第六話 再始動
1
この暗く小さな部屋で、少年…天掴陽陰は毎日を無気力に過ごしている。ゲームをして、動画を見て、漫画を読んで、たまに外出して、必要分だけ勉強して、同じ日々を繰り返す。
___このままでいいのか?
記憶が消失して3日。陽陰はテストが終わった後のシルバーウィークを過ごしている。
陽陰「…電話?」
スマホが振動していることに気づいた陽陰はスマホを手に取り電話に出る。
花音「えっと、もしもし?天掴さん?私、花音ですけど」
陽陰「名字長いし、好きに呼んでいいよ、花音さん。」
花音「えっと、じゃあ陽陰さん。この前の事なんですけど、陽陰さんに誰か紹介された気がするんですけど覚えてなくて、物の怪とか、カミノコの話をしたのは覚えてるんですけど…」
"誰か" "物の怪" "カミノコ"…
繰り返される覚えていないのに聞き覚えのある言葉。忘却の権能は、権能者本人との記憶の断片に触れることで少しづつ解除される。
陽陰(そうだ…僕は誰かを、大事な誰かを、忘れちゃいけない誰かを忘れているんだ!)
花音「それで陽陰さん、陽陰さんは何か…陽陰さん?あの、もしもし___」
花音の声が届く前に、電話が切られた。
陽陰は急いで着替え、家から飛び出す。
陽陰(思い出してきた…まず、ここ…___っ!?)
家の前の公園に駆け込む。すると、初めて会った日の記憶がうっすらと戻ってきた。
陽陰(そうか、"あの人"と関係のあることに触れると記憶が戻るのか…!なら!)
2
そこからは語るまでも無く、様々な場所を巡った。最初に会った日に通った道、最初に会った場所、様々なことを話したカフェ、テストの日に会った教室、飛び降りた屋上、花音と"あの人"が会った学校の中庭、最後に"あの人"と別れた駅前、その他多くの場所…。
3
陽陰「なんでだよ、まだ思い出せない…!?」
芋づる式に思い出したことから、新たなことを思い出すために様々な場所に行った満身創痍の陽陰は、現在電車の中で、まだ"彼女"を思い出せずにいた。
陽陰(落ち着け…今思い出したことは、関係のある場所、その場所に関わる思い出、本人が女性ということ…駄目だ、決定打になる何かが無い…)
"彼女"の権能は神性が落ちた陽陰に簡単に破れるものではなかった。
陽陰「何が足りない…?」
陽陰には見つけられない何かを探して時間が経過する。
気づけば、陽陰は電車に乗って知らない町に来ていた。どうやら、疲れて降りる駅を間違えたらしい。
今日、元の方向へ戻る電車はもうないらしいので、電話して迎えに来てもらうか、駅員さんに相談するか、夜行バスでもあれば乗るか、もしくは…
陽陰「…あれ、ここって…?」
そこはかつて"彼女"との会話に出てきた"彼女"の故郷だという場所。
陽陰「…行ってみるか。」
4
普通の地方都市。陽陰はそんな印象を受ける町をしばらく歩いていた。
記憶の復元には全く関係のないことだが、どうしてかこうしていたいと思っていた。
駅から10分弱だろうか、陽陰はとある廃校にたどり着いた。
陽陰「なんだろう、ここ…」
不気味な雰囲気を感じたが、おそるおそる突入する。中はそれなりの間放置されていたようで、壁や黒板、天井などはときどき穴が空いていた。窓に至ってはほぼ割れており、教室内には鳥の巣が作られる始末であった。
突然終わりをむかえたように、教室の中にはまだ教科書や個人的な物品まで残されていた。その中に、ふと気になる写真と名前があったので、写真を回収し、心の片隅に置いておくことにした。
陽陰は3階突き当たりの音楽室を訪れた。ここには何故か、廃校なのにグランドピアノすら残されていた。誰もいない深夜の音楽室からは、気味の悪い雰囲気を感じた。
既に深夜2時を回り、町からはほとんどの明かりが消えていた。
陽陰「気味悪ぅ…帰ろ___っ!?」
帰ろうとした瞬間、陽陰はふらついて前に倒れた。
誰もいないはずの音楽室で、しかし何故か未だにグランドピアノが響いている。否、グランドピアノを誰かが弾いているのである。
聞いたことのない短調のクラシック。突如、目の前に黒い服の幽霊が現れた。貴族風の見た目なのと、見覚えが少しあったので、肖像画の人物が動き出した物の怪といったところか。これが命の危機でなければ「"物の怪"なのに西洋を使うな!」とかツッコんでいたところだが、もはやそんな余裕はない。物の怪は陽陰に近づき、そして…
???「あいも変わらず首突っ込んじゃって、私の努力を返してほしいね、まったく。」
スーツ姿の女性…リンに物の怪は撃ち抜かれていた。
5
今回の物の怪…"音楽室の七不思議"はかなり弱かったらしく、拳銃一発を腕に当てるだけで消えてしまった。
リン「うっわぁー、まじか?腕の痛みで耐えれなくなって消えた?まじか…」
撃った本人も驚愕の弱さらしい。
リン「で、君は何でいるわけ?記憶消したよね?」
そこで、陽陰は彼女に権能の破り方などを話した。
リン「そう、関係のある記憶、ね…それで、もうほぼ思い出してしまったと。しかもあろうことか自力で。」
陽陰が小さく頷く。
リン「…私が知ってるあの子はね、10年前のある日、突然亡くなったの。遺体の行方は不明。彼女が亡くなったとされる場所の周辺に、20人から30人の大人の遺体があって、周辺の廃神社の奥で、大量の血痕が見つかった。その血痕が彼女のものだと分かったの。後に資料が見つかって、あの子はある儀式のために殺された可能性が高いことが分かった。当時彼女は15歳で、物の怪どころか超常が存在することすら知らなかったのにね。」
陽陰「…どういうことですか?」
突如として"彼女"の過去を話しだしたリンに、陽陰が問う。
リン「別に何をしてほしいってわけじゃない。でも、あなたには知っておいてほしいの。今、最もあの子のことを考えてくれるあなたに、あの子がどんな人生を辿ってきたのか。そして、あなたにはきっと、何かがある。その時に、役に立つように。」
まだ陽陰には何のことか分からないが、リンが話し続ける。
り「あなたの記憶を封じさせたのは私。戻ってきた以上、意味もないので、封じた記憶を戻します。あの子を、みっちゃんを頼んだよ。」
こうして、陽陰の視界は再び暗転した。
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リン「これで良いんだよね、みっちゃん。」
陽陰が倒れてすぐ、その側でリンが話しかける。
みつは「リンちゃんこそ、良かったの?リンちゃんは祓魔師で…」
横でみつはが聞き返す。既に明るくなってきた教室の中で、再び祓魔師とカミノコが相対する。
リン「それはいいの。私の任務は、あなたの正体を探ることだから。ねえ、みっちゃん。今のみっちゃんの名前って、何?」
みつは「…"みつは"。私の名前は、今は"みつは"」
リンは少し考え、その後納得したような顔で「なるほど」と言って、微笑した。
リン「じゃあね、みっちゃん。また、今度。」
みつは「また二人でカラオケ行こ!リンちゃん!」
そして、リンは廊下から出ていき、二人の前から去った。
7
しばらくして、陽陰も目覚めたが、みつはの要望と、陽陰が疲れ切っていたのが原因で、特に「感動の再会」といったシーンにはならなかった。
(ちなみに「みつはの要望」というのは、「恥ずかしいからそうゆうのやめよう!?」というものだった。)
陽陰「それで、みつはさんここ数日何してたんですか?」
カフェに入ってモーニングで朝食を済ませることにした陽陰が、フレンチトーストを頬張りながら聞く。なお、陽陰は昨日昼食と夕食を抜いた。
みつは「リンちゃんたち祓魔師と丸2日バトルしてから講和して、とある霊感持ちの人と陽陰くんとの関係を相談してから、目撃情報を探って陽陰くんを探してたよ?」
陽陰「___えっそれほんとに3日ですか?」
…それ以前に、丸2日も続くバトルとは、とある霊感持ちの人とは、一体どこから入った目撃情報なのだろうか。色々わけがわからず、陽陰は思考を諦めた。
※その後、陽陰の視界は(眠気と疲労と混乱によって)三度、暗転した。




