振り返りと方針の話
剣術大会の翌日。
学園は、すでに日常の空気を取り戻していた。
その中で――
決勝のスタジアム中央に、二人だけが残っている。
「……俺が横に振ったとこだったが」
ギロウが口を開く。
「お前、内側に入って剣を止めてりゃ――あそこで終わってたか?」
「ああ」
短い肯定。
「でも折れた」
「……ああ」
「想定外で、左腕を失った」
淡々とした事実確認。
感情はない。
ただ、結果を並べているだけ。
「じゃあよ」
ギロウが続ける。
「あの時、俺が振り切らずに一瞬置いてから攻めてたら――」
一拍。
「お前、あのまま勝てたか?」
「……いや」
グレイは首を横に振る。
「あそこで間合いを外した時点で、俺に“考えさせた”」
静かな声。
「それが、分岐だ」
ギロウが小さく笑う。
「なるほどな」
納得の笑み。
その時。
「おー、やってんなー」
軽い声が割り込む。
カルルが手を振りながら近づき、その後ろにルークスがいる。
「昨日の反省会か?」
「当たり前だろうが」
ギロウが鼻で笑う。
「負けから拾えるもん、拾ってるだけだ」
フィールド端。
壁にもたれるギロウと、その隣で腕を組むグレイ。
(……こいつも、ちゃんと振り返るのか)
ルークスは内心で思う。
ただの力任せじゃない。
その後も、二人の振り返りは続く。
ルークスとカルルは口を挟まず、ただ聞いている。
「で、どうすりゃよかったと思う?」
ギロウが問う。
「……単純だ」
グレイは答える。
「お前の敗因は、本能任せに寄せすぎたことだ」
一拍。
「体力管理を優先すべきだった」
「だろうな」
ギロウは即座に頷く。
ふと、視線が動く。
「……で、なんでいる」
グレイがルークスを見る。
「んー、食堂で捕まえた」
カルルが軽く言う。
「人待ってたらしいけど、ちょうどいいしな」
昼休憩。
ルークスは本来、友人を待っていた。
(……悪いな)
心の中で一言だけ詫びる。
「どうでもいいだろ」
ギロウが会話を戻そうとした、その時。
「いい雰囲気じゃんかよ」
気の抜けた声。
オルミムス・ヘンドリクス。
いつの間にか、そこにいた。
「最高師範」
カルルが軽く手を上げる。
オルミムスはそれを流し、視線を二人に向ける。
ルークスには――目も向けない。
「で、どこまで分かってる」
いきなり本題。
「途中から雑だったな」
ギロウが先に言う。
「押せてたから、そのまま行けると思った」
「思ったか」
「思った」
「だろうな」
興味なさげに頷く。
「悪くねぇ判断だ」
一拍。
「“勝てる形”じゃねぇけどな」
ギロウは黙る。
「お前の剣は“壊す前提”だ。壊れなきゃ詰む」
「無理なら……削るか、待つかだな」
「出来るのか?」
「出来ねぇ」
即答。
「そこだ」
短く切る。
次にグレイへ。
「お前は正解だ」
「……はい」
「捨てた。変えた。最後に取った」
淡々と評価する。
「ただし」
視線が左腕へ。
「折れたな」
「……はい」
「当然だ」
迷いのない断言。
「理屈はいい。だが体が追いついてねぇ」
沈黙。
「“出来る前提”で組むな。“出来る範囲”で勝て」
静かな言葉。
それで終わる――はずだった。
「……で」
ふと。
視線が動く。
初めて、ルークスへ。
だがそれは“ついで”だ。
「お前」
名前も知らない。
「何見てた?」
軽い問い。
ルークスは一瞬だけ考え――
「……削ってた」
短く答える。
反応はない。
「どっちが」
「グレイが」
間を置かず。
「崩すんじゃなくて、削って、待ってた」
一拍。
「ギロウは、止まらなくなってた」
――そこで。
ほんの一瞬、空気が止まる。
オルミムスの視線が、初めて“合う”。
「……ほう」
小さく、漏れる。
「で?」
さっきより、ほんの少しだけ深い声。
「どうする」
ルークスは迷わない。
「……奪う」
短く。
はっきりと。
ギロウが笑う。
「簡単に言うなぁ」
グレイは黙ったまま。
オルミムスは――
一瞬だけ、目を細める。
「……まぁいい」
それだけ。
評価でも否定でもない。
ただの通過。
「出来るもんならやってみろ」
軽く言い捨てる。
背を向ける。
もう見ない。
だが。
「強さってのはな」
歩きながら。
「一個じゃ足りねぇ」
ギロウの力。
グレイの読み。
「より多く持ってるやつが勝つ」
それだけ言って、去る。
沈黙。
「……急だな」
カルルが苦笑する。
「そういう人だろ」
ギロウが肩をすくめる。
グレイは何も言わない。
ルークスも――何も言わない。
だが。
(見られた)
ほんの一瞬だけの会話、それだけで十分。
ルークスはやるべき事を見つけた。




