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とまらない三姉妹の日常。―最新AIとの共作。そこに魂は宿るのか。心は揺れるのか。その目で見届けて。―  作者: 古咲一和


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長かった夏の一日 前編


 午前10時35分。


 ピンポーン。


 玄関の呼び鈴が鳴った。


「はーい」


 佳奈が廊下を歩き、玄関の扉を開ける。


 すると――


「こんにちはー!」


 3人のクラスメイト。

 佳奈は一瞬、目をまばたかせた。


「……え?」


 結菜の友達が3人、玄関に立っていた。

 明日香(あすか)由果(ゆか)(あおい)

 しかも、3人とも背中にパンパンに膨らんだリュックを背負っている。

 遠足に行くかのようだ。


「……3人?」


 佳奈が言うと、奥から結菜がバタバタと走ってくる。


「やっと来た!」


 待ち構えていた結菜が声を上げる。

 明日香が肩のリュックを少し持ち上げた。


「ごめんごめん。お土産買うのに時間かかっちゃって」


 明日香の後ろの葵が説明する。


「なかなか決まらなくって。遅くなってごめんね」


「別にいいのに。それで遅かったの」


 結菜は笑う。


「いやいや、そういうわけには」


 佳奈はその様子を見ていたが、ふと首をかしげた。


「……それで?」


 3人を見る。


「なんの用?」


 すると由果が前に出た。

 そして自分の背中のリュックを――

 ぶんっ。

 大きく揺らした。


「これ」


「?」


「この背中にある課題を減らすため」


 ドヤ顔。


「……つまり?」


「今日はウチで勉強会」


 結菜が胸を張る。


 佳奈は天井を見てつぶやく。


「……なるほど、これは穏やかじゃないね」


 その時だった。

 玄関の騒ぎに気づいたのか、廊下の奥からひょこっと顔が出た。

 真奈だ。


「どうしたの? そんなに大人数で」


 驚きつつもいらっしゃいと迎える。落ち着いた声。


 明日香が「あっ」と声を上げる。


「先輩!」


 慌てて紙袋を差し出す。


「これ、お土産です」


 真奈は少し驚いた顔をして、それを受け取った。


「え、いいの?」


「はい、お邪魔させて貰うわけですから」


「気を遣わせちゃってごめんね」


 真奈は柔らかく微笑んだ。

 結菜が手をぱんっと叩く。


「はいはい、暑いから玄関で立ち話してないで上がって」


 壁に身体を預けながら、佳奈は3人の荷物を見ていた。


「課題やるにしては――」


 リュックのファスナーが少し空いている。そこから参考書の角が飛び出し、はち切れんばかりのリュック。


「荷物多くない?」


 葵がちらっと佳奈を見る。


「気づきましたか佳奈さん?」


 結菜が言う。


「今日、泊まってくの」


 佳奈の眉が上がる。


「え……泊まり……知ってた真奈?」


「ううん、初耳」


「そうしてもらうつもりだけど、まずかった?」


「いいけど、いやよくはないけど。そう言うのは事前に話してほしいな」


「お母さんには言ったよ」


 葵が腕を組んで佳奈を見る。


「……なにかご不満が?」


 少し挑発気味。

 佳奈はその視線を受けて、


「あーあ……どうするのよこれ」


 と手で顔を覆った。


「いや……私も午後から友達呼んでるんだよね」


 4人が固まる。


「え?」


「1人だけど、泊まっていく予定なんだよねえ」


 その瞬間。

 4人の目が一斉に光った。


「誰が来るの?」

「クラスの子?」

「同級生?」

「可愛い?」


 質問が飛び交う。

 たじろいで佳奈は一歩下がった。


「落ち着いて」


「で、誰?」


 由果が急かす。


 佳奈は少しだけ間を置いて言う。


「理恵」


 3人が思考を加速させ思い巡らす。


「……」

「……」

「……」


 そして由果が先に気づいた。


「あっ」

 明日香も気付く。

「あ!」

 葵も。

「え!」


 明日香が確かめる。


東出(ひがしで)高校に行った理恵!?」


 佳奈がうなずく。


「そう」


 4人が同時に声を上げた。


「わぁ!」

「全然会ってない!」

「嬉しい誤算です!」

「会えるじゃん、ラッキー!」


 一瞬で玄関が騒がしくなる。

 結菜も興奮している。


「そういえば同中だ!」


 が言う。


「めっちゃ久しぶりじゃん」


 由果が言う。


「中学の卒業式以来?」


 葵が言う。


「絶対大人っぽくなってるよね」


 明日香が理恵を想像しながら言う。


 由果が手を挙げる。


「質問」

「なに」

「理恵、何時頃に来るの?」


 佳奈は答えた。


「2時くらい」


 4人が顔を見合わせる。

 ニヤとする。


 結菜が言う。


「よーし」


「それまでに課題を減らしておく必要がある」 


 明日香が言う。


「理恵の前で課題やってる姿見せれば」


 由果が言う。


「真面目な高校生アピールできる」


 葵が言う。


「それができたら完璧ですね」


 佳奈は言った。


「どう考えても騒ぐ未来しか見えない」


 3人はもう靴を脱ぎ終わっていた。


「おじゃましまーす!」


 ドタドタドタと結菜の部屋を目指して階段を登る。


 真奈が小さく笑う。


「賑やかになりそうだね」


 佳奈はため息をついた。


「……絶対なる、絶対……」


 結菜の部屋からもう声が聞こえてきた。


「テーブルこっち!」

「参考書どこ置く?」

「とりあえずお菓子!」


 佳奈は額を手で押さえる。


「課題やるんじゃないの……」


 時計を見る。


 まだ午前11時前。

 理恵が来るまで――

 3時間。


「……長い。……少し課題を進めるか」


 佳奈は1人部屋に向かい、比較的スムーズに進めそうな教科のプリントを何枚か出した。


 ⸻


 その頃、結菜の部屋では。


「ねえねえ」


 が言った。


「理恵ってどんな感じだったっけ」


 由果が言う。


「才色兼備です」


 葵が言う。


「静かで華がある」


 明日香は言う。


「すごく落ち着いてる」


 結菜が言う。


「つまり」


 4人が同時に言った。


「ここに来たらびっくりする」


 4人は笑い合った。


 ⸻


 午前11時47分。


 佳奈は何度か時計を見ていた。


 そして決める。昼は軽く済ませることにした。結菜の友達もいるし、どうせ落ち着いて食べることはできない。

 簡単に食べられるそうめんと、昨日の残りの唐揚げを食べた。


 ⸻


 結菜の部屋では結菜、明日香、由果、葵がすでに課題を広げている。

 ――けれど広げているだけで、ほとんど進んでいない。


「ねえこの問題さ」

「それさっき言ったじゃん」

「え、そうだっけ?」


 きゃはは、と笑い声が弾ける。


 佳奈は台所からちらりと階段のある廊下を見た。

(……絶対、騒ぎになる)

 そう思いながら、昼食をさっと片付ける。


 ⸻


 そして、午後2時。


 ピンポーン。


 再び、呼び鈴の音が家の中に響いた。

 佳奈は玄関に向かった。

 扉を開ける。

 そこに立つのは――

 理恵。


 ストローハットに、薄紫色のワンピース。サングラスをかけた涼しい顔立ち。首には白いスカーフ。


 その佇まいは、まるで高級ホテルに集う大人のようなエレガンス。凛とした背筋は、まったく揺らがない。夏の日差しの中でも、その姿は一点の迷いもなく。


 しかし、その手には、古いボストンバッグが握られていた。色あせた茶色のそれは、その完璧な装いに似合わない、むしろ滑稽なほどだった。


 理恵がサングラスを少し下げて、微笑む。


「今日よろしくね、佳奈」


 その瞬間、佳奈は片手で頭を押さえた。


「そのことなんだけど……」


 理恵が首をかしげる。


「どうかしたの?」


 佳奈は少しだけ家の中を振り返る。

 奥から聞こえてくる声。


「それ答え間違ってる」

「うそ、合ってるでしょ!?」

「だから言ったじゃん!」


 外まで騒がしさが漏れている。

 理恵は静かに聞いていた。


 佳奈は口を開く。


「ウチ、今日ちょっと……」


「?」


 佳奈は少し困った顔をした。


「家の中が……」


 佳奈は目を閉じた。


「……」


「そ、少し賑やかになるのね」


 理恵は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに小さく微笑んだ。

 その笑顔に、佳奈は申し訳なさそうに肩をすくめた。


「騒ぎ出すに決まってるから」


 そう言って、佳奈は理恵を静かに自分の部屋へ案内する。

 できるだけ音を立てないように歩く。


 しかし――

 遅かった。


「……あれ?」


 結菜の声。


「誰か来た?」


 次の瞬間。

 結菜の部屋のドアが勢いよく開いた。


「理恵来た!?」


 まるで蜂の巣をつついたみたいに、4人が一斉に顔を出した、結菜、明日香、由果、葵。


「久しぶり!」


「高校どう?」


「課題大変じゃない?」


 質問が一気に飛ぶ。


 理恵は少しだけ目を丸くした。

 それでも、微笑みは崩さない。


「うん、久しぶり。結菜、明日香、由果、葵も」


「高校は……まあ、それなりに」


 そう答えながらも、

 額に、うっすら汗が滲んでいた。

 困惑しているのが、少しだけ分かる。

 佳奈がすっと前に出る。


「はいはい、質問大会終わり」


 佳奈が4人をドアで押し戻す。


「理恵は課題やりに来たの」


「えー」


「冷たい」


 佳奈はため息をつく。


「休憩の時に話しなさい」


 そう言って、理恵を自分の部屋に案内した。

 理恵はボストンバッグを置いた。

 ドサッ。

 思ったより重い音。


「……本当に全部持ってきたんだ」


 佳奈が苦笑いする。

 理恵は少し照れたように笑った。


「どれ持って行こうか悩んで、やってない課題、結局全部持ってきた」


「いや、うん。多いね」


 2人はテーブルにつく。

 テーブルに課題を広げ、ノートを開く。


 が――


 すぐに聞こえてきた。

 カーテン越しの、声。

 結菜の部屋からだ。厚い防音カーテンで仕切っているとはいえ、完全ではない。


「それさー」

「ちょっと待って!」

「答え見ていい?」

「だめ!」


 笑い声。

 テーブルを叩く音。

 椅子がきしむ音。


 佳奈は顔をしかめた。


「……」


 ちらっと理恵を見る。

 いつもの理恵だが。


「ごめん、ちょっと言ってくる」


 佳奈が立ち上がろうとする。

 しかし、理恵が首を小さく振った。


「別にかまわないよ」


 穏やかな声。


「少し賑やかな方が、眠くならないし」


「……そう?」


 佳奈は座り直す。


 理恵は笑う。


「うん」


 2人はしばらく問題を解いていた。


 けれど――


「ねえこれさ!」

「それ3番じゃない?」

「えー!?」


 ドンッ。

 笑い声が響く。家のどこにいても聞こえるような音量の笑い声。


「ははは!」


 佳奈のペンが止まる。

 理恵は気づいていないふりをしている。

 

 さらに声が大きくなる。


「うるさいって!」

「誰がー?」

「由果だよ!」


 佳奈のこめかみがぴくっと動いた。

(おまいうだよ全く )

 数秒。

 数分。

 耐える。

 耐える。


 ……もう耐えきれなかった。


 佳奈が立ち上がる。

 部屋の隅へ歩く。

 そこには、ほとんど開けたことのない防音カーテンの仕切り。


 佳奈は取手に手をかけた。

 シャーッ

 長い布が滑る音。

 騒がしい部屋にも、はっきり響いた。

 佳奈の正面にいた結菜が、目を丸くする。


「えっ」


 カーテンが開く。

 両方の部屋が一つにつながる。

 佳奈は腕を組んだ。


「あんたたち」


 4人が固まる。


「うるさい」


 静かな声。

 しかし迫力は十分。


「図書館みたいにしろとは言わないけど」


 一歩近づき、境界線を越える。


「少しは声の大きさ考えてよ」


 積み上げられた課題を指を差す。


「勉強やってるんじゃないの?」


 3人は顔を見合わせる。

 そして――

 にやっと笑った。


「うわー」

「ちゃんとお姉ちゃんだ」

「怒られてるー」


 佳奈の眉がぴくっと動く。

 次の瞬間。

 丸めた参考書が風を切る。


 スパッ。

 軽く、明日香の肩。


 ぺし。

 由果の背中。


 ぱし。

 葵の腕。


 乾いた紙の音が、軽く響く。

 最後に――

 結菜の頭。

 ぽこん。

 少しだけ強め。


「いった、私だけ強くない!?」


 佳奈は無表情。


「当然、結菜が3人をコントロールしないと」


 3人が騒ぐ。


「いたー……くわないけど」

「体罰です!」

「家庭内暴力!」


 佳奈は指差す。

 指された方向に4人は首を動かす。


「次うるさかったら」


 全員が黙る。


「エアコンのコード切るよ」


 佳奈の声は静かだった。だが目はマジだった。


 一瞬の沈黙、そして戦慄する。


 4人は同時に佳奈を見る。


「それはやめて!」


 部屋に笑いが広がる。

 その様子を見ていた理恵は、

 つい吹き出してしまった。


「ふふ……」


 さっきまでの困惑が消えている。

 佳奈は少しだけ肩をすくめ、自分の部屋に戻り、カーテンを閉める。


 先ほどよりは騒音はマシになった。



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