第七話 不穏の始まり
1
少年…天掴陽陰は、今日も一人で学校に行く。ついこの間のテストの時、『学校なんてこんなものか』と思えたからである。何より、彼には学校の友達ができた。これらの要因で、学校に行くことへの抵抗は少しずつ減っていった。
だが、彼には少し、いやかなり気になることがある。
陽陰「___最近、みつはさんを見かけないんだ。」
ちなみに彼の言う「最近」は1ヶ月程である。その間、街で会うこともなく、メールは未読、紹介されたマンションに行っても応答がない。マンションの管理人に聞くと、少なくとも半月前から留守かもしれないという。だが、何の説明もなく、突然いなくなった感じなので、陽陰は少し心配になっていた。
花音「なにか心当たりはないの?陽陰さん。」
鈴希花音。彼女もみつはを覚えている者の一人だ。みつはの権能は一度破られると2度目は効かないらしく、陽陰が彼女にかかった"忘却"を破ったため、みつはを覚えている。
陽陰「何もない。今の彼女を知っている人はあと…」
そこで陽陰は、ある発想に至った。
陽陰「花音さん、学校終わったらちょっと付き合って!」
花音「っっ!!?は、ひゃい!?」
かなり早口で、誤解を招きかねない言い方をしたため、意味を理解していても花音はパニックになった。と同時に、教室の全員が誤解した。後に黒歴史になる。
2
放課後、陽陰と花音はとある廃校の職員室を訪れた。
陽陰「ここになんかあるかな…?」
陽陰は何の躊躇もなく、明らかに個人情報の残されたテーブルをあさる。ちなみに横で花音がドン引きしている。
リン「何をしているかは後で追及するとして、君が会いたかったのは私でしょ?何の用?」
音沙汰もなく、廊下からリンが入ってきた。陽陰はそれを確認してから、引き出しを閉め、椅子から立ち上がった。
陽陰「良かった、来てくれた。実は、みつはさんの事なんですけど…」
リン「みっちゃんなら知らない。むしろそれが聞けると思ってあなたに誘い出されてみたの。」
とんだ無駄骨だったらしい。ちなみに横で花音がドン引きしつつ困惑している。
リン「ただ、みっちゃんの行方と関係があるかは知らないけど、市内でテロ予告が出されているの。ハロウィンのどさくさに紛れて、大勢の人を殺すっていう。」
2026年10月31日土曜日のハロウィンまであと8日。警察は総力を上げて捜査しているとの事。当日、駅前広場は夕方6時には閉鎖するという。
ちなみに祓魔師の組合は公安警察の機密機関で、世に出たら戦争になりかねないこともたまにしているので名前すら口外したら「今度は記憶だけでは済まない」らしい。
リン「何があるか分からないから、ハロウィンの駅周辺は気をつけてね。」
そう言って、リンは立ち去ってしまった。
3
花音「…絶対何か関係あるよねこれ」
リンと話した陽陰と花音は、校内を回りつつこれまでのことを整理していた。
陽陰「ハロウィンにテロ予告、つきまとってくるレベルでいつもいるカミノコ行方不明、しかもリンさんがテロのことを知ってるってことは祓魔師もテロ対策に動いてる。つまり…」
陽陰の思考が停止した。嫌なものを見た気がしたからだ。しかし、店の中に知っている人はいない。店の外にも、見知らぬジャージの高校生が数人歩いているだけだ。
花音「陽陰さん、2通りじゃない?」
花音に思考を引き戻された陽陰だったが、この言葉の意味が分からなかった。
陽陰「…2通り?」
花音「そう、テロの背景は2通り。」
そう言うと、花音は自身のバッグからノートパソコンを出し、とてつもない速度でパスワードを解いた。
陽陰「…今の何文字?」
花音「半角英数字だけで128文字。覚えたら意外と簡単だよ?」
冗談じゃない。パスワードに128文字も打っていたら解除だけで数十秒かかる。そもそも128文字のパスワードを覚えられるのか…?
陽陰「花音さんはタイピングマスターだ…」
花音「タイピングだけできても意味ないけどね…」
そういう間に、花音はノートパソコンでスライドを作り始めた。
花音「今分かってることが陽陰さんがさっき言ってくれたことで…」
手を動かしながら会話を進める。パソコンの扱いにかなり慣れているようだ。なお、陽陰は少しかじった程度なので、「すごい」ぐらいにしか分からない。
花音「それで、今分かってることを組み合わせて見えてくるこの事件の背景は主に2通り。」
花音が陽陰にパソコンの画面を覗きに来るよう誘導する。陽陰が来たところで、説明再開。
花音「1つ目、テロは物の怪を利用したり、権能とかで攻撃する可能性が高いという可能性。」
陽陰「まあ普通そうだな。祓魔師が動いてる以上、祓魔師が対処すべき問題ということになるだろうからな。」
そう言ってスライドに字を打ち込む。やはり速い。速すぎる。
花音「で、2つ目なんだけど…これ言っちゃっていいやつかな…」
ここにきて花音が躊躇し始めた。だが、
陽陰「別に大丈夫でしょ、2つ目って何?」
陽陰はいろんなことに本当に躊躇がなかった。
花音「えっと…じゃあ2つ目、あんまり考えたくないけど…」
少し間を置いて、やがて心の中で「腹をくくれ私!!」と言って、花音が話し始める。
花音「…テロ組織の要求が、祓魔師に関わるものの可能性。」
4
陽陰は今、帰りの電車に乗っていた。
花音の言う、「2通りのテロの背景」。その2つ目、「テロ組織の要求が、祓魔師に関わるものの可能性」に、なにか引っかかった。
確かに、国の機密機関なんて、国民にバレただけで政府の信用は地に落ちる。そうなったら日本国は終わる。それをたまたま知ってしまった過激派の誰かが、テロを使って訴えようとしている。一応辻褄は合う。ありえない話でもない。実際、テロ組織がテロを行う理由は基本、その国の政府に強く何かを訴えるためだ。
「何だ、この感じ…何が、納得できないんだ、僕は…?」
「何か」が納得できない。だがその「何か」が分からない。何かを見落としたのか、あるいはまだ知らないのか…
???「あっ…もしかして…天掴、か?」
横から急に話しかけられ、意識が現実に引き戻される。横には、見覚えのある顔の男子高校生がこっちを見ていた。
陽陰「っ、比留川…」
比留川尚人、中学時代のクラスメイト。彼をいじめていた中の一人だ。
少しずつ、陽陰が座ったまま遠くへ移動し、それを同じように尚人がある程度距離を保ったまま追いかける。
車内アナウンス『ご乗車いただき、ありがとうございます。次は…』
電車が減速し始めて駅に停車した。と、同時に、
尚人「あっおいちょっとまてー!」
陽陰は全力で走って逃げた。
5
話は遡り、これは1年と少し前の出来事…
少年「おらっ!」
少年「お前も人殺すんだろ天掴!」
少年「なんか言えよ!」
この中学校は決して頭が悪いわけではないのだが、素行不良の生徒が多い学校だった。優等生なんていない。勉強さえできれば人を殴っても良い。みたいな価値観のヤツしかいないからだ。
少年「なぁ比留川、お前もなんか言ってやれよ。」
少年「そうだなぁ、惨めな天掴くんになんか言ってやろうぜ!」
汚い笑い声だ。と、いつも思う。でも、こいつらがこの学校における優等生だ。勉強だけは一流の、最低のクズ。
この後の展開を俺は一生忘れない。なぜなら、このあと俺は…
一緒になっていじめて、あいつらと同じ最低のクズになって、天掴の心にトドメを刺したからだ。




