表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界一のストライカー【見て書いてきた少女】  作者: K3


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/43

第12話「海を、わたる手紙」(前編)

海を越えて届くのは、手紙だけじゃなかった。

海斗おにいさんから、二通目のお返事が来た。


 1つ


 ふうとうが、すこし、ふくらんでいた。


 わたしは、お店の奥で、そっと、あけた。


 ドイツの、こと。


 チームの、こと。


 さむい、こと。


 いっぱい、書いてあった。


 そして、いちばん、さいごに。


 毎晩。


 となりの部屋から、ピアノの音が、聞こえる。


 同じ


 毎日、つっかえる。


 でも。


 次の日には、昨日より、少しだけ、先まで、弾けるように、なっている。


 へたくそだけど。


 きいていると。


 ぼくも、がんばろう、って、思う。


 いつか。


 ななちゃんの、ふえも、きいてみたい。


 わたしは、その言葉を、なんども、読んだ。


 ふえ。


 わたしの、ふえ。


 海斗おにいさんが、きいてみたい、って。


 むねの、おくが、ぽっと、あつくなった。


 でも。


 よろこんでばかり、いられなかった。


 手紙には、漢字が、いっぱい、あった。


 わたしの、知らない漢字。


 黒くて、四角い、字。


 くやしい。


 海斗おにいさんが、せっかく、書いてくれたのに。


 わたしは、ぜんぶを、ひとりで、読めない。


 わたしは、ひきだしから、漢字のドリルを、出した。


 知らない字を、ひとつずつ、さがす。


 見つけて。


 ゆびで、なぞって。


 声に、出して。


 おぼえる。


 時間が、かかった。


 でも。


 いやじゃ、なかった。


 これは、宿題じゃ、ない。


 海斗おにいさんを、読むための、れんしゅう。


 ぜんぶ、読めたとき。


 手紙が、はじめて、ぜんぶ、わたしのものに、なった。


 お母さんの声じゃ、なくて。


 わたしの、目で。


    ***


お返事を、書いた。


 ひらがなが、まだ、多い。


 でも。


 おぼえたての漢字を、すこし、まぜた。


 「ふえ、まいにち、ふいてる」


 「


 「ドイツのことば、おぼえてる?」


 「わたしも、漢字、おぼえてるよ」


 書いて。


 読みかえして。


 まがった字を、消して。


 また、書く。


 いちばん、ていねいに。


 海斗おにいさんが、ひとりで、読めるように。


 ポストへ、入れた。


 かたん。


 小さな音が、した。


 神棚へ、おまいりした日の、柏手に。


 どこか、にていた。


    ◆◇



寮に、手紙が、とどく日は、すぐに、わかる。


 朝。


 ドアの下に、白い、ふうとうが、すべりこんでいる。


 日本の、切手。


 ななちゃんの、字。


 ぼくは、それを、ひろって、ベッドへ、座った。


 ドイツの朝は、まだ、暗い。


 でも。


 その白い、ふうとうだけは、あかるく、見えた。


 封を、あける。


 ひらがなが、いっぱい。


 ところどころに、漢字。


 まえより、ふえている。


 「気」の字が、まがって、いない。


 ぼくの手紙を、ひとりで、読むために。


 この子は。


 知る


 海の、向こうで。


 ……ぼくも、やらなきゃ。


 ぼくは、ドイツ語の、ノートを、ひらいた。


 ピッチの外でも。


 ことばに、ぶつかるって、決めたんだ。


 ロッカーで。


 おぼえたての、単語を、ひとつ、言ってみる。


 みんなが、笑った。


 でも。


 ばかにする、笑いじゃ、なかった。


 「カイト!」


 「いま、なんて、言った?」


 肩を、ぽん、と、たたかれる。


 学校では。


 返事だけで、一日が、終わることも、あった。


 だから。


 だれかが、ぼくの言葉に、返事を、くれた。


 それだけで。


 うれしかった。


 その夜。


 ぼくは、ななちゃんへ、手紙を、書いた。


 「きょう、ドイツ語、しゃべった」


 「ひとつだけ。へただったけど」


 「みんな、笑った。でも、いやな笑いじゃ、なかった」


 書きながら、気づく。


 ぼくは、口べただ。


 でも。


 手紙なら、しゃべれる。


 言える。


 この、一枚の紙の上では。

言葉は、少しずつ、人を遠くまで運んでくれる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ