 ううん。


 それより、もっと。


 海斗おにいさんに、手紙で、書きたかったから。


 「きょうも、ふえ、ふいたよ」って。


 うまくなった、って、言いたかったから。


 ある日。


 教室の先生が、お母さんに、言った。


「この子、才能、あります」


「もっときちんとした先生に、見てもらったほうがいい」


 その先生の名前は、坂田先生。


 むかし、プロのオーケストラに、いた人なんだって。


 でも、坂田先生は、こわい、って言われていた。


 子どもは、めったに、教えない。


 お母さんは、こまった顔をした。


 お店が、いそがしい。


 坂田先生のところまで、つれていく時間がない。


 だから、わたしは、決めた。


 ひとりで、行く。


 坂田先生のおうちは、坂の、上だった。


 バスに乗って、バス停をひとつ、ふたつ、かぞえて。


 はじめての、ひとりの、遠くへのお出かけ。


 むねが、どきどきした。


 でも、空港まで、ひとりで行った海斗おにいさんに、くらべたら。


 こんなの、ぜんぜん、平気。


 坂田先生は、白い髪の、おじいさんだった。


 目つきが、するどい。


「お母さんは?」


「来られません。わたし、ひとりで来ました」


 坂田先生は、すこし、おどろいた顔をした。


「……ふうん。吹いてみなさい」


 わたしは、フルートを出した。


 いつもの、相棒。


 息をすいこむ。


 吹いた。


 いつも、海斗おにいさんに聞かせるつもりで、吹いてる曲。


 吹きおわると。


 坂田先生は、しばらく、だまっていた。


 それから、言った。


「……才能、あるな。この子」


 ひとりごとみたいに。


「だれかに、聞かせたくて、吹いてる音だ」


 どきっとした。


 わかるんだ、この先生。


 わたしが、だれかのために、吹いてるって。


「教えてやる。ただし、本気の子だけだ」


「本気です」


 わたしは、すぐ、こたえた。


 坂田先生は、ちょっとわらった。


 その帰り。


 わたしは、ジオンさんのオフィスに、よった。


 海斗おにいさんのことを聞きたかったから。


 ドアをあける。


 ジオンさんは、いつもみたいに、ふらふらしていた。


「お、ちびっこ。……じゃない、もう、すこし、おっきいか」


 わたしが、坂田先生のことを話すと。


 ジオンさんは、細い目をほんのすこし、あけた。


 わたしの、なにかを見るみたいに。


 それから、ちいさく、つぶやいた。


「……フルート、A」


「血統、B」


「最終、AからAA」


 なんのこと?


 わたしには、わからなかった。


「なに、それ」


「いや。こっちの話」


 ジオンさんは、すぐ、ごまかした。


 でも、その目は、すこしだけ、うれしそうだった。


「いい音、出すんだろうね。きみは」


 そう、言った。


 家に、帰る道。


 わたしは、考えた。


 海斗おにいさんは、ドイツで、サッカーをがんばってる。


 手紙には、いつも、「練習してる」「逃げてない」って、書いてある。


 遠くで、ちゃんと、走ってる。


 わたしには、フルートが、できた。


 坂田先生も、才能がある、って言ってくれた。


 ……あれ。


 わたし、いつのまにか。


 自分の、やりたいことが、できてる。


 じゃあ。


 「しょうにん」は。


 海斗おにいさんを見ててあげる人は。


 もう、いらないんじゃ、ないかな。


 海斗おにいさんは、ひとりで、ちゃんと、走れてる。


 わたしが、見てなくても。


 わたしは、立ちどまった。


 夕やけが、まぶしい。


 むねの中で、なにかが、すこし、ゆれた。


 その「ゆれ」が、なんなのか。


 まだ、八つの、わたしには、よく、わからなかった。

坂田先生との出会いが、菜々子の小さな決意を大きく動かしていきます。

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