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とまらない三姉妹の日常。―最新AIとの共作。そこに魂は宿るのか。心は揺れるのか。その目で見届けて。―  作者: 古咲一和


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新しい顔


 期末テストの結果もまずまずで、約束していたアウトレットモールに家族でやってきた。


「結構混んでるね」


「夏休みだしね。じゃあ私、見たいところあるから」


 三姉妹は早速、それぞれの見たい店へと散らばっていく。


 ⸻


 佳奈は靴と小物のフロアへ。

 目に止まったのは、やけに存在感のある黒のブーツだった。

 ゴツい。そしてかなりの厚底で、ヒールも高い。スタッズが何箇所にも打たれ、ベルトにも装飾がなされ、アクセントのシルバーチェーンは店内の光で眩しく光る。


 これを履いたら――たぶん、真奈を越す。

 一瞬だけ、想像する。玄関でそれを履いて、背筋を伸ばして立つ自分。視線が高くなる感覚。

 悪くない、と言いかけて、やめる。それは「なりたい自分」じゃない。

 

「私の好きなタイプでもない」

 

 声には出さない。背を高くするための靴。強く見せるための形。そういうものを選び始めたら、たぶん、もっと苦しくなる。


 佳奈はバッグコーナーに目を向けた。

 整然と並ぶバッグの棚の前で、ひとつ、目を引くものを見つけた。アンティーク調のミニトランク。使い込まれたような質感のレザーや真鍮風の金具。持ち手はしっかりしていそうで、ストラップを使ってショルダーバッグにもなるようだ。


「……これ、かわいいかも」

 

 小さく呟いて、肩にかけてみる。外す。鏡を見る。少し角度を変えて、もう一度かける。鏡越しに、斜めから、正面から、少し引いて。


「うーん……でも、これは私には少し大きいか……」


 自分で選びそうなものは安心感がある。でも、今日は「冒険していい日」でもある。持ち上げては戻し、戻してはまた手に取る。その慎重さが、いかにも佳奈らしかった。


 ⸻


 真奈は、落ち着いた色合いのショップへ。

 ハンガーにかかるシャツを一枚ずつ指でめくる。布の重さ、縫い目の丁寧さ、色味の深さ。


「このシャツの色、夏にぴったり……」

 

 淡いグレージュ。強く主張しないけれど、光の下でやわらかく変わる色。

 すぐには決めない。まずはデザイン。次に比較。そして納得。値札も、素材表示も、きちんと確認する。


「……焦らない、焦らない」

 

 誰に言うでもなく、静かにそう呟く。


 ⸻


 結菜はスポーツ用品コーナーへ一直線だった。


「うわー、このシューズ軽ぅ!」

 

 手に取って足を通し、履き心地を確かめる。別のと持ち替える。もう片方も持つ。重さを比べる。インソールを指で押し、弾力を確かめ、タグの素材表示を読み込む。

 

「通気性、メッシュ……ソールはEVA……これは、なかなか」


 目がきらりと光る。



 お昼過ぎ、見たいところは一通り見た。母と父も合流して、昼食をみんなで食べた。少し休んでから、佳奈が手を叩く。

 

「さてと、やりたいことがあるんだけどいいかな」


「なにを?」と真奈。


「他の人をコーディネートし合う。テーマは『夏のおでかけ』。服と小物は担当が選ぶ。最後に親が審査員」


「勝敗あり?」と結菜。


「もちろん」


 面白そう、と結菜が賛成する。スマホアプリのくじで誰を担当するかを決める。


 真奈は結菜担当。

 佳奈は真奈担当。

 結菜は佳奈担当。

 になった。


「変なの選んだら覚えててね」

 

 真奈が微笑みながらも圧を出す。


「大丈夫だって、ちゃんと真剣に選ぶから」と佳奈。


「それが一番怖いけどね。じゃあ結菜の服考えてくる」


 ⸻


【佳奈 → 真奈】

 ラックの前で、佳奈は真剣だった。

 真奈は落ち着いた色を好む。でも今日は、少しだけ夏の光を取り入れたい。選んだのはライトベージュのリネン混ワイドパンツ。風を通す軽さ。歩けば裾がそよぐ。


 トップスはオフホワイトのノースリーブブラウスを手に取るが、「もっと夏らしい色でもいいかな」と、隣のくすみブルーのブラウスを手に取る。ほのかな光沢、とろみのある質感。首元に細いゴールドのチェーン。


「こういうの、真奈には合うと思うんだ」


 佳奈は試着室に服を入れていく。


「露出、多くない?」と真奈。


「ノースリーブは露出に入りません」


 試着室のカーテンが開く。真奈が出てくる。背筋を伸ばし、鏡を見る。


「……思ったより自然」


 自分では選ばない色。でも、不自然ではない。光を受けたベージュが、真奈の表情を少しだけ柔らかく見せる。


「はい、これ履いて」


 佳奈が足元に置いたのは、ダークブラウンの細ストラップサンダル。真奈は一瞬ためらい、それから足を入れる。

 立つ。ヒールは低い。でも、視線がわずかに上がる。鏡の中で、全体の線がすっと整う。

 くすみブルーのやわらかさ。生成りの軽さ。そこにダークブラウンが一本、芯を通す。甘くない。でも冷たくもない。


「……締まるね」

 

 真奈が小さく言う。佳奈は腕を組んで満足そうに胸を張る。


「うん、いい。ちゃんと夏してる」

 

 結菜も少し前に出る。


「なんかさ、いつもより軽い。身軽そう」


 重さがない。でも薄くもない。静かな大人っぽさに、ちゃんと涼しさがある。真奈はもう一度、横から自分を見る。

 完成している。

 その事実に気づいて、口元にほんの少しだけ笑みが浮かぶ。


「……悪くないかも。いえ、むしろこれでいい」


 夏の真奈が、そこに立っていた。


 ⸻


【真奈 → 結菜】

 真奈は悩んだ。結菜は動きやすさ重視。ほとんどがパンツスタイル。だからこそ、今日はワンピース。


「えっ、ワンピ?」


 ハンガーを差し出した瞬間、結菜の眉がわずかに動く。


「たまには」

 

 真奈は静かに言う。


 薄いブルーに、細かな小花。レーヨン混のやわらかな素材。裾が軽く揺れそうなミディ丈。甘すぎない。軽すぎない。風を含めば、きっときれいに動く。

 結菜はそっと生地に触れる。


「……揺れすぎない?」


「揺れるのがいいの」


 半信半疑のまま、袖を通す。頭からかぶると、ひやりとした生地が肩に落ちる。思ったよりまとわりつかない。

 鏡の前に立つ。甘い、と思ったのは一瞬だった。色は淡く、柄は細かい。主張しすぎない。


「あとこれも」


 カーテンの隙間から差し出されたのは、グレージュの細ベルト。腰に通すと、シルエットが少しだけ締まる。カーテンが開く。


「そして足元はこれ」


 試着室の外にはグレージュの華奢なサンダルが置かれた。フラットなソール、甲に細いストラップが渡されたそのデザインは、どこか控えめで上品な佇まいを見せていた。


「これ履くの?」


「当然」


 結菜がぎこちなくフラットサンダルを履く。空気が、ふっと和らぐ。


「……わ」

 

 自分で驚く声。くるり、と回る。裾がふわりと広がる。揺れるたび、小花が舞うみたいに動く。


「変じゃない?」


「全然」


「……似合うと思う」


 父が思わず拍手する。「おおー!」

 母が目を細める。「元気さが、ちゃんと可愛さになってる」

 結菜は少し照れながら、もう一度歩く。軽い。動きにくそうだと思っていたのに、足さばきは意外なくらい自由だ。


「……好きかも」

 

 小さく、でもはっきり言う。真奈は静かにうなずく。誰かを違う見え方にできたことで、胸の奥が自信で高まる。


 ⸻


【結菜 → 佳奈】

 結菜は迷わなかった。佳奈はいつも計算して服を選ぶ。色も、シルエットも、全体のバランスも。だから今日は、少し崩す。


 選んだのは、グレーのチェックのサスペンダーパンツ。太めのショルダーストラップ。中は白のシンプルなカットソー。足元は、装飾がないすっきりした白のスムースレザーのスニーカー。


「はい、どうぞ」


 カーテンの向こうへ、ハンガーを差し出す。


「ちょっと待って、これ私に?」

 

 戸惑い混じりの声。


「うん。別の佳奈ちゃん」

 

 少しだけ、にやりと笑う。


 しばらくして、カーテンが開く。試着室から出てきた佳奈を見て、真奈が目を細めた。


「……いい」


 縦のラインがすっと強調される。太めのストラップが肩の印象をやわらげる。チェックの柄は強いのに、白が間に入ることで抜けができる。


 いつもの「完成形」より、ほんの少しだけ隙がある。佳奈は鏡の前に立つ。無意識に背筋を伸ばしかけて、やめる。ほんの一瞬、目を見開く。


「意外と……可愛いかも」


 計算していない自分が、映っている。


「でしょ?」

 

 結菜が満足そうに笑う。


 佳奈はもう一度、横から見る。強さはそのまま。でも、少しだけ柔らかい。自分で選んだら、たぶん白は入れなかった。それが、ちゃんと効いている。


「……悪くないね」

 

 そう言いながら、少しだけ楽しそうだった。二人が顔を見合わせ、低く、くすっと笑う。


 ⸻


 3人は家族の前に並んだ。父が腕を組んで唸る。

 母がひとりずつ丁寧に見る。

 

「真奈さんのは、色合いが落ち着いていて清潔感があります」

 

「結菜さんのは、裾の動きが元気を引き立ててる」

 

「佳奈さんのは、きちんと感と遊び心のバランスが素敵です」

 

 父が不敵に笑う。

 くすみブルーの静けさ。薄ブルーの揺れ。グレーと白の直線。それぞれ、ちゃんと似合っている。


「さて」

 

 後ろで腕を組んでいた父が、わざとらしく咳払いをした。

 

「では私も審査しようか」


「え、急に?」

 

 結菜が笑う。


「これは『誰が一番似合ってるか』じゃない」

 

 父は指を一本立てる。

 

「誰のコーディネートが一番良かったか、だ」


 3人の空気が、少しだけ変わる。まずは真奈の前に立つ。

 

「色の選び方がうまい。落ち着いてるのに夏らしい。これを選んだのは――佳奈だな?」


 佳奈が小さく手を挙げる。「はい、そうでーす」


「よって、佳奈に『バランス設計賞』」


「設計って」

 

 でも、嬉しそうだ。


 次に結菜の前へ。


「これは……動きがいい。元気さを、ちゃんと可愛さに変えた。これ選んだのは真奈」

 

 そうですと手を上げる。

 父はすぐにうなずく。


「では真奈に『変化引き出し賞』」

 

 真奈が少し照れる。「そんな大げさな」

 最後に佳奈の前へ。


「これはな……計算を崩したのがうまい。いつもの佳奈なのに、ちょっと違う。そこがいい。結菜に『視点転換賞』」


 結菜がガッツポーズ。


 3人が顔を見合わせる。着た人が褒められるのも嬉しい。でも、選んだ側が認められるのは、もっと嬉しい。


 佳奈が小さく言う。「対決、成立だね」

 真奈がうなずく。「ちゃんと戦った感じする」

 結菜はもう一度くるりと回る。

 夏の光の中で、3人とも少し誇らしい顔をしていた。少し照れて、でも、嬉しそうに。

 

 佳奈が結菜に耳打ちする。


「賞をくれたってことは、ご褒美があるって期待しちゃうけどいい?」と結菜。

 

 父は後ずさりしながら、何が望みか3人に尋ねる。3人は声を揃えて指を差す。その先にあるのは――

「「「アイス!」」」


 ⸻


 帰り道。買い物袋は少し重い。でも足取りは軽い。

 真奈はワイドパンツの裾の揺れを思い出す。

 佳奈は肩の太めストラップの感触を確かめる。

 結菜は回ったときの視線の集まりを思い出す。

 

 勝敗よりも、似合うを見つけること。違う自分を知ること。そして、それを笑い合えること。

 

 夕方の風が、3人の間をすり抜ける。今日のアウトレットは、ただの買い物じゃなかった。

 

 互いの「新しい顔」を見つけた日。

 その小さな発見が、三姉妹の距離を、またひとつ近づけた。


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