今食べたいのは、完璧なモンブランだ……
日曜日の午後、三姉妹はモンブラン探しへ。
こだわり屋の佳奈と、付き合ってくれる二人。
そんな穏やかで甘い一日の物語。
日曜日の午後、三姉妹はリビングでくつろいでいた。
何かを無性に食べたくなる時がある。
今の佳奈がそうだった。
佳奈がソファに寝転びながら手足をばたつかせる。
「どうしたの? 佳奈」
「何かあった、佳奈ちゃん」
「ねえ、私モンブラン食べたい。……絶対今日食べたい。なんとしてでも味わいたい」
佳奈が宣言する。
「モンブラン?」
真奈が本から顔を上げた。
「うん。どうしても食べたくなった」
「じゃあ買いに行こうよ」
結菜がスマホから顔を上げた。
「うん。でも、私の理想のモンブランじゃないとダメなの」
「理想のモンブラン?」
「そう。ちゃんとしたモンブラン」
佳奈が真剣な顔で言った。
「ちゃんとしたって……どんなの?」
真奈が聞いた。
「まず、マロンクリームがたっぷり。それから、中のスポンジは軽め。
生クリームもちゃんと入ってて、下には栗の甘露煮」
「要求が細かいね」
「まあね。私を満足させるにはこれくらい必要。
パン屋になりたいけど、ケーキも好きだから」
佳奈が言った。
「じゃあ、探しに行こう」
結菜が立ち上がった。
「3人で?」
「そうだね。午後のひと時にするのもいいかもね。
佳奈の理想のモンブラン、見つけよう」
真奈も立ち上がる。
「ありがとう」
佳奈が嬉しそうに笑った。
⸻
3人は自転車で近所のスーパーに向かった。
「まずはここから」
結菜がスーパーの入り口を指差した。
「でも、スーパーのモンブランって……」
佳奈が少し不安そうな顔をした。
「とりあえず見てみようよ」
3人はスーパーのケーキコーナーに向かった。冷蔵ケースには、いくつかのモンブランが並んでいる。
「あ、あった」
結菜がモンブランを手に取った。
「どう?」
「うーん……」
佳奈がケースを見つめた。透明なプラスチックケースの中に、小さなモンブランが入っている。
「クリームの量が少ない」
「え、そう?」
「うん。前に買ったことあるけど、マロンクリームが薄くて、
中の生クリームとスポンジの方が多かった」
「経験済みなんだ」
真奈が言った。
「そう。スーパーのモンブランは、コストを抑えるためにクリームを少なくしてる。
理論上、クリームが一番高いから」
「理論上って……真奈みたい」
結菜が笑った。
「でも、事実でしょ。マロンペーストって高いんだよ」
「じゃあ、ここはダメだね
「うん。次行こう」
3人はスーパーを出た。
「じゃあ、駅前のケーキ屋は?」
真奈が提案した。
「あそこ、どんなモンブランだっけ?」
「見たことある。小さめで、上に栗が乗ってたような」
「小さめか……」
佳奈が考え込んだ。
「とりあえず行ってみようよ」
⸻
3人は駅前のケーキ屋に向かった。
ショーケースには、色とりどりのケーキが並んでいる。
「あ、モンブランあるよ」
結菜が指差した。
ショーケースの中に、小ぶりなモンブランが3つ並んでいる。
上品な見た目で、てっぺんに栗の甘露煮が乗っている。
「どう?」
「うーん……小さいね。コンビニにあるのよりは大きいけど」
「そうかな?」
「私、もっとボリュームのあるモンブランが食べたいの。これだと物足りない」
「食べてみないとわからないんじゃない?」
真奈が言った。
「でも、見た目でだいたいわかる。このサイズだと、マロンクリームも少ないはず」
「佳奈、目利きだね」
「パン作りで鍛えられたから」
佳奈が少し誇らしげに言った。
「じゃあ、次は?」
結菜は楽しそうに言う。
「ショッピングモールのケーキ見に行ってもいい?」
美味しそうなケーキがあった気がすると佳奈が言って、
見に行ったものの、モンブランはなかった。
真奈が顔を上げて考える。
「そう言えば、駅の反対側に、新しいケーキ屋ができたって聞いたけど」
佳奈が地元雑誌で見た記憶をたどる。
結菜がスマホで検索した。
「あ、本当だ。『パティスリー・ラ・フォーレ』って店」
「それだ、行ってみよう」
⸻
3人は駅の反対側に向かった。
自転車で5分ほどの場所に、新しいケーキ屋があった。
「ここだ」
店の前に立つ。おしゃれな外観で、ショーウィンドウには美しいケーキが並んでいる。
「すごい。きれい」
真奈が感心した。
「入ってみよう」
3人は店に入った。ベルが鳴って、店員さんが笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
「モンブラン、ありますか?」
佳奈が聞いた。
「はい。こちらです」
店員さんがショーケースを指差した。
そこには、大きなモンブランが並んでいた。
マロンクリームがたっぷりと絞られていて、見るからにボリュームがある。
「わあ……」
佳奈の目が輝いた。
「これ、すごくない?」
「うん。マロンクリームがたっぷり」
「中身はどうなってるんですか?」
佳奈が店員さんに聞いた。
「スポンジの上に生クリーム、その上にマロンクリームを贅沢に使っています。
中には栗の甘露煮も入っています」
「完璧……」
佳奈が呟いた。
「これにする?」
結菜が聞いた。
「うん。これが私の理想のモンブラン」
「モンブラン、3つください」
真奈が店員さんに言った。
「え、3つ?」
「せっかくだし、みんなで食べようよ」
「いいの?」
「うん。佳奈の理想のモンブラン、私も食べてみたい」
「私も」
結菜も続いた。
「付き合ってくれてありがとう」
佳奈が嬉しそうに笑った。
店員さんが丁寧にモンブランを箱に入れてくれた。3つのモンブランが、白い箱に綺麗に並んでいる。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
3人は店を出た。
「重いね」
真奈が箱を持った。
「大きいからね」
「早く家に帰って食べよう」
結菜が言った。
3人は自転車で走る。
佳奈はモンブランが傾かないように慎重に自転車を操作しながら家に向かった。
⸻
家に着くと、すぐにリビングのテーブルにモンブランを並べた。
「すごい。本当に大きい」
真奈が感心した。
佳奈は紅茶を淹れ、カップに注ぐ。
「いただきます」
3人で手を合わせた。
佳奈がフォークでモンブランを切る。
マロンクリームがたっぷりで、中から生クリームと栗の甘露煮が見えた。
「最高……」
佳奈が口に運んだ。
目を閉じて、ゆっくりと味わう。
「どう?」
結菜が聞いた。
「おいしい……すごくおいしい」
佳奈が幸せそうな顔をした。
「マロンクリームが濃厚で、でも甘すぎない。生クリームが軽くて、栗の甘露煮がアクセントになってる。スポンジも軽くて、全体のバランスが本当に完璧……」
「佳奈、食レポみたい」
真奈が笑った。
「私も食べてみよう」
真奈もフォークでモンブランを切って、口に運んだ。
「本当だ。おいしい」
「でしょ?」
「うん。クリームがたっぷりで、満足感がある」
「私も」
結菜も食べた。
「これは理想のモンブランだね」
「うん。やっと見つけた」
佳奈が満足そうに笑った。
「でも、探すの大変だったね」
「そうだね。スーパー、駅前のケーキ屋、モール、そしてここ」
「4軒目でやっと見つかった」
「でも、探した甲斐があったよ」
佳奈が言った。
「そうだね」
3人はモンブランを食べ続ける。
「ねえ、このケーキ屋、また行こうよ」
結菜が言った。
「賛成。他のケーキも食べてみたい」
「うん。でも、やっぱりモンブランが一番好き」
佳奈が言った。
「佳奈はモンブラン好きだよね」
「うん。パン屋になったら、モンブランのパンも作りたいな」
「モンブランのパン?」
「そう。マロンクリームを使ったパン」
「おいしそう」
真奈が言った。
「作ったら、一番最初に食べさせてね」
結菜が言った。
「もちろん」
佳奈が笑った。
窓の外では、春の日差しが明るく降り注いでいる。日曜日の午後、理想のモンブランを見つけた三姉妹。
佳奈はモンブランを食べながら思った。これからも、おいしいものを探し続けよう。そして、いつか自分でも作れるようになりたい。
理想を追い求めることの大切さを、今日のモンブラン探しで学んだ気がした。
「ごちそうさまでした」
3人で手を合わせた。
テーブルの上には、空になった箱が3つ。でも、3人の心は満たされていた。
理想のモンブランを見つけた日。それは、佳奈にとって特別な一日になった。




