第79話 夜が明けて
ガバッ!
翌朝、目を覚ましたモエがベッドで目を覚ます。
「えっと……、私ってばどうしてたんでしたっけ……」
目を覚ましたモエは、昨日のできごとを途中からまったく覚えていなかった。
「確か、スピアノ様と踊るところまでは覚えがあるのですが……」
頭を押さえるモエだが、まったく何があったのか覚えていない。
「わふっ!」
「わっ! ととと……」
必死に思い出そうとしているモエだったが、まったく思い出せない。悩むモエに、ルスが急に飛びついてきた。
「もう、ルスってばどうしたのよ」
ルスを胸で受け止めると、両手で抱えて少し距離を取ってじっと見つめる。ルスはよく分からないといった感じで首を傾げている。ルスのしっぽが落ち着いた様子で左右に揺れている。
ルスの顔を見ながら思い出そうとするものの、やっぱりモエは何も思い出せなかった。昨日のパーティー会場で何か粗相をしていないか心配になってくる。
「……とりあえず着替えましょうか」
まったくもって何も解決しないので、モエは思い出すことを諦めた。
イジスに聞けば何か分かるだろう。そう考えて、モエはいつものようにメイド服に身を包んだのだった。
「おはようございます、旦那様、奥様、イジス様」
ガーティス子爵たちの前に姿を見せたモエは、いつものように挨拶をする。
「やあ、おはよう。モエ、昨夜はよく眠れたかね?」
「はい、それはもうぐっすりとございます」
子爵に尋ねられて、さらさらとモエは答えている。
「あの、非常に申し訳ないですが、私、何かやらかしていなかったでしょうか」
モエの口から次に出てきたのは、昨夜の建国祭のパーティーでの様子だった。記憶がすっかり抜け落ちてしまっているので、モエは心配しているようなのだ。
不安そうに尋ねてくるモエの様子に、子爵たちは顔を見合わせて笑い始めた。
子爵たちの様子に思い切り面食らってしまうモエは、やはり何かやらかしたのではないかと不安に駆られてしまう。
「いや、特に何もないというものだ。まあ、やらかしたといえばやらかしたがな」
「え、えええっ?!」
口を開いた子爵の言葉に、モエは顔を青ざめさせる。その様子に慌てたのか、イジスがフォローを入れる。
「いや、モエは間違えてお酒を飲んで酔い潰れただけなんだ。酔い潰れてすぐに眠ってしまったから、特に問題は起きていないよ。スピアノ嬢が慌てていたくらいさ」
「え、私ってばお酒なんて飲んでたんですか?」
衝撃の事実に、モエは右往左往している。
「ええ、このようなグラスを覚えていないかしら」
子爵夫人から声を掛けられたモエは、グラスの形状には見覚えがあった。
「このグラスにはワインが注がれていてね、モエはそれを少し口に含んだだけで酔っぱらってしまったんだよ」
「スピアノ嬢が慌てて呼びに来た時には驚かされたものだよ。モエはそんなにお酒に弱かったんだな……。これから気をつけないといけないな」
子爵一家から代わる代わる出てくる言葉に、モエは段々と恥ずかしくなって頭の笠くらいに顔が真っ赤になっていた。
「ももも、申し訳ございません。子爵家の顔に泥を塗るような真似を!」
慌てたモエは、頭を深々と下げて子爵たちに謝罪している。
「いやいや、酔い潰れる貴族は毎年出ているから、そんなに恥ずかしいことではないぞ」
「そ、それでも旦那様たちやスピアノ様にご迷惑をお掛けしてしまいました。このお詫びは一体どのようにすればよいのでしょうか」
取り乱すモエの様子に、子爵たちはかえって反応に困っていた。
「それであるなら、ぜひとも息子と結婚してくれればよい」
「ほへ?」
しばらくの間ののち、子爵から飛び出た言葉に、モエは思わず固まってしまう。
「元々この建国祭は、イジスにこれ以上令嬢が寄ってくるのを避けるために参加したのだからな。いっそのこと事実にしてしまうのもいいかと思うのだ」
「いいい、いけません、旦那様。私のような亜人を子爵家の血筋に入れてしまうなんて」
顔と両手を勢いよく左右に振りながら全力で否定するモエ。
「それに、私の胞子は特殊ですけれど、もし子どもが生まれたとして有毒な胞子を持っていたらどうなさるおつもりですか。マイコニドは基本的に毒の胞子なんですよ?!」
モエはもっともらしい否定意見を出して反論している。
それは確かにそうなのだ。モエの胞子は癒しの胞子という特殊なもの。しかし、マイコニドというものは本来ならマッシュのように有毒な胞子をばらまいてしまう。
イジスとの間に子をもうけたとして、その子が有害なマイコニドではない確証はないのである。
「確かに、それは懸念としてあり得る話だ」
モエの必死の抵抗に、子爵は頷いている。
「でしたら、どうかお考え直しを……」
ほっとしたモエだったが、子爵は間髪入れずに次の言葉を言い放つ。
「しかしだ。モエ、君の正直な気持ちを話してもらいたいものだな」
「しょ、正直な気持ち?」
「そうだ。君のイジスに対する気持ちだよ」
子爵は両肘をついて、モエに対して真剣な表情を向けてくる。
「わ、私は……」
モエに向けられた子爵の鋭い眼光。イジスや子爵夫人からも視線を向けられる中、モエはどのような答えを返すのだろうか。




