第98話 困った時の国王様
無事に王都に到着したガーティス子爵は、すぐさま国王とジニアス司祭と謁見できるように申請を出す。
モエ絡みのことだとも伝えたので、おそらく早い内に謁見できるだろう。
到着当日は、王都にある子爵邸でゆっくりと休む子爵。途中で襲い掛かってきた連中の処理に手間取ったので、ずいぶんとお疲れのようだった。
「どうにか無事に王都に着けたな。急いで謁見の手続きだけは済ましておいたが、今日はもう休ませてもらおう」
「お疲れ様でございます、旦那様。支度はできておりますので、いつでもおやすみになられて下さい」
「ふっ、さすがだな」
ガーティス子爵は、王都の執事長と一緒に部屋へと移動していく。
ダニエルは他にもすることがあったので、そちらの用事を済ませるために別行動である。
「どうだ、こちらの方は変わりはないか?」
「はい、一応のところは。ただ……」
「ただ、なんだ?」
執事長がちょっと渋っているので、子爵はけげんな表情を向けている。
「パーカス侯爵の使いの者が来ましたね。我々を脅すつもりだったようですが、きっちりとお帰り頂きました」
執事長の言葉に、思わずぎょっとしてしまう子爵である。自分たちだけに飽き足らず、あちこちに手を出しているようだった。
「そうか……。奴らこっちにも手を出していたのか。私どもにも刃を向けてきたし、何を考えている」
「旦那様が襲われたのですか?!」
子爵が伝えてきた内容に、執事長は大げさなくらいに驚いている。
「ああ、そうだ。確実に殺せるようにとかなりの人数で夜中にな。ただ、奴らの誤算は、私たちに神獣の加護があるということだ。プリズムウルフのおかげで、無事にたどり着けたのだよ」
「左様でございましたか。でしたら、我々はしっかりと旦那様たちの疲れをお取りしませんと」
「いや、それはいい。ひとまず屋敷の守りを固めてくれ。怪しい奴がいたら、屋敷の使用人であっても遠慮するな」
「承知致しました」
子爵の命令に頷いた執事長は、部屋から出ていく。
一人になった子爵は、椅子に深く腰掛けて大きく息を吐いている。そのくらいに、今回の移動では疲れてしまったのだ。
「旦那様、ダニエルでございます」
用事を済ませて戻ってきたダニエルだが、呼び掛けるが返事がない。慌てて中に入ると、子爵は疲れ果てて眠ってしまっていたようだ。
呼吸をしている様子を見て、ダニエルはほっとした表情を浮かべている。
「今回の旅は大変でしたものね。ゆっくりお休みくださいませ、旦那様」
ダニエルはそう呟くと、シーツをそっと子爵にかけて部屋を出ていったのだった。
翌日、子爵邸に使いの者がやって来る。
どうやら昨日出した謁見の申請が通ったらしい。
「おお、予想よりもかなり早かったな」
「はい。さすがに世にも珍しいモエさんのことですから、最優先されたのだと思われます」
「ふむ。確かに、あの癒しの胞子の力は素晴らしいからな」
あっさりと謁見の許可が出たことで、子爵は少々上機嫌になっているようだった。
朝食を済ませた子爵は、早速きっちりとした服装に着替え、王城へと向かっていった。
久々にやって来た王城は、いつ見ても立派なものである。
だが、この日の子爵の目には、少しばかりいつもと違ったように映っている。それというのも、自分の息子であるイジスと、世にも珍しいマイコニドであるモエとの婚約に王家や司祭のお墨付きをもらいにやって来たからだ。
ただの謁見ではない。自分のわがままであり、息子たちを守るための謁見なのである。いつもに比べて緊張しているために、子爵には違ったように映っているのだ。
早速謁見の間へとやって来た子爵とダニエル。通された瞬間から子爵たちは跪いている。自分の無茶を聞き入れてもらったので、当然といえる態度である。
「よく来たな、ガーティス子爵。面を上げなさい」
国王が登場すると、早速そのように告げられる。言葉の通り、子爵を顔を上げて国王の方をじっと見つめている。
「子爵よ、急な申し入れだが、緊急を要すために望み通りすぐに会ってやったぞ」
「感謝致します、国王陛下」
子爵は深々と頭を下げる。
「しかし、このような用件で謁見を望むとは、なかなかな決断ですな、子爵殿」
同席しているジニアス司祭も、あまりの事態に真顔になっている。
「無茶は承知でございます。ですが、そうでもしないと無法者が襲い掛かってきますゆえ、どうかご理解いただきたく存じます」
子爵は弁明をしている。
「話は聞いておる。パーカス侯爵だったか、子爵の関係先にいろいろと手を回したようだな。これほどの嫌がらせは、過去にも見たことがない」
さすがの国王も苦い表情である。そのくらいにパーカス侯爵の行為が目に余っているようだ。
「陛下と私の連名で、一筆認めることはできますよ。モエ殿も子爵のところであれば十分力を発揮できるでしょうからな」
「悔しいが、それは認めざるを得ない。私たちの命令で子爵が預かっているという形で公表させてもらうぞ。……まったく、パーカスのやつときたら珍しいものはなんでも欲しがるのは困った癖だな」
国王は頭を抱えていた。
「子爵を襲った連中だが、こちらで身柄は預かっておく。侯爵の命令とは吐かぬだろうが、我が国の攻守の要に敵意を向けたのだ。それなりの刑罰を与えよう」
「お手を煩わせてしまい、誠に申し訳ございません」
「よいよい。代々の付き合いだ、このくらいは構わんよ」
国王はにこやかな笑顔を見せて、子爵の願いを聞き届けていた。
どうにか王都へとやって来た目的を果たした子爵は、安心した様子で王都の子爵邸へと戻ったのだった。




