第95話 決着、侵入者騒動
ガーティス子爵邸の方も、侵入者は全滅していた。
「にゃっはっはっはっ! 亜人たちの能力を甘く見たのがお前たちの敗因にゃ!」
捕まえた侵入者たちを目の前に、キャロが大きな声で笑っている。久々に大暴れができたせいか、かなり満足したようだ。
「まったく、キャロは野蛮ですね。こんな連中、そんなに力いっぱい叩かなくても大丈夫でしょうに」
ビスはじっと相手の目を見ている。
思わずドキッとしてしまう侵入者。
ビスはラビス族というウサギの亜人だ。美人ぞろいとの噂の絶えないラビス族に見つめられれば、並の侵入者はこうなってしまう。
「さて、ここには誰の差し金できたのか、話してもらいましょうか」
「は、はい……、話します」
「お、おい! お前、命が惜しくないのか?!」
どこか様子のおかしい侵入者に対して、他の侵入者たちが騒いでいる。
実はこれ、ラビス族のちょっとした能力だ。
元々亜人は蔑まれる傾向にはありものの、ラビス族はその瞳の力が忌み嫌われている。
身体能力自体はキャラル族には敵わないが、瞳に魔力を有しているのだ。
「うわさに聞いたことがありますが、これがラビス族の瞳力ですか」
「瞳力?」
何か知っていそうな使用人の言葉に、キャロが反応している。
「ええ、ラビス族の瞳には魔力が宿っていて、目の合った相手を操るのだとか。そんなバカなと笑って聞いていましたが、本当だったのですね」
「ほへ~。でも、ビスは今まで使ったことないし、あたしの勘から言ってビスは心配ないと思うにゃ」
キャロは使用人の話す内容を笑い飛ばしていた。
その間も、ビスによる侵入者への尋問が続いていた。
「さあ、尋ねます。ここにいる人たちで、屋敷の侵入者は全員ですか?」
「は、はい。全員です」
「他にはいませんね?」
「はい、いません」
ビスの質問に、侵入者は素直に答えている。
横では他の侵入者が騒いでいるが、他の亜人たちが気絶させるなどして黙らせている。
「屋敷に侵入した狙いは何ですか?」
「マイコニドを……。世にも珍しいマイコニドを捕まえるためです」
「誰の命令ですか?」
順調に進んでいる尋問だったが、この話を出したタイミングで侵入者の様子がおかしくなる。
急に震え出したのだ。
「パ、パ、パ……」
何かを言いかけているが、そこから先に進まない。
「もういいです、分かりました。ゆっくり休んで今話したことは忘れなさい。子爵様が戻られてから、正式な処分を決定して頂きます」
ビスがこういうと、侵入者はぱたりと気を失ってしまった。
「グリム様、こやつらは牢屋でよろしいでしょうか」
「ええ、旦那様が戻られるまで、投獄しておいて下さい。処分はその後決定いたします」
「承知致しました。みんな、手伝って下さい」
ビスの強力な能力を見た直後なので、使用人たちはおとなしく指示に従っている。あれは怒らせちゃいけないものだと、みんなが思ったようなのだ。
「ふぅ、イジス様とモエには知られていませんよね」
「大丈夫にゃ。あの二人はずっと部屋で仕事をしているのにゃ。多少うるさくしてもあの子たちのせいだと思ってるにゃ」
キャロがちらりと視線を向けた先には、ビスたち引き取った獣たちがずらりと並んでいた。
みんな褒めてと言わんばかりに、にこにことした表情を見せている。
「いやあ、本当にみんな助かったよ。まさかこの屋敷に襲撃を掛けてくる連中がいたなんてね。まったく怖いもの知らずが世の中にいて困ったものだわね」
キャロたちに近付きながらこう話すのは、メイド長のマーサである。
「いや、マーサさんたちにも驚きました。侵入者相手にまったく引けを取らない戦闘。私なんて瞳の力がなければ、そこらへんのか弱い乙女と変わりませんからね」
「う~ん、どこがか弱いのか、詳しく聞きたいものだわね」
「そうにゃ。あたしに負けないくらいちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返していたのにゃ」
「うふふ、キャラル族みたいな乱暴者と一緒にして欲しくないですね。ラビス族は臆病なんですから」
「絶対嘘にゃ!」
目を細めて圧を掛けてくるビスに、キャロはびびって大声を出していた。
二人のやり取りに、マーサをはじめとした手の空いている使用人たちは大声で笑っていた。
こうして、イジスとモエの知らないところで、ガーティス子爵に対する攻撃は鎮圧されていた。
しかし、誰の差し金でやって来たのかということは、結局聞き出すことができなかった。口を封じるための契約がなされていたようなのだ。
実際、ビスが聞き出そうとした時にも、うまく言葉にできないように魔法が掛けられていた。
ただ、『パ』という単語だけ聞き取ることができたので、子爵邸の使用人たちはすぐさま誰かを思い浮かべたようだった。
「やっぱり、イジス様とモエをさっさとくっつけるべきですね」
「エリィ、それは私も賛成だけど、あの二人が簡単に受け入れると思う?」
「……難しそうですね」
マーサに聞かれたエリィは、ちょっと考えた末結論を出していた。
互いが意識し合っているのは間違いないのだが、今一つ一歩が踏み出せていない。
一緒に仕事をするだけで満足している状況なのである。そのため、周りはこんな状態になっている。
「旦那様の声があれば一瞬なんだけど、それだけで片付かないのが貴族ってものなのよ」
使用人たちの悩みはまだ尽きないようだ。




