第九話 ハロウィンの亡霊
1
本日2026年10月31日土曜日、この町のとある公園でハロウィンイベントが開催される。16時30分、会場には実に2万人もの人が集まっていた。
花音「誰も考えていないでしょうね。『ここがテロの現場になるかも』なんて…」
尚人「一応警備は増えてるな。だが、大半はおそらく普通の警備員。祓魔師は…隠れてるんだろうな。」
そんな中彼らは、この場所で渦巻く陰謀を阻止するため、少し離れた場所で、人混みに流されないように会場を観察していた。
花音「陽陰さん、私たちは何を…あれ?」
尚人「天掴…どこ行った?」
先程まで花音と尚人の後ろにいたはずの少年…天掴陽陰は、いつの間にかどこかへ消えてしまっていた。
2
市内のとある立ち入り禁止の廃ビル。その一角の暗い部屋に、彼はいた。
身長170cm、推定体重83kg。推定年齢は30代〜40代。黒パーカーとジーンズの太った男。フードを被っているため、顔の詳細は判別不能。反射光から、メガネをかけていると断定。ノートパソコンを触っている。画面には、どこかの中継映像が2つ流れている。1つは、イベント会場の生配信。もう1 つは、町の地下貯水池の映像。カメラには、杭に固定され、片側だけが宙に浮く巨大なロープと、複数人の同じ服装の男が映っている。
陽陰「そうか、アンタが主犯か。」
黒い男「なっ、なんだおめぇ!」
後ろから声をかけ、振り向いた瞬間に仕込みカメラで顔写真撮影。
陽陰「しかし何でこんなことするんだ?そんなに日本が不満か?主観だけど世界的には良い国だと思うが?」
黒い男「俺みてえなやつがたくさんいるような国が良い国だと!?てめぇふざけてんじゃねえ!」
思い出した。この男の名は岡田健。数年前に監禁事件で捕まった前科持ちの自称無職の男。「金持ちにむかついたから」といって女学生を監禁して3時間立てこもって、警察の突入で呆気なく捕まったやつだ。
黒い男「こんな簡単に壊せちまう国、俺がぶっ壊してやんよ!」
"今、決戦の火蓋が切られる…!"(陽陰が始めてプレイした数十年物のゲームのナレーション)
…などと頭の中でモチベーションを上げて約15秒後、
陽陰「…なんか、その…かわいそうになるくらい…弱かった。」
自称貧弱な陽陰がちょっと小突いただけで倒れてしまった。現在頭を打って失神中。縄で縛ったので警察に通報して撤退した。
なお、急に「テロリストを捕まえた」なんて言っても困らせるだけなので、名目上「話しかけたら殴りかかられたので捕まえた」ことにしている。
3
陽陰は男を捕まえた後、公園の2人の元に戻ってきた。
尚人「天掴!どこ行ってたんだ?」
陽陰「指示役捕まえてきた。というかほぼ主犯。」
花音「仕事が早いのね…」
ちゃんと何をしていたか話すとドン引かれるので、今回は話さないことにした。なお、花音は何をしてたかだいたい察したので、顔に出さないが引いている。
陽陰「それと、物の怪の場所が分かった。」
尚人「マジか!」
花音「どこなの?」
陽陰「この真下。」
長いようで一瞬の沈黙。
花音&尚人「はぁ!?」
そう、先程の映像の地下貯水池は、イベント会場のあるこの公園の直下30m地点に存在する。
陽陰「アレだけ大きければ、30mのコンクリート程度、すぐに砕いてくるかも。もういつ来るか分かんないな。」
尚人「うおマジかよ!?」
花音「え…え!?どどどうするの!?」
陽陰「…どうしよう」
花音&尚人「えええええええ!?」
陽陰も肝心の対物の怪作戦は、まったく考えていなかった。なんせ明らかに専門外である。
陽陰「とりあえず、人の避難だな。爆竹でも花火でも使って、人を逃がそう。」
尚人「ためらいもクソもねえ…」
花音「これが合理主義の結末ですか…」
陽陰「なんか花音さんからはあんまり聞きたくない言葉が…」
そんなこんなで、人々の安全のため、そしてこの国、ひいては世界のため、3人の高校生による非人道的大作戦が始まる…
4
17時55分。いよいよ今イベントのメインステージで、ビッグライブが始まろうとしていたその時、
スタッフ「うわあああああああ!!」
ステージ裏から、悲鳴が聞こえた。
警備員が現場に駆けつける。当然、それに紛れて祓魔師も駆けつけていた。
スタッフ「ば、爆弾です!タイマーがついていて、あと10分でこの公園一帯を爆破するといった内容のメモがついてます!」
警備員「皆は観客の避難を!!私はこの爆弾を調べます!」
指示がすぐ通り、観客はすぐに避難誘導させられた。
警備員(幸い、ここは警察署が近い。爆発物処理班の応援が来れば…!?)
警備員はタイマーのシステムに驚いた。
液晶画面に、パスワードを打ち込む欄があり、キーボードが設置されている。しかも、電源キーを押しても反応はなんと電源キーのイラストが打ち込まれるだけ。全てのキーが、パスワードの選択肢の1つということになる。
警備員(これは…厄介そうだな…!)
その光景を少し観察してから、ステージ裏にある地下階段を下る人影が3人。
花音「こんなことして大丈夫なの…!?」
陽陰「大丈夫大丈夫。パスワード解除を死ぬほど手間取らせるだけだから」
尚人「下手に分解したら吹っ飛ぶようにしたが…?」
陽陰「ふっふっふ。いいか?爆発物処理班って、爆弾分解したり、タイマー止めたりする刑事ドラマとかのイメージあるけどな、基本冷却処理してから安全に爆破させんだよ。」
花音「だから小型化して、冷却したらタイマーをあえて止めるシステムに…」
尚人「性格悪い…」
しかも、冷却処理したらいいのがプロにはすぐ分かり、素人にはてんで分からないよう、上手く細工してある、ある意味極悪爆弾である。
花音「でも、万が一爆発したら…?」
陽陰「どうせ威力は百均の花火だし、ちょっとヤケドしたりびっくりするだけだ。」
尚人「なんてやつだ…」
だんだん自分の評価が落ちてきている気がしてきたので、陽陰は会話をやめ、作戦に専念することにした。
ちなみに作戦というのは、地上で騒ぎを起こして市民を避難させ、その間に地下の黒服を制圧するというものである。黒服を制圧して物の怪が解放されなければそのまま地下で処理。解放されても、地上は避難済みなので祓魔師のバトルが民衆を巻き込むこともなく、認識阻害でどうにかなる。ちなみに地上の祓魔師十数名には共有済みである。
尚人「構造に間違いがなけりゃもうすく最下層だ。」
陽陰「さてデカブツはいかなるビジュアルか…!?」
…そこには、先日の牢屋よりも遥かに巨大な骸骨が、縄で縛られていた。
5
陽陰「___何だこりゃ…」
尚人「…餓者髑髏か。」
餓者髑髏。戦死者や餓死者など、埋葬されなかった人間の骨や怨念が、1つの巨大な骸骨の姿になったという怪物。文献によっては、天を突き抜けるほど巨大だという。
陽陰「ここもかなり広いはずだが、それでもサイズギリギリか…」
花音「外に出したら大変…」
尚人「餓者髑髏は、時間経過で遠くの怨念を集めるらしい。地下深くに閉じこめれば、周りに人はいないから、確かに合理的だ。」
陽陰「地下に閉じ込めてこれだと、最大はこれじゃあ済まないな。早くしないと。」
黒服の男たちは、まだ陽陰達に気づいていない。というか、なぜか動かない。
黒服「がぁっ…」
突如、一人の黒服が声を出し、倒れた。すると、他の黒服たちも一斉に倒れてしまった。
三人「なっ…!?」
見ると、餓者髑髏の前に一人の少女が立っていた。薄い黄色のワンピースに、白い肌、白髪のボブカットに、異形の右腕。
みつは「…陽陰くんかぁ。下がっててね。」
そこには、一人のカミノコがいた。




