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名前の知らない勇者探しの話  作者: 針鼠土竜


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15/20

この世界の剣術の話

剣術には主に四つの流派が存在する。

東剣流、西剣流、南剣流、北剣流。


現在世界に存在する多くの流派は、これら四大流を基礎として派生したものである。


まず東剣流。

速さと手数によって攻めを継続し、相手に思考の余地を与えず主導権を握る攻撃特化の流派である。


次に西剣流。

力と体重を乗せた一撃を軸とし、正面から相手を崩すことを目的とした剛剣の流派である。


南剣流は、

動かずに機を待ち、相手の攻撃に対して最適な一手を返すことで仕留めるカウンター主体の流派である。


最後に北剣流。

相手の力を受け流し、剣筋や間合いを制御することで戦況を支配する、防御と技術に優れた流派である。


これらの流派には基本的な相性が存在する。


同等の実力と仮定した場合、

東剣流は手数によって西剣流の大振りを潰すため有利とされる。

西剣流は北剣流の受け流しを力で押し切るため優位に立つ。

北剣流は南剣流のカウンターの起点を崩すことで主導権を握る。

南剣流は攻め続ける東剣流の動きを利用し、一撃で仕留めるため有利となる。


このように、四流は循環する形で拮抗関係にある。


ただしこれはあくまで理論上の相性であり、実戦においては個々の技量、判断、そして“読み”によって容易に覆る。


「結局は読みだろ」


観客の一人がそう言った。


否定する者はいなかった。



準々決勝。


グレイの相手は東剣流の使い手。


開始と同時に、間合いが潰れる。


「速っ……!」


ドルト結局は読みだろ」


観客の一人がそう言った。


否定する者はいなかった。



準々決勝。


グレイの相手は東剣流の使い手。


開始と同時に、間合いが潰れる。


「もう仕掛けた……!」


ドルトが身を乗り出す。


東剣流。

速さと手数で攻め続け、相手に考える時間を与えない。


本来なら、西剣流のような大振りを封じるのに向く流派だ。


「止まらないにゃ……」


ヒンクスが呟く。


連撃。連撃。さらに連撃。


グレイに“読む時間”を与えない。


「……違う」


ルークスが言う。


「与えてる」


「は?」


グレイは下がらない。


受ける。


捌く。


最小限。


「……削ってる」


一撃ごとに、東剣流のリズムが崩れていく。


速さはそのまま。


だが、わずかに“合わない”。


「ズレてる……?」


ヒンクスが小さく言う。


その瞬間だった。


一手、空いた。


ほんの一瞬。


グレイの剣が入る。


――終わり。


「……今ので?」


「止まったな」


東剣流は、止まった瞬間に負ける。


準々決勝、グレイ勝利。



「相性はどうだったんだ?」


ドルトが聞く。


ルークスは少し考えて、


「東は攻める流派」


「うん」


「でも、攻め続けるってことは――止まれない」


短く言う。


「止まったら、終わる」


ヒンクスが頷いた。


「うん。今の、それにゃ」



準決勝。


相手は北剣流。


「……一番やりにくそうだな」


ルークスが呟く。


北剣流。

流し、受け、崩す。


相手の力をそのまま返す技術型。


「さっきと真逆だな」


ドルトが言う。


今度は、動かない。


静かだ。


「始まってるにゃ……」


ヒンクスが言う。


グレイも動かない。


北剣流の使い手も動かない。


「……何待ってんだ?」


ドルトが苛立つ。


「崩れるの」


ルークスが答える。


どっちかが、先に。



動いたのは、北剣流。


わずかに踏み込む。


グレイの一撃を誘う。


「来た」


ルークスが言う。


グレイが応じる。


一撃。


これを剣で力を流す。


「うわ、軽っ……!」


力が逃げる。


そのまま体勢が崩れる。


――はずだった。


「……残ってる」


ヒンクスが呟く。


グレイは崩れない。


流されたはずの力が、消えていない。


「なんで……?」


ドルトが言う。


「切ってる」


ルークスの声。


「流される前に」


完全に流される前に、力を切っていた。


だから崩れない。


「……ずるくにゃい?」


ヒンクスが言う。


誰も否定しない。



北剣流の“流し”が機能しない。


「これ、相性どうなんだ?」


「グレイの流が分からないからな….」


ルークスが言う。


その先は言わなかった。


グレイが前に出る。


流れない距離。


流れない角度。


「……潰してる」


ヒンクスが小さく言う。


北剣流の土俵を。


そのまま、一撃。


「入った!」


準決勝、決着。



「なんだ今の……」

「流し、効いてなかったぞ……」


ざわめきが止まらない。



「……どの流派だよ、あいつ」


ドルトが呟く。


ルークスは少しだけ考えて、


「……全部違う」


そう言った。


「は?」


「どれでもない」


ヒンクスが笑う。


「いいね、それ」



決勝へ進むのは、アーカイール・グレイ。


会場が彼に期待する。


そして――


「次、誰だ……?」


誰もが、それを気にしていた。



準決勝第二試合はまさかの一撃で決まった。

勝者、ギロウ・ハーメルン。

獣族と人族の血を持ち、圧倒的な力で相手を砕く。


ただその強さの根源は勘の鋭さにある。


剣術には永遠の問いがある。


"理論派"と"感覚派"、どちらが強いのか。


意図せずに決勝は理論の読みと感覚のアドリブとの戦いとなった。

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