最後の夜
黄色の花束を持って、リーフの前に立つ。
すると気配を感じたリーフが目を開けて、花束の色に気付き、
驚いたように目を丸くして、震えた声を出した。
「…主さん、色、間違ってますよ…?」
「リーフに渡すから、黄色でいいんだ」
「…わ、私が最初で…いいんですか…?」
「フィーさんに教えて貰ったんだ。
最初に花束を貰うと幸せになれるんだって。
森人の女の子は、皆、憧れてるって」
「あの内緒の話は、これですか…?」
「そうだよ。大丈夫、ドーラも知ってるんだ」
「…うぅ…主さん…ドーラさん…」
涙が堪えられなかったのか、リーフは泣きながら花束を受け取った。
大事そうに片手で花束を持ち、もう一方の手で懸命に涙を拭っている。
そんなリーフとキスをして、
次の赤い花束を持って、ドーラに渡した。
「ドーラ。本当に綺麗だよ」
「…くふふ…服もたまには良い物じゃな…」
「ほらみて。僕もドーラの鱗みたいに全身が黒いんだ」
「かっこいいのじゃ。
…もし主がドラゴンになっても、かっこよかったかもしれないのじゃ…」
ドーラとは少し激しく、他の人に見せつけるように深いキスをした。
これはリーフに一番を譲る代わりに、そうして欲しいとドーラが言った。
満面の笑みのドーラと額も擦り合わせ、
次はフローラの為に、白い花束を二つ手に取った。
「私は軽いキスでいいからね。
人前でドーラみたいなキスは恥ずかしすぎるから」
「あはは。わかった」
「花束も二つくれるんだね。
これでは、私が一番愛されてると勘違いする人も出てくるかもね」
二つの花束で両手が埋まっているフローラに、僕から二回、キスをした。
もちろん、フローラとライアの二人分。
そして最後に、ピンク色の花束を持ってグラの前に立つ。
「…最後にもう一度聞いていい…?
…本当に、私もお嫁さんにしてくれる…?」
「うん、グラもお嫁さんになって欲しい。
この花束、受け取ってくれる?」
「…うん…えへ…ドレスを着て、花を貰って…
…物語の二人みたいなの…」
片手だけど、グラとは手を取ってキスをした。
すると、グラも泣き出してしまい、
涙の何度も拭っていた。
「主!これは主の分の花じゃ」
「あれ、僕の花も花束になってる」
「今さっき、フィーが急いで花束にしてきてくれたのじゃ」
急いでフィーさんの姿を探すと、正面の少し離れた場所から手を振っている。
とりあえず手を振り返し、ドーラから花束を受け取った。
「主。わしのつがいになって欲しいのじゃ」
「もちろんだよ。僕はドーラのつがいになる」
もう一度、ドーラと深いキスをした。
口を離すと、ちょうど里の入り口からとても強い風が吹き始める。
きっとこの風に花を乗せるんだ。
徐々に強くなる風に向かい、一列に並んだ。
「せっかく主に貰った花なのに、なんだかもったいないのじゃ」
「いいんです!風に乗って、また新しい花になっていくんですから」
「ほー。大樹まで届けばよいのじゃ」
「ふふ、そうなるといいですね。
それじゃ、飛ばしますよ!」
風が一番強くなるタイミングで、皆で一斉に花束を解いた。
全ての花が空高く飛んでいく。
皆はベールが飛ばされないように頭を押さえながら、
一生懸命に空を眺めていた。
こうして、僕達の結婚式は上手くいった。
「ん?いつの間にか皆が居なくなってるのじゃ」
「飛んでいった花を拾うと幸せになれるって、そういう言い伝えもあるんですよ」
「それを拾いに行ったのじゃ?わしが貰った花なのに?」
「幸せのお裾分けみたいなものですよ。
さぁ、着替えて帰りましょ。
そして、私達の大樹に帰る準備をしましょうか」
「おぉ!やっと帰れるのじゃ!」
皆は雑貨屋に向かい、僕はフィーさんと家に帰って着替えた。
着るより脱ぐ方が簡単で、
フィーさんと一緒にすぐに広場に戻ってきた。
「坊や達を見てたら、初めて他人が羨ましくなったよ」
「本当に綺麗だったね」
「ああ。皆が現れた時のざわめきったらなかったね。
やはりあの服は売れるぞ…ふはは…」
そんな雑談していると、ほどなくして皆が戻ってきた。
フィーさんにお礼と別れを告げて、
皆揃って家に帰る。
「…えへへ…主さん…。
これで私達、ちゃんとしたお嫁さんなんです」
「これでずっと一緒なんだね」
「そうですよ。あ、でもこれで他の女の人にちょっかい出せませんよ?
浮気になっちゃいますからね?」
「あはは。出さないよ」
「…緊張したから、少し疲れたの…」
「わしもじゃ。主、一緒にお昼寝するのじゃ」
「あ、ずるい!私も一緒に寝ます!」
「つがいになって初めて一緒に寝るから、リーフは邪魔じゃ」
「何するつもりなんですか!抜け駆けはダメですよ!」
式は終わったけど、いつも通りじゃれ合う二人を見てなぜか安心した。
結局、皆で揃ってお昼寝をすることになった。
僕も疲れていたらしく、あっという間に眠りにつく。
目を覚ますと少し外が暗く張り始めてて、
皆で慌てて、晩御飯の準備をした。
翌日、里長に改めて感謝とお別れを伝えに行った。
里長の言葉は、相変わらず僕にはわからなかったけど、
最後に握手をする時、嬉しそうに笑ってくれた。
その足で雑貨屋に向かう。
店内では、いまだ森人の女の子が二名ほど服を作っていた。
僕達に気付くと軽く会釈をし、フローラに話しかけていた。
「いらっしゃい。今日は何を買う?」
「もう大樹に帰るだけなので、必要な物はないんですよね。
ただお別れを言いに来ただけです」
「なんだ。客じゃないから帰ってくれ」
「相変わらずですね…」
「ハハッ。嘘だよ。いつ帰る?」
「明日には立とうかなって」
「早いね。まぁ、大樹にはたまに寄るからよろしくな」
「それ、昨日主さんから聞きました。ほんといつの間に…」
グラは途中からずっと泣いていた。
フィーさんは服作りが安定するまでこの里を離れる気はなく、
街に行くのは当分先になるそうだ。
でも、また会えるんだからとフィーさんに慰めて貰っていた。
僕もフィーさんにお世話になったから、最後に握手を交わす。
「色々とありがとうフィーさん」
「こちらこそ。いい経験をさせて貰ったよ」
「大樹で待ってるね」
「ああ、またな」
そうして雑貨屋を後にした。
家に戻り、帰る為に荷物をまとめる。
帰りは再び一回の野営を挟み、明後日には大樹に着くそうだ。
「これ、持って帰れるかな?」
「中の土は難しいですけど、植木鉢なら大丈夫ですよ」
「ほんと?なら持って帰りたい」
フローラに貰った植木鉢を川で洗い、丁寧に拭いてから布に包む。
グラに貰った鉱石も同じように包んで、僕の準備は終わり。
食器や布団はそのままにして、フィーさんが後日、回収してくれるそうだ。
里で最後の夜。
食事をして、水浴びをして、
寝る前の僅かな時間に、リーフと二人きりで散歩した。
静かな里をゆっくりと歩き、結婚式をした広場のベンチに座る。
「此処でリーフのお父さんとお母さんによろしくって言われたんだ」
「えっ!…いつですか?」
「風が吹く少し前。フィーさんが皆の様子を見に行った時」
「遠くから見てるのは知ってましたけど、そう、ですか…」
それを聞いたリーフは静かに泣いていた。
手を握って、落ち着くのを待つ。
しばらくして、落ち着いたリーフと軽いキスをした。
「少し、寂しい気分になっちゃいました」
「また此処に来ようよ。僕も此処が気に入った」
「ほんとですか?それはよかったです!
…今度はお父さんとお母さんに、ちゃんと紹介できるかな…」
「あはは、どうだろうね。
お父さん、なんだか泣くのを我慢してたみたいだった」
帰りながら、両親と会った時の事を詳細に教える。
僕を小僧と呼んでいた事をちょっと怒っていたけど、顔は笑っていた。
それから家に戻り、皆と最後の夜を過ごした。
…。




