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名前の知らない勇者探しの話  作者: 針鼠土竜


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14/20

開幕戦の話

年に一度の学園主催の剣術大会。

最終参加者32人、4年以上の学年で、科目「剣術」を受けている者の中の成績上位100名の中で予選を行ったのが4日前、トーナメント制で5日間に渡る長丁場である。

開幕式は学園理事長ジャルメイラス=クルークス・デ・シルバの挨拶から始まり、諸々責任者の話に移ってから、一対一の剣術試合、のべ16試合を行う。


その開幕戦のカードにアーカイール・グレイの名があった。


ざわめきが広がる。


対戦相手は獣族の5年生、リックス。

2メートル近い巨大に岩のような体つき。まさに犀人族の筋肉を有する装甲車である。

そして今大会優勝候補とされるグレイとの対戦は好カードとされ、盛り上がりは早くも最高峰に上った。


「……でかすぎだろ」

「ドルトはあれくらいに成長しないと私のパーティーには入れないにゃ」

「無理だってそれ……」


ルークスは返事をしなかった。


三人は特別席に座っている。他には貴族や大会責任者など、地位の高い者ばかりで少し居心地が悪い。


だが――


「……」


目が離せない。


試合はまだ始まっていない。


だが既に二人は先を読み合っている。

立ち振る舞いから弱点を探し、立ち回りを想像する。一流の剣士なら戦う前に決着をつける。頭の中で模擬戦をしていると、学園の剣術最高師範オルミムスは言っていた。


「……やってるな」


ルークスが小さく呟く。


「え?」

「もう、戦ってるにゃ」


ヒンクスが頷く。


ルークスは二人の視線を注視する。


そして――


「開始!」


審判の声と同時に二人は動き出した。


「速っ……!」


フィールドの中央より少しリックス側で二人の剣はぶつかる。そう予想を立てたリックスは早々に上段の構えを取ったグレイを、骨盤の位置から剣を掬い上げるように空いた胴に打ち込む。


「来るぞ……!」


今回の大会で使う剣の切れ味は安全面から低く、さらに結界魔術で致命傷を受ける可能性を限りなく0に近づけている。本来ならリックスの力でグレイの体は剣で受けなければ真っ二つになる。


だが、


「……ズレた?」


その読みをさらに読んだグレイは突きの構えで、リックスの予想より少し奥側で剣を掬い上げるより早く胴を撃ち抜いた。


空気をムチで打ったような音が響く。


「は……?」


リックスは吹き飛んだ。


スタジアムの中央のフィールドの壁にぶつかるも、あまりダメージはない。


「今の……?」


観客席がざわつく。


しかしグレイは止まらない。


突きのダメージが小さいと判断したグレイはすぐに詰める。


「追うの早すぎだろ!」


接近したグレイの気配を感じたリックスは、グレイの剣の動きだけ注視した。


「……そこだ」


ルークスが小さく言う。


そこをまたグレイは読んだ。右手は剣を振り上げるフリで本命は左脚。


「フェイントか!?」


蹴りは脇腹にヒット。

これは十分なダメージだった。


「序盤に畳み掛けてきた……!」


敗色濃厚。


リックスは早くも奥の手を使った。


真っ直ぐ突進する。


剣を鞘に納めた。

純粋な肉体で当たり、剣では力を逃せないような体当たり。


「うわ、来た……!」


ただこれはフェイント。


獣族、とりわけ大型な種族は直線的な体当たりを大きな武器にする。その知識を餌に駆け引きをしたリックス。


当然、体当たりに対しグレイは避けることだけを考える。


つまりグレイは自分の剣をただ持っているだけ。防御の構えをしていない。


「やれ!」


観客の誰かが叫ぶ。


直線的な突進は横か上に流れれば避けられる。さらに上に避けるのは体制が悪くなり、今後の動きの選択肢が狭まる。そう考え、横に動くであろうグレイの横腹に剣を振る。左右どちらにも対応できるよう、体を捻り、回転斬り。


「決まる――!」


ほぼ無防備な部位への一撃。


勝負あり。


――普通ならば。


「……違うにゃ」


ヒンクスの声。


グレイの真骨頂は圧倒的な読みの良さにある。リックスの一撃は純粋な突進ではなく、何か絡み手がある。そう読んだグレイは避けなかった。


「避けないのか!?」


前に重心を掛ける。どんと踏み込み、下段から剣を振り上げる。

抜刀術だ。素早く、姿勢を低く....


「ここで振る気か…!?」


すべて戦う前に描いたシナリオの通りだった。


開戦と同時に腹部に隙の出来る上段に、比較的早く構えたことでリックスのカウンターを誘う。早くに追い込んで突進を引き出し、そこで敢えて避けずにここでも自分の振りたいポイントに誘った。


リックスがただの剣士でなく、自身と同じく「読み」を武器とすることを事前に知っていたことが勝因。


鈍い衝撃音。


リックスの動きが止まる。


崩れ落ちた。



一瞬の静寂。


「……終わった」


それから――


歓声が爆発した。


会場が揺れる。


「勝者、アーカイール・グレイ!」


「なんだ今の……」

「リックスが突進した先でグレイが剣振ってた....運か……?」


ざわめきが止まらない。

この会場の殆どの観客がこれは"読み"の戦いだったと理解していない。



「……なんだこりゃ」


ドルトが言う。


「あいつ、すげぇにゃ……」


ヒンクスも呟く。


ルークスは少しだけ考えて、


「……最初から、決まってた」


そう言った。



「……全部、誘ってた」


それだけは、分かった。


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