第二話 神様の世界
1
眩しい日差しが窓から差し込み、天掴陽陰は目を覚ました。
西暦2026年8月29日午前9時。今日は土曜授業の無い日。部活動もしていない陽陰の場合、休日を自由に使える日である。
だが、彼にはやるべきことがあった。
陽陰「そういえば、昨日買い出しの途中で帰ったんだった。」
陽陰の祖母「あらあら、どおりで冷蔵庫の中身が少ないわけねえ。今日は私、お散歩ついでに買い出し行ってくるから、ゆっくりしてな。」
陽陰「ありがとう、おばあちゃん。…さて。」
祖母が優しいことに感謝しつつ、今日一日本当に暇になった陽陰は、ある場所に行くことにした。
2
???「あっと、覚えてたか…」
陽陰「何言ってるんです、忘れる方がおかしいでしょ、あんなの…」
陽陰は、"カミノコ"を名乗った少女と昨日出会った場所に来ていた。案の定昨日と同じ場所で、大体同じ状況だった。
陽陰「何なんですか、忘れるとか…」
"カミノコ"「いや、私は忘れられることが権能の神様なんだよねぇ。ていうか神様だからふつう見えないし触れないし、そもそもいるかもわかんないんだけどね…」
唐突に明かされたとんでもない真実に、陽陰は言葉を失った。思考が現実に追いつかず、陽陰はしばらく静止する。
"カミノコ"「おーい、大丈夫?フリーズしちゃってるけどー?」
そして、
"カミノコ"「あっやば」
陽陰はドミノのように、バタンと倒れた。
3
これは昨夜、少女が物の怪を倒した後のこと…
"カミノコ"『じゃあ、夜遅いし今日は寝なよー?』
陽陰『えっと、あ。名前…』
"カミノコ"『そういえば言ってなかったね。私は…そうだね、"みつは"とでも呼んでよ。君は?』
陽陰『陽陰です。えっと、みつはさんは寝なくていいんですか?』
みつは『「さん」付けはいいよ。私だって帰って寝るよ?神様でも、疲れるは疲れるし。』
陽陰(夕方ほぼずっと遊んで自販機でコーヒー買って飲んでただけな気が…)
みつは『じゃあおやすみ、陽陰くん。もし君が私を覚えてたらまた会おうね。』
___と言って別れてまだ半日。再会早々、唐突な真実に失神した陽陰は、数分後、路地裏の奥で目が覚めた。
陽陰「いっっ…急にそんな重要なこと言わないでください。反応に困るし、理解に苦しむので。」
みつは「起きたねー。おはよー、陽陰くん。早速なんだけど、質問いい?」
少女___みつはも、実は先ほど出会ったときかなりテンパっていた。なぜなら…
みつは「なんで覚えてるの!?」
陽陰「まず僕には見えてるのとこから説明お願いします!?」
本人には全く自覚がなかった。
4
みつはの説明の序盤を要約するとこうだ。
この世には、「霊的存在」と呼ばれる科学を超越した超常的存在が存在する。この一部が神や物の怪であり、これらは基本、あらゆるものに物理的干渉はできない。
また本来、個人差はあれど一般人に霊的存在は視認できない。これも神だろうと物の怪だろうと同じことが言える。
だが、まれに霊的存在を視認できる人が生まれてくる。そういう者を「霊感持ち」という。霊感持ちは、元々霊感が強いタイプと、霊に取り憑かれやすい体質によって霊感を得るタイプがいる。また、更に少数の人は霊的存在を「祓う」力を持っており、「祓魔師」と呼ばれる。
みつは「陽陰くんの場合は、多分見えるけど祓えないって感じだね。まあ祓える人少なすぎるからむしろ君ぐらいが普通なんだけどね。」
陽陰「はぁ…?」
話すのに都合がいいのとのことで個室カフェに連れ込まれた陽陰は、自分で注文したパフェを食べながら話を聞く。ちなみに陽陰は元々霊感が強いけど比較的取り憑かれやすい体質と推測された。
陽陰「じゃあなんで僕は今まで一度もこういうの見えたことないんです?」
みつは「それは私も知りたい。」
みつはも専門家というわけではなく、謎はまだまだたくさんのようだ。
陽陰「じゃあ、なんでここ入ったとき認識されてたんですか?カミノコでも認識できないのは変わんないんでしょ?むしろそれで今日も昨日もあの状況で…」
みつは「私は神様だから一時的に顕現できるのです!」
しれっと説明無しで「二人」と言って店に入ったみつははコーヒーを飲んで話を続ける。
みつは「まあ別にこれ自体は神様じゃなくてもできるけどね。昨日の物の怪…"鼓狒々"っていうんだけど、あれはそれなりの間あそこにいたんじゃない?」
陽陰「あれが聞こえ始めたのは2週間前だから、そのくらい前からいるんじゃないですかね…」
みつは「ブフッ」
みつはが飲んでいたコーヒーを吹きそうになる。
みつは「あれそんな長くいたの!?よく誰も死ななかったね!?」
どうやら昨日本当はかなり危なかったらしい。
みつは「とりあえず、一定以上の負の感情を食らった物の怪は"顕現"するの。あと、神…例えば私は基本的に半日までなら自由に顕現できるよ。それ以降は体力と根性!」
陽陰「なるほど…で、なんで僕はみつはさんを忘れるはずだったんです?」
パフェ(2つ目)を食べながら陽陰が聞く。
ここからの説明を要約するとこうだ。
みつはは忘却の神で、「自分と関わった人間が自分から離れると自分に関する記憶を消す」という権能を持つという。ちなみに権能とは、神や一部の物の怪など、高位の霊的存在が持つ固有の能力のことだそうだ。本来、神の権能となると、祓魔師でも防ぐのは難しいのだが…
みつは「君はなんでか完璧に私の権能を防いでるし、家が祓魔師の家系とかなのかな?」
陽陰「もしそうなら昨日みたいにはなりませんよ、多分」
とのことなので、詳細不明だ。
あらかた色々な説明が終わったころ、日が落ちてきていたので、陽陰とみつはは帰ることにした。
陽陰「そういえば神様ってどこに住んでるんだろう…社とか?」
みつは「私は普通のマンションだよ?他の神様は知らないけど。」
カフェから出た二人は駅前の広場で話していた。
みつは「あっ、じゃあ連絡先交換しておこー!!昨日みたいなことになったときお姉さんに頼れるように!!」
陽陰(自称お姉さんなのか…)
みつは「変なところは気にしなーい。はい、これ私のメアド」
このとき陽陰の心のなかでは、
(神様もスマホ使うんだ)
という人外へのちょつとした親近感がわく一方で、
(なんだろう、神様がスマホ使用、一般的マンション在住っていう非ファンタジー的なの…)
という、なんとも言えない気持ちが拮抗していたのだった…




