第13話海を、わたる手紙(後編)
会えない時間も、誰かを信じる時間になる。
リュックの、いちばん奥に。
ぼくは、青い、お茶の缶を、入れている。
植え込みで。
ななちゃんが、くれた缶。
もう、中身は、ない。
角は、少し、へこんで。
青い色も、ところどころ、はげていた。
何年も。
何度も。
いっしょに、旅を、してきたから。
遠征でも。
合宿でも。
試合でも。
いつも、いっしょだった。
手紙が、すぐに、書けない日も、ある。
移動が、つづいて。
夜には、倒れるように、眠ってしまう。
朝には、また、バス。
また、列車。
気づけば。
何週間も、たっていた。
そういう日。
ぼくは、缶を、見る。
植え込み。
夏の日。
小さな手。
「海斗おにいさん」
あの声が、聞こえる。
……書かなきゃ。
ぼくは、また、ペンを、にぎった。
***
遠征先の、小さなホテル。
机に、向かう。
窓の外には、知らない町。
知らない空。
でも。
紙の向こうには。
知っている人が、いる。
「
「しあいで、とおくに、行ってた」
「
「でも、ぼくは、げんき」
「ちゃんと、走ってる」
書き終わると。
ぼくは、そっと、ふうとうを、とじた。
また。
海を、こえていく。
◆◇
——菜々子
あ
お返事が、こなかった。
いつもなら。
そろそろ、とどくころ。
1週間
二週間。
ポストを。
何度も、のぞいた。
からっぽ。
わたしは、すこし、こわくなった。
海
もう、おとなに、なっちゃったのかな。
わたし。
ちいさいから。
わすれられちゃったのかな。
胸が。
きゅっ、と、なった。
でも。
……ううん。
ちがう。
わたしは、首を、ふった。
二階へ、あがる。
机の、ひきだし。
ノートを、ひらく。
表紙には。
「ななちゃんの、しょうにん」
わたしは。
しょうにん。
見ててあげる人。
見ててあげる人が。
さきに、あきらめちゃ。
だめだ。
えんぴつを、持つ。
今日、思ったことを、書く。
海斗
いま。
走ってる。
遠くで。
寒いところで。
わたしには、見えない。
でも。
書けば。
見える気が、した。
会えなくても。
手紙が、こなくても。
わたしは。
書くことで。
見ていられる。
***
三週間目。
ポストが。
かたん、と、鳴った。
走っていく。
白い、ふうとう。
いつもより。
すこし、よごれていた。
遠い国を。
いっぱい、旅してきた、みたいだった。
わたしは。
急いで、あける。
「ごめん」
「しあいで、とおくに、行ってた」
「手紙、おそくなった」
「でも」
「ぼくは、げんき」
「ちゃんと、走ってる」
わたしは。
ほっと、息を、ついた。
それから。
くすっ、と、笑った。
なんだ。
わすれてなんか、いなかった。
わたしは。
新しい便せんを、出した。
「おそくても、いいよ」
「わたし」
「まつの、とくいだから」
「ぜったい、見てるから」
書いて。
折って。
ふうとうへ、入れる。
ポストへ。
かたん。
今日も。
あの日と、おなじ音が、した。
***
季節が。
いくつも、すぎた。
夏が、来て。
冬が、来て。
また、夏。
わたしの、漢字は。
少しずつ、ふえた。
海斗おにいさんの、ドイツ語も。
少しずつ、ふえていった。
手紙は。
海
行って。
帰って。
また、行く。
そのたびに。
わたしたちは。
少しずつ。
大きく、なっていった。
会わないまま。
海を、へだてたまま。
それでも。
一枚、一枚の、手紙が。
二人を、つないでいた。
窓の外。
飛行機雲が、一本。
西の空へ。
まっすぐ、のびていた。
海斗おにいさんの、いる方へ。
7年。
まだ。
とちゅう。
わたしは、今日も。
手紙を、ポストへ、入れる。
かたん。
あの日と。
おなじ音だった。
わたしは、今日も。
見ている。
見ていてくれる人がいる。それだけで、人は前を向ける。




