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名前の知らない勇者探しの話  作者: 針鼠土竜


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ビシャダルク魔法学園の話

ビシャダルク魔法学園


ネリアス公国公都より東、ネリア山脈のさらに向こうにある魔法魔術学校。

光臨歴197年に建設された、世界最古にして最大の研究都市ビシャダルクの中心にある学び舎だ。


レンガ造りの校舎は長い歴史を感じさせる。ネリアス公国が建国された光臨歴1092年よりもはるか昔から存在し、世界各国から多様な種族の生徒、教授、研究者が集まる。


一年の半分が雪に覆われる厳しい土地だが、北大陸でも公都に次いで栄える地域でもある。


そこにルークスは通うことになった。


アルネモイド家の伝統であり、公国の制度でもある。貴族の長男・長女以外は、七歳から五年間この学園に在籍する決まりだった。


兄ラウノートもすでに二年間ここで寮生活を送っている。彼は学園が休みの間は、ほぼアルネモイド邸に帰省している。飛行船であればそう時間はかからないからだろうか。


ルークスもまた同じように寮へ入ることになった。


ただし貴族用の屋敷ではなく、一般生徒と同じ小さな一人部屋だった。


アルネモイド邸から飛行船で二時間。


初日は必要品の購入、寮の手続き、上級生による学園案内で終わり、荘厳な入学式を終えた翌日、早くも適性試験が行われた。



「あのスライムに魔術を当ててくれ」


試験官の指示に従い、新入生たちは順に魔術を放つ。


会場には七歳から十五歳ほどまでの生徒が並び、人族、獣族、そして魔術に長けたエルフなど様々な種族が混ざっていた。


若い人族の魔術は威力が弱く、スライムに軽く当たる程度のものが多い。

一方でエルフは正確に命中させ、威力も十分だった。


ふとルークスが後ろを振り向くと、猫耳の少女と目が合った。


「緊張してるにゃ……」


少女の目は明らかに泳いでいた。


「魔法は苦手にゃ」


獣族は魔術よりも身体能力を活かした剣術を得意とする種族だ。


「あんたは得意なのかにゃ?」


「まあ、それなりに」


「いいにゃ。私は剣術で頑張るにゃ」


少し沈黙が流れる。


「見たところ、七歳くらい?」


「もしかして同い年にゃ?」


獣族の七歳がここにいるのは珍しい。

東大陸の森林に住む獣族は、十五歳になるまで外に出ないのが普通だからだ。


「僕も七歳。君はどうしてここに?」


「私は特別なのにゃ」


少女は胸を張る。


「にゃんといっても、あの獣王――マトゥイダ・クルウェルが推薦した天才、ヒンクス・ラサールだからにゃ!」


マトゥイダ・クルウェル。

東大陸の森林を統べる獣王であり、圧倒的な身体能力と双剣で敵を切り裂く戦士だ。


その速さから、彼はこう呼ばれている。


『紅閃豹』


「推薦されたから森を出られたってこと?」


「そーだにゃ!」


なるほど、とルークスは思う。

獣王が推薦するほどなら、この少女にも相当な実力があるはずだ。


やがてルークスの番が来た。


使うのは氷柱の魔術。

威力を抑え、正確性を重視する。


放たれた氷柱は一瞬で飛び、十メートル先のスライムを貫いた。


試験官が反応するより早く、スライムは消滅する。


周囲がざわついた。


「君、すごいね。去年もここで試験を見ていたが、こんなに速い魔術は初めてだ」


試験官たちが感心する。


だがルークスはそれほど気にせず、次の試験場へ向かった。


第二試験と第三試験は魔術適性の測定だった。

どの属性魔術に向いているかを調べる試験だ。


ただし空間魔術と結界魔術は含まれない。

難易度があまりに高く、基礎適性では測れないからだ。


試験が終わると、ヒンクスが声をかけてきた。


「あんた、誰から魔術を教わったにゃ?」


「公国で家庭教師から。特別すごい人ではないと思う」


「ところで名前聞いてなかったにゃ。私はヒンクス」


「僕はルークス・アルネモイド」


「名家じゃないかにゃ!それにすごい才能だにゃ!」


だがルークスには、才能と言われてもどこか違和感があった。


第四試験は身体能力測定だった。


短距離走、長距離走、跳躍、投擲。

身体強化は禁止の純粋な体力試験だ。


結果は予想通りだった。


ヒンクスはすべて最高評価。

一方ルークスは、その一歩下に収まった。


「ヒンクスはすごいな」


「ルークスも人族ならかなりすごいにゃ。獣族の平均くらいにゃ」


人族は、獣族ほどの身体能力も、エルフほどの魔術出力も持たない。

平均的なのが特徴だ。


「剣術を一年だけ本気でやってたから」


ゴローバス王国の出来事以来、ルークスは剣術の鍛錬も続けていた。

走り込みも欠かしていない。


それでも獣族の平均と言われ、少しだけ落ち込んだ。


試験が終わる頃には日が傾いていた。


男子寮と女子寮の分かれ道まで、二人は並んで歩いた。


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