第十話 水の神と餓者髑髏
1
1ヶ月間行方不明だったカミノコは、公園地下30mの地下貯水池に現れた。
陽陰「みつはさん、なんでここに…?」
みつは「何でもなにも、コレを探してたからね。」
やはりみつはがいなかった理由は、
陽陰「…前の狂骨の親玉であった餓者髑髏を探すため、ですか?」
みつは「…あの列車事故の日、君にわたしが忘れられたあと…」
みつはが陽陰の記憶を消してしまった後、みつはは10年前のある感覚を感じ取っていた。
2
1ヶ月前、街の駅前広場。
みつは『どったの?リンちゃん。今からカラオケ行く?私はいいよ?』
リン『…まあ、そうしようか。防音の部屋ね。』
カラオケボックスの防音個室に入った2人は、飲み物を飲みながら会話していた。
リン『ねえ、みっちゃん。分かる?あの電車の感じ。』
みつは『ごめん、まったくわかんない。』
リン『あの電車に来ていたのは、狂骨だったの。知ってた?』
みつは『!!』
物の怪には、それぞれ性質がある。餓者髑髏という物の怪は、いわば狂骨の集合体のような存在。膨大な量の怨念を抱えている餓者髑髏は、ときどき狂骨を周囲に発生させる。それの群れが、すべて顕現して現れたということは、
みつは『巨大な餓者髑髏…』
リン『あの封印は、ほっといても30年は持つ計算だった。つまり、誰かが封印を解いて、あろうことか市街地に解き放とうとしてる。私たちのデータベース上、これまでの餓者髑髏は、どれだけ大きくても一度に10体以上の狂骨を発生させた事例はない。この意味が、分かるよね。』
歴史上最大の餓者髑髏が、近くにいる。ちなみにデータベース上、過去最大の餓者髑髏は13mで、狂骨の放出は一度に最大7体。一方、今回の餓者髑髏は列車を包囲できるほど大量の狂骨を発生させた。つまり、50体以上の狂骨を発生させている。つまり、最低でも90m級。これは、祓魔師のデータベース上でも、過去最大級の物の怪である。
このあと、みつはは県内のさまざまな場所をほぼ無休で調べ、この場所に辿り着いた。
3
そして、今。地下にリンが駆けつけた。
リン「みっちゃん、1人で無茶しないでって言ったじゃん。」
みつは「あれは私が放ったようなものなんだ。私がなんとかしないと。」
陽陰「何を言っても、やっぱり聞いてくれなくて…」
みつははかなり殺気立っていた。自分が原因のようなものだと考えているから、自分で倒すことで頭がいっぱいなのだ。
みつは「わたしが、やらなきゃ、わたしが、倒さないと、わたしが…」
リン「みっちゃん、ねえ、みっちゃん!!」
倒れていた黒服の1人が餓者髑髏の封印解除装置に手を伸ばす。リンが拳銃を向け、みつはが襲いかかるが、一歩、間に合わなかった。
黒服「クソッ、くたばれ!クズ共!!」
解除装置が起動され、縄が焼け落ち始め、餓者髑髏の意識が覚醒した。
みつは「…ああもぉ!!邪魔しないでよ!!」
みつはが手を伸ばすと、手から水が湧き出て、水鉄砲のように噴出した。ただし威力はかなりあるので、餓者髑髏に激突して弾けた水がコンクリートを破壊している。
リン「『砲』!」
リンが引き金を引いた。銃声と同時に大砲の弾が飛んできて、餓者髑髏の顔面に激突した。だが、餓者髑髏はまるでダメージをうけていないようだ。
リン「みっちゃん、1人で抱え込まないで。友達でしょ?」
みつは「駄目だよ…私が、やらなきゃ、どうするの…?」
みつはは攻撃を中止し、リンを見た。リンも陽陰たちも、みつはを見つめている。
リン「みっちゃん、『私たち』で戦っちゃ、駄目?」
みつはは我に返る。先程までのみつはに、「仲間と戦う」という考えはなかった。だが、仲間はいる。協力しようと言ってくれる。なら、結論なんて簡単じゃないか。
みつは「…私とリンちゃんでこいつを抑えよう。陽陰くんたちは地上の避難と人払いだね。超大役、頼んだ!!」
リン「仲間に認識阻害の結界を張るよう指示して。たぶん聞いてくれるから。あと援軍も欲しいかな。」
三人「了解!」
今、三人から始まったテロ阻止計画は、人員を増やし、比較的順調に進行し、最終段階へと移行した…
4
先程慎重に降りた階段を、今度は走って駆け上る。地下30mから一気に地上へ、陽陰たちはひたすら走った。
祓魔師「あ、君は!この地響きは?」
階段を登りきったところに、警備の祓魔師のリーダーがいた。
陽陰「全部説明する暇がありません。この下にいる餓者髑髏が解放されました。一般人の最も遠くへの避難と、祓魔師の増援と、それから認識阻害の結界を。」
祓魔師「わかった。結界はどのくらいだ?」
尚人「90m級の物の怪と戦う前提で。」
祓魔師は一瞬悩んで、
祓魔師「わかった。何とかしよう。」
と言い、仲間に作戦を共有しに行った。
陽陰「さて、僕らはどうする?」
花音「防犯カメラは止めるべきじゃない?祓魔師の人に許可もらったら止めるね。」
尚人「俺は一応、微力ながら祓魔師の支援を!!」
二人は走って自分の仕事に取り掛かった。
陽陰「僕は…しばらく役立たずか?」
空模様が怪しい18時15分。天気が悪いのもあって、周りはもう暗くなっていた。陽陰「雨降ってきたら都合いいんだがな…」
5
なぜか降ってきた、雨。
都合よく、豪雨。
しかも本州全域の、土砂降り。
あまりの雨に、電車運休。
雨強すぎて、誰も外出しない。
陽陰「都合いいな…」
花音「ほんとにね…」
ハッキングが終わった花音は、陽陰といっしょに少し遠くで様子を見ていた。
餓者髑髏が地上に現れる気配はない。現在19時30分。作戦開始から1時間半が経過した頃。
リン「みんなー広場から離れてー」
地中から小声でみつはの声が聞こえた。もちろん地上にひびはまだ入っていないので、本来は大声である。
広場の方で、衝撃音。ついに餓者髑髏が地上に現れるようだ。
祓魔師「来るぞ…!」
祓魔師のリーダー「総員、構えろ!!」
地上で祓魔師達が構える。
土の塊が空中に打ち上がる。その後、穴から巨大な骨の腕が現れ 、地上に、その全貌が顕現した。
史上最大の餓者髑髏。その全長93m、体重不明。それを見た祓魔師は戦慄したが、すぐに切り替える。(これがプロの精神か)と陽陰は実感した。
陽陰「そういえば、下に残った二人は…?」
見渡してもどこにもいない。みつはとリンはどこに…
リン「みっちゃん!!」
陽陰「…は?」
餓者髑髏の腕に、みつはは掴まれていた。
リン「みっちゃんを、離せ!!」
リンが拳銃の残弾すべてを餓者髑髏に撃つ。そのすべてに術が仕込まれているが、全く効かない。多くの祓魔師は、「なぜここまで強いのか」を考えていた。しかし、陽陰は全く別の違和感を感じていた。
陽陰(なんでみつはさんは抜け出せないんだ?あれだけ強いなら、本当は抜け出せるんじゃないのか?ということは、みつはさんは抜け出せない理由がある…あ。)
陽陰「花音さん。」
花音「うん。私も見つけた。」
餓者髑髏の右手の指の隙間から見えた。みつはは水のクッションで黒服たちを守っていた。
陽陰(…みつはさんらしいか。)
陽陰は、銃弾を装填しているリンに情報共有した。近づくのが危ないので遠くからのジェスチャーだったが、リンは理解したようだ。
リン「みんな、右手を避けて、右腕の関節に攻撃を集中して!!」
リンの呼びかけで全員の攻撃が右腕に優先された。だが、まだ一押し足りない。
陽陰(どうする、あと一押し攻撃するには…!)
陽陰は近くのホームセンターに駆け込んだ。花音もそれについていく。
花音「陽陰さん、何を?」
陽陰「反撃を弱める策を使う!花音さん、協力して!」
20時15分、祓魔師と巨大餓者髑髏の戦いは、泥沼と化していく…




