新しい生活の話
適性試験を終え、男子寮の廊下を歩く。
石造りの廊下は外の冷たい空気をそのまま閉じ込めたようにひんやりしていた。ビシャダルクは一年の半分が雪に覆われる土地だと聞いていたが、確かに寒い。
「ここが男子寮だ」
案内してくれた上級生が扉を指差した。
「一年生は基本的に一人部屋だ。荷物はもう入ってる。困ったことがあれば寮監に聞け」
それだけ言うと上級生は去っていった。
ルークスは扉を開ける。
部屋は簡素だった。
ベッド
机
本棚
それだけ。
アルネモイド邸と比べれば狭いが、不思議と悪くないと思った。
(ここで五年か)
少しだけ胸が高鳴る。
その時、廊下から声が聞こえた。
「お、今日来た一年か?」
振り返ると、背の低い少年が立っていた。
年は同じくらいだろうか。だが体格はかなり小柄だ。
しかしその少年の背中には、やけに大きな盾が背負われていた。
「俺も一年だ」
少年は笑う。
「ドルト・ジェパーレルだ」
ルークスは少し驚いた。
その盾は子供が持つには大きすぎる。
「その盾……重くない?」
ドルトは笑った。
「重いよ」
そう言って軽く持ち上げる。
だが表情はまったく苦しそうではない。
「うちは代々盾兵の家なんだ。剣は苦手だけど、守るのは得意だ」
盾兵。
前線で味方を守る兵士。
戦場では最も重要な役割の一つだ。
「君は?」
ドルトが聞く。
「ルークス・アルネモイド」
一瞬ドルトの目が丸くなる。
「え、あのアルネモイド?」
「多分そのアルネモイド」
するとドルトは笑った。
「へえ。貴族様か」
しかしその口調には嫌味はなかった。
「でもさっき見てたぞ」
「試験」
「氷の魔術」
ドルトは言う。
「すげえ速かった」
少しだけ照れくさい。
「大したことないよ」
するとドルトは肩をすくめた。
「まあ俺は魔術さっぱりだからな」
そう言って盾を軽く叩く。
「だからこれだ」
守る。
その言葉は不思議と重く聞こえた。
ルークスは少し考えてから言った。
「じゃあさ」
「いつか一緒に戦うことがあったら」
ドルトが笑う。
「前に立つのは俺な」
ルークスも少し笑った。
「頼りにしてる」
その時、廊下の奥から声が聞こえた。
「ルークス!」
振り返ると、見覚えのある顔が立っていた。
「兄さん」
ラウノート・アルネモイド。
すでに二年この学園で過ごしている兄だ。
「試験終わったんだな」
ラウノートはルークスを見ると安心したように笑った。
「どうだった?」
「普通」
「普通であの氷魔術か?」
どうやら兄も見ていたらしい。
ラウノートはドルトを見て言う。
「友達か?」
ドルトは少し照れながら頭をかいた。
「多分」
ラウノートは笑った。
「いいじゃないか」
そしてルークスを見る。
「ビシャダルクは面白いぞ」
その目はどこか意味深だった。
「この学園はただの学校じゃない」
窓の外では雪が静かに降り始めていた。
「世界中の天才が集まる場所だ」
ルークスはその言葉を聞きながら、静かに外を見た。
この場所で、どんな人間と出会うのだろうか。
とても楽しみだ。




