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ご胞子します!マイコニメイド  作者: 未羊


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第97話 言わぬなら餌で釣ろうぞ侵入者

 どのくらい経っただろうか。

 ようやくモエとキャロが戻ってくる。

「お待たせしました、イジス様」

「うん、ご苦労」

 イジスの指示で、モエは牢屋からギリギリ届かないところに持ってきたものを置く。

 それは、実においしそうな料理だった。

 モエもメイドなので、料理はそこそこの腕前を持っている。その腕で持って作ってきた料理を餌として目の前に置いたのである。

 昨日から食事を抜かれていた侵入者たちは、目の前のおいしそうな料理にごくりとつばを飲み込んでいる。

「はははっ、俺たちを甘く見るなよ。そんな餌で釣られると思ってるのか」

 侵入者の一人が強がって笑っている。

 ところが、どうしたことだろうか。目の前の料理に数人がふらふらと釣られてしまっているではないか。

「おい、お前たち。どうしたというのだ」

「ああ、故郷の料理だ」

「お袋が作ってくれた料理だ」

 釣られた連中の言葉を聞いて、強がっていた侵入者がギロリとイジスを睨んでいる。

 それにしても、モエの胞子が辺りに漂い始めているというのに、この侵入者はかなり気の荒いままだ。どうやら必ずしも効果を発揮するというわけではなさそうだ。

 だが、たった一人での抵抗などいつまで続くだろうか。

 侵入者たちはだんだんと料理に釣られていってしまう。

「お前ら! あの方への恩義を忘れたのか?」

「恩義って、脅されて従わされただけじゃないか」

「そうだ。妙な術までかけられて、無理やりこの仕事をさせられたんだ。あの方に忠誠を誓ったあんたとは違うんだ」

 侵入者たちが次々と離反を始めている。

 ここまで反発されるとは思っていなかったのか、リーダー格の男が完全に勢いで負けてしまっていた。

「妙な術か。そこまでは言えるんだな。依頼主や内容については喋れなかったようだが」

「いや、術をかけられていることも喋れないはずだったんだ」

「でも、さっきから普通に発言できるようになってる。一体何が起きているんだ」

 侵入者たちは首をひねりながら口をそろえて証言をしている。

 これにはイジスもリーダー格の男も驚いている。

「……そうか。モエの影響か」

「えっ?」

 イジスが顔を向けると、モエはびっくりしていた。急に顔を見つめられたからだろう。

「お前たち、こちらに寝返るつもりなら、今回のことは不問にしてやろう。だが、その代わりこちらの依頼を受けてもらうぞ」

「変なことしないだろうな?」

「するわけがない。ここにいる亜人たちを見れば分かるだろう?」

 イジスの発言を受けて、侵入者たちはビスやキャロを眺めている。

 メイドという姿ではあるものの、自由に動く二人の姿。侵入者たちにとって羨ましく映ったらしく、その場に揃って跪いている。

「寝返らさせて頂きます」

「くそっ、使えない連中だな。皆殺しにしてやる!」

 リーダー格が突如として暴れようとする。

「黙りなさい!」

 そこにビスの瞳力とキャロのグーパンの風圧が飛ぶ。

「ひべらっ!」

 リーダー格はよく分からない声を上げながら吹き飛んで壁に打ち付けられ、そのまま気を失ってしまった。

「私の能力とキャロのパンチです。当分目を覚まさないでしょうね」

「すっきりしたにゃ」

 淡々と話すビスと男を壁に叩きつけるくらいのパンチを繰り出したキャロ。この二人の姿に、侵入者たちは顔を青ざめさせていた。

 まず、この二人には逆らってはいけない。侵入者たちは悟ったのだった。


 忠誠を誓うという形で、リーダー格の男以外は全員牢屋から出された。

 リーダー格の男はイジスとライバル関係にあったので、おそらく寝返ることはないだろう。そう考えたイジスは、あの男だけはあのまま牢屋につなぐことにしておいた。

 イジスの側に寝返った侵入者たちは、厨房の片隅で勢いよくモエの作った料理を食べている。

 作戦とはいえど、イジスはこの侵入者たちに激しく嫉妬の炎を燃やしていた。なにせ、イジス自身モエの手料理を食べたことがない。私より先に食べやがってと、ものすごく怖い笑顔を向けている。

 嫉妬が原因ではあるものの、牢屋に一度捕まった侵入者たちからすれば、今のイジスの様子にものすごく恐怖を感じている。生きているだけでも奇跡的な状況なのである。

 食事を終えた侵入者たちからは、より詳しい話を聞くことができた。すべてを余すことなく伝えられた侵入者たちからは、驚きの声が上がっていた。

「全部喋れたぞ」

「どうなっているんだ?」

 奇跡だというような声が上がっているが、イジスはこれがモエの胞子の力によるものだと確信していた。

 モエの癒しの胞子は、呪術すらからも解放してくれるようなのだ。

 これが決め手となり、侵入者たちは全員がイジスに忠誠を誓い、正式にガーティス子爵家に迎え入れられたのだった。

(やはり、モエの力は素晴らしいな。早く正式に妻として迎えたいものだ)

 イジスは侵入者たちと話をしながら、時折誇らしげな視線をモエに向けていた。

「そう思っているならさっさとプロポーズをするにゃ」

「キャロ、心の中を読まないの」

「イジス様は考えていることが顔に出やすいにゃ。特にモエのこととなると明らかにゃ」

 使用人たちにまでこう言われてしまう始末のイジスである。

 侵入者騒動は一応の決着を見たのだが、イジスとモエのもどかしい日々の決着はいつになるのだろうか。

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