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第八話 考察

1


現在、街中でちょっとしたチェイスが起きている。なお、この感じだとすぐ追いつかれそうだ。


尚人「待ってくれ、天掴!!」

陽陰「なんでだよ!待つか!」


陽陰は中高ずっと帰宅部で、その上不登校で外もそうそう出歩かないので、普通に学校に通い、何なら陸上部の主戦力である尚人にはスピードも体力も全く敵わないのだ。むしろ何故陽陰は普通に逃げるのか。人混みの中を駆け抜けて身を隠せばいいものを。


陽陰「ゼェ…ゼェ…あ゙あ゙…もうむり…」


結果…陽陰の負け。家の前に先回りされた。しかも陽陰の体力は限界突破中。顔色が悪く吐きかねない。


尚人「…天掴、とりあえず…家入ろうか…」


逃げてた相手に心配されてしまった。


2


しばらくして落ち着いてから、陽陰はテーブルで尚人と向かい合わせになった(結局吐いた)。


陽陰「何の話だよ。僕だって忙しいんだけど…」


尚人「すまん、時間取らせて。でも、なんとしても天掴と話さなきゃいけない。」


かなり嫌な態度をとる陽陰に対し、尚人はかなり真摯な向き合い方をしている。


尚人「9月の半ば頃かな、"カミノコ"を名乗る人?女性?に会ったんだ。」


陽陰(9月中旬…僕が"忘却"を受けた頃か…あれ?)


陽陰は忘れていなかった。「とある霊感持ちの人と陽陰くんとの関係を相談して…」という、"忘却"解除直後のみつはとの会話を。陽陰は最初、花音だと思っていたが、それだと言い方がおかしい。となると、みつはが相談していたのは…


陽陰「…なるほど、そういうことか…。」


尚人「それで、その人の話でお前のことを聞いて、その…」


陽陰「?」


この続きが出てこない。尚人だってこのあと言うべき結論は分かっている。だが、つなぎ方が分からなかった。


陽陰「言いたいことは分かった。比留川は、後悔してたんだな。」


陽陰の察しのおかげで、尚人は続きの言い方が分かった。


尚人「そりゃあ、するさ。後悔の、1つや2つ。だから…えっと…謝りに、来たんだ。」


陽陰「別に良いよ、もう今更だし。」


尚人「!?」


あまりにもしれっと陽陰が「もう良いよ」と言うので、尚人はそんなに関わってほしくないのかと思ってしまったが、陽陰はむしろ真逆の意味で言っていた。


陽陰「ああいうことがあったから人生経験できたわけだし、友達もできた。その経験が、人の助けにもなった。決して良くないことだとは思うよ。でも自分は、今ではああいうことでもあって良かったと思うし、もう気にしてない。だから、もう良いよ、比留川。」


中学の頃の出来事を陽陰はとっくに乗り越えていたのだ。そのことに気づいた尚人は、静かに泣き出してしまった。


陽陰「比留川!?どうした?」


尚人「なんでもない。ただ、今日気づけてよかったって思っただけだ。」 


3


この後、陽陰と尚人は、好きなゲームが同じということが判明し、夜遅くまで二人でゲームをしていた。もう遺恨もなく、完全に仲直りできていた。


陽陰「そういや比留川、みつはさん…"カミノコ"を名乗った人って、あれから見かけたか?」


尚人「いや、会ってないし、見かけてもない。なにかあったのか?」


陽陰「実は…」


そこで、陽陰は自分を取り巻く現状を説明した。


尚人「…消される…!?やっぱりまだ怒ってたか天掴!?」


陽陰「あごめんそんなつもりまったくなかった」


しれっと「国家機密」「テロ予告」みたいなワードが出てきたせいで、ときどき尚人がビビりつつも説明しきった。


尚人「テロ、か。俺はその、2つの可能性、両方だと思うけどな。」


陽陰「どういうことだ?」


尚人「だって、国家機密の組織を引っ張り出すなら、わかりやすく民衆の前で晒し上げるのが手っ取り早いだろ。しかも出動条件はシンプルだ。だとしたら、その祓魔師のことを主張するために、物の怪を使うのは一番わかりやすいだろ。」


陽陰はコントローラーを落として立ち上がった。陽陰も花音も、その可能性は全く考えの外だったのだ。故に、議論に両方なんていう言葉は出てこなかった。

それから、みつはがいないことに、ある言葉が引っかかった。


陽陰「…ある儀式?」


記憶復活直前、リンがみつはの過去について話していた時に出てきた言葉。

みつはの父親の故郷で、ある儀式が行われていたという話だ。

ではその儀式とは?目的は?場所は?儀式が行われなくなった影響は?みつはがいない今、彼女の足取りを追う手がかりは?

陽陰は、リンからこのことを伝えられたことには、今回の件に関わる重要な意味があるのではないかと直感的に感じていた。


尚人「ちょっと待て、何の話だ?儀式ってなんだ、天掴?」


陽陰は素早くスマホを取って花音に電話した。


花音「陽陰さんですかー?こんな遅くになんですかー?」


陽陰「花音さん、明日、奈良県吉野郡東吉野村に行きます。」


花音&尚人「…え?どこって?」


4


翌日の昼、陽陰は紆余曲折あって花音、尚人と三人で奈良県吉野郡東吉野村のとある神社に来ていた。


花音「休憩、しましょう、疲れた…」


陽陰「でも、急が、ないと、泊まる、わけにも、いかないし…」


尚人「無理あるって…」


疲労は無理もない。まず名古屋駅まで地下鉄を駆使して移動、JR関西本線で三重県伊賀市伊賀上野駅まで行き、そこでタクシーを拾って1時間15分。いくら乗り物に乗っていただけとはいえ、疲れるものは疲れる。

現に、「急ぐ」と言う陽陰もとっくに満身創痍である。


花音「これ帰れるんですか…?」


陽陰「迎えをタクシーアプリで呼べば…」


尚人「金持ちか…」


陽陰は実はなかなかの金持ちである。それはさておき、三人はとりあえず、影に座って休憩することにした。


尚人「で、そろそろ何でこんなとこまで来たのか聞いていいか?時間ねえのに…」


陽陰「それは…」


学校の机を漁っていた時、しれっとみつはの父親の名前を確認していた。水乃太郎、享年38歳。表向きには建築会社の社長をしていた。その会社を調べて、プロフィールを確認したところ、この村が故郷だということが判明した。

ちなみにこの話の間、花音と尚人はドン引きしていた。

さらに、この村にはとある大きな神社がある。


陽陰「丹生川上神社。中社では日本神話の水神、『ミヅハノメ』を祀っている神社だ。」


花音「ミヅハノメ…?って…?」


尚人「日本神話に登場する水の神様だ。古事記ではミヅハノメノカミと、そして日本書紀では…あ!」


陽陰「そう、ミツハノメノカミ。だからじゃないのかな、みつはさんが『みつは』を名乗っていたのは。」


5


神社は数年前から封鎖されており、誰も入れないよう、テープと柵がそこら中にあった。


陽陰「というか、見た目は入れそうだけどこれって…」


尚人「たぶん結界、だよな…」


雑だが人避けの結界が張ってあった。おそらく自分から行こうと思わないようにするためのものなので、気づいてしまえば問題ないらしい。


陽陰「というか比留川、詳しいな。お前、もしかして、祓魔師の一族とか?」


尚人「聞くと親父がだんまりするから確証はないけど多分そう。自分も独学で術使えるし。誰も教えてくれないから、雑魚いのしか倒せないけど」


陽陰「倒せないよりマシでは…」


ところどころ道に古い血の跡がついており、ときどき花音が吐いてしまい、結局陽陰が1人で本堂の裏の事件現場に行くことになった。


陽陰「ここか…」


儀式の場所。方陣が描かれており、本当はここで儀式をするはずだったと考えられる。部屋は奥に続いており、暗い地下へと階段が伸びている。


陽陰「何だ、ここ…」


階段を降りた先には、不思議な装飾が施された巨大な牢屋があった。横幅と高さは約20m、奥行きはおそらくその倍。牢屋の床には先程の儀式の方陣が数倍の大きさで描かれている。


陽陰「こんなに巨大な牢屋、何を閉じ込めて…っ!?」


牢屋の中に、先日出現した狂骨が数体いた。

出てくることはなさそうだが、これは先の電車騒動と関わりがありそうだ。


近くの机に資料を見つけた。その資料の日本語は古語で、陽陰が解読するには難しかったが、絵図の内容的には「狂骨の親玉のようなものを、生贄を用いて神の力で封印する」といった内容と考えられる。


ちなみに、その資料にはしれっと日本史を揺るがす内容が書かれているのだが、当然陽陰には読めない。


陽陰は早歩きで地上まで戻りながら思案した。


陽陰(儀式が頓挫した今、物の怪は外界に出ているはず。みつはさんがいないのは、彼女が儀式を頓挫させたせいで外界に出た物の怪を始末するため…?ではなぜ今…電車騒動が事態を判明させた…?

それに、犯行グループが駅前広場を攻撃すると言った理由は?人が集まらなくなるテロ予告なんてことは何のために?予告自体が嘘か?

いや、少なくともテロ予告は本物だ。嘘があるなら、犯行現場。もし2つの出来事に関係があるのなら犯人は、巨大な物の怪を顕現させてテロを起こすということになる。

確定ではないが、こうもきれいに情報が集まると、当然その可能性が浮上する。それに、テロの処理なら自衛隊を動かすべきだ。わざわざ祓魔師を動かすのなら、テロには物の怪か祓魔師が関わっている可能性が高い。

もしあの牢屋にいた物の怪を暴れさせるのだとすると、人が密集していて、広い場所ならどこでも良いのかもしれない。あの街にそこまで広く、人の集まる場所なんてのは2ヶ所しかない。駅前広場か、あるいは…)


陽陰は地上で花音たちと合流した後、帰りのタクシーを呼び、なんとか日帰りで家に着いた。

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