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とまらない三姉妹の日常。―最新AIとの共作。そこに魂は宿るのか。心は揺れるのか。その目で見届けて。―  作者: 古咲一和


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パフェと手をつないだ話

我慢の味は、少しだけ苦いカフェラテ。けれど姉からのメッセージが、それを甘い魔法に変えてくれる。ストイックな結菜が、自分に「幸せ」を許可するまでの一幕。


 結菜は放課後、友達とファミレスへ向かった。疲れを癒すために、いつもの場所での集まりだ。店内は相変わらず賑やかで、香ばしいコーヒーと揚げ物の香りが混ざっていた。


 テーブルに着くと、友達たちはすぐにメニューを広げた。

「デザート、何にする?」「私、パフェが食べたい」「あ、新しいメニュー増えてる」「期間限定のもおいしそう」そんな楽しげな声が聞こえる。結菜もメニューを手にしたが、その視線はデザートのページで止まった。


 そこに輝いていたのは、真っ赤な苺がたっぷり乗ったパフェだ。生クリームの白、カラメルソースの茶色、そして深紅の苺。思わず指がメニューに吸い寄せられそうになる。食べたい。その気持ちが胸の中で膨らんでいった。


 しかし、結菜はすぐに思考を切り替える。

 

――これは、糖質と脂質の塊だ。爆弾だ。これは、糖質と脂質の塊、爆弾。

 

 何度もそう自分に言い聞かせた。毎日、栄養バランスを気にして生活してきた。一度の甘い誘惑に負けてはいけない。結菜は歯を食いしばり、メニューをめくった。


 「私は暖かいカフェラテで」


 結菜がそう言うと、友達たちから「えっ、本当に?」という驚きの声が上がった。他の子たちが次々とケーキやパフェを注文する中、結菜は暖かいカフェラテが届くのを待った。


 それが到着したとき、カップから立ち上る湯気を見ながら、確かに自分は正しい選択をしたのだと思った。


 グラスに口をつけて、苦いコーヒーの味わいを感じる。誘惑に勝てた。その達成感は、パフェの甘さよりも心地よかった。


 だが、本当だろうか。


 心の深い部分では、あの苺パフェを食べたかった。友達たちが目の前で幸せそうに甘いデザートを食べている姿を見ながら、結菜は何度もそう思った。でも、それを表情には出さず、暖かいカフェラテを飲み続けた。



 それから数日後。また結菜は友達とファミレスに来ていた。先週と似たシチュエーションに、結菜は心の準備をしていた。今回も、きっとデザートの誘惑があるだろう。でも、また断るんだ。そう思いながらテーブルに座った。


 その時だった。ちょうど入口から、誰かが入ってきたのは。


 「あ、結菜!」


 聞こえた声に結菜が振り返ると、そこにはいつもの佳奈の顔があった。友達と一緒らしく、佳奈は別のテーブルに案内されていく。佳奈は一度小さく手を振り、自分のテーブルへ向かった。


 しばらくして、注文を終えた佳奈は結菜の様子に気づいた。メニューを前に、腕を組んでじっと何かを考えている結菜の姿が見えたのだ。その視線の先は、デザートのページ。


 あ、と佳奈は思った。あの子、また悩んでいるんだ。


 佳奈は結菜の心理をよく知っていた。何度も一緒にファミレスに来て、結菜が何かを葛藤しているときのサインを見てきたのだ。


 甘いものを食べたいけれど、それが健康に悪いかもしれないと考えている姿勢。そしてそれを我慢で己に勝とうとしている結菜の必死さ。


 佳奈はスマートフォンを手にして、真奈にメッセージを送った。


 「パフェって、どのくらいの頻度だったら食べてもいいんだろう?」


 返事は早かった。真奈からの返信はシンプルだった。


「月に1、2回なら大丈夫だよ」


 佳奈は微笑んだ。そして、結菜へメッセージを送った。


 スマートフォンが震える。結菜はメッセージを確認する。


 「姉曰く、月に1、2回なら食べてもいいらしいよ」


 その表情は一変した。目がキラキラと輝き始める。そして、迷いは完全に消えていた。


「すみません。苺パフェ、お願いします」


「おっ、今日は頼むんじゃん」


「うん、後押しがあったから」


 結菜の注文は、声も心も確かだった。



 数分後、その苺パフェが結菜の前に運ばれてきた。


 グラスの底には、ふんわりとしたスポンジケーキが敷き詰められている。きめ細かく、空気をたっぷり含んだスポンジは、淡いクリーム色をしていた。その上には、濃いピンク色の苺ジャムが層をなしている。濃密で、甘く、果実らしい香りが立ちのぼる。


 さらにその上には、コーンフレークが散りばめられた層がある。さくさくとした食感を約束するそのフレークは、淡いピンクのジャムとの色合いで非常に美しい。スプーンを入れた時の音を想像させるほどの存在感を持っていた。


 その上には、ふんわりとしたホイップクリームが盛られている。純白の生クリームは、空気を含んでいるかのような軽さを感じさせながらも、しっかりとした厚みで存在感を放っていた。その表面には、細かく砕いたナッツが散りばめられ、香ばしさと食感のアクセントとなっている。


 そしてその上に、バニラアイスクリームが丸く乗せられている。冷たく、クリーミーなアイスは、白いホイップクリームの上で際立つ。そのアイスの周りには、さらにホイップクリームが絞り出されている。


 そして最後に、グラスの頂上には、真っ赤に熟した苺が3つ、丁寧に並べられていた。層のところどころにカットされたいちごが散らばっている。光沢のある苺は、新鮮さの証。その種の粒々が見え、果汁がたっぷり詰まっているのが一目瞭然だ。苺の爽やかな香りが、ほのかにバニラとカラメルの香りに混ざり、複雑で上質な香りを作り出している。


 側面には、薄切りにされたサブレクッキーが何枚も、斜めに差し込まれている。焼き色が濃く、バターの香りが立ちのぼるそのクッキーは、全体に食感のレイヤーをもたらす。


 結菜がスプーンを握った時、佳奈はファミレスの別のテーブルから、優しく微笑む。


 最初の一口。スプーンが、ホイップクリームとナッツ、そしてバニラアイスをすくった。口に入れた瞬間、複雑な世界が広がった。


 冷たさと甘さが最初に押し寄せ、バニラアイスが舌の上でゆっくり溶けていく。その後、ホイップクリームの濃厚な甘さと、ナッツの香ばしさが加わる。それらが混ざり合い、クリーミーで豊かな味わいが生まれる。


 二口目。今度は苺に手を伸ばした。スプーンで大きな苺をすくい、かぶりついた時、苺の外皮が軽く抵抗を見せた後、内部の果肉とその甘さが一気に口内に溢れ出す。爽やかさの中に、自然な甘さが隠れている。この酸味がクリームの濃厚さを中和し、全体をリセットしてくれる。次々と続く甘さへの渇望を、苺の酸味が絶妙に癒やしているのだ。


 三口目。結菜は下の層へと向かった。スプーンを深く入れると、ホイップクリームを割り進める。やがてスプーンが苺ジャムの層に到達する。濃厚な苺ジャムの深い甘さが、全体の味わいを締めくくる。


 さらに深く入ると、スプーンの先に当たるのは、サクサクとしたコーンフレークだ。フレークはジャムの湿度を吸収しながらも、まだしっかりとした食感を保っている。甘いジャムの中で、そのシリアルのもつほのかな塩辛さが、味わいを引き締めている。


 さらに奥へ。スプーンの底に当たるのは、ふんわりとしたスポンジケーキだ。スポンジは、苺ジャムの甘さとクリームの濃厚さを吸収していた。ジャムの風味が浸み込んだスポンジの、しっとりとした食感。上の層のなめらかさとは異なる、奥深い甘さと食感の対比。


 結菜は、その一杯のパフェを、ゆっくりと、丁寧に味わった。上から下へ、層ごとに異なる味わいと食感を楽しむ。甘さ、冷たさ、香ばしさ、酸味。複雑に絡み合う味わいの世界。時間とともに溶けていくアイスが、下の層と混じり合い、また違う味わいを生み出していく。


 不健康だと思ったあれは、確かに糖質と脂質を含んでいた。だが、同時にそれは、幸福感をもたらすものでもあったのだ。一つ一つの材料が、丁寧に重ねられて作られたこのパフェ。そして何より、佳奈の優しさが、このパフェに込められていた。


 月に1、2回なら。その言葉が、結菜に許可を与えていた。完璧さを求めることよりも、人生の喜びを味わうことの大切さを。


 パフェを平らげた後、結菜は佳奈の方を見た。佳奈は、満足げに微笑んでいた。


 今日は姉2人にそっと背中を支えてもらった日だった。

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