ずっと、この森で
翌日、朝から大走鳥に荷物を乗せた。
此処へ来た日より、格段に荷物が増えてるけど、
全然余裕そうなので安心した。
そうして、家を後にする。
それなりに長く暮らしてた場所だから、なんとなく寂しい。
大樹より小さな家だったけど、皆との距離が近くて楽しかった。
広場に到着すると見覚えのある顔を見つけた。
雑貨屋の店主のフィーさんだ。
それに、フローラと一緒に服を作った子達も居る。
フローラとグラはフィーさんと何かを話していた。
森人の女の子二人はリーフに近づき、
森人の言葉で何かを伝え、リーフが照れたように笑っていた。
「あまり引き留めても悪いね。
それじゃ、近いうちに仮拠点の下見に行くから」
「…それって大樹の事ですか?」
「そうだよ。せっかく龍人とも知り合えたんだから、いいだろ?」
「遊びに来るのじゃ?別に構わないのじゃ」
「よかった。魔女に聞いたお風呂とやらも興味があるし、楽しみだよ。
坊やもよろしくな」
「うん。またね」
フィーさん達に見送られて、再び出発した。
グラは、また泣いていたみたいだ。
僕も知り合った人と離れるのは初めてだから寂しくて、
前に乗るドーラに、思い切り抱き着いた。
それでも、大樹に帰れる事は嬉しい。
のんびりと歩くような速度で進み、また明るいうちに野営の準備をして、
何事もなく一晩を過ごした。
朝がきて、またゆっくりと進む。
なんとなくだけど、次第に見慣れた森になってきた。
「ねぇドーラ。もうすぐかな?」
「主もそう思うじゃ?
なんとなく、見慣れた植物も増えてきたのじゃ」
「やっと帰って来たんだね」
「里もなかなかじゃったけど、早く大樹に帰りたいのじゃ」
そうして、久しぶりに大樹に帰ってきた。
なんだか長い間離れていた気もするし、
あっという間だった気もする。
そんな、なんとも言い難い気分で大走鳥から降りて、
ドーラと一緒に玄関の扉を開けた。
「主、おかえりじゃ!」
「ただいま。ドーラもおかえりだね」
「ただいまじゃ!…やっぱり、わしは此処で主と暮らしたいのじゃ」
「そうだね。僕もそう思う」
里に居た時は、あのまま里で暮らすのも悪くないと思っていた。
でもこうして帰ってくると、此処しかないという気持ちになる。
大樹で過ごしてきた時間を思い出し、ドーラと強く抱き合った。
「ほらそこの二人、
抱き合うのもいいけど、明るいうちにまずは掃除をしようか」
「魔女は掃除ばっかりじゃな?わしは主と散歩したいのじゃ」
「ダメだよ。ほら、色んな所に埃が積ってるだろ?
布団だって干す時間はあまり無くても、せめて外で叩きたい」
フローラに急かされて、皆で大樹の掃除を始めた。
確かにあちこちに埃が溜まっている。
出発前、あれだけ掃除をしたというのに不思議だ。
掃除が一段落する頃には外は暗くなっていた。
久しぶりに夜鳥が見たくなって皆で外に出ると、
僕が記憶してるよりも、多くの夜鳥が集まっている気がした。
「ねぇドーラ。夜鳥、こんなに多かったっけ」
「ん~、確かに多い気がするのじゃ」
「ドーラを見に来たのかな?」
「そうじゃ?わしは帰ってきたから安心するのじゃ」
ドーラが夜鳥に向かってそう口にした。
すると、本当に安心したように一斉に鳴きだし、夜空に向かって飛んでいく。
それを見えなくなるまで、皆で見送った。
夕食の準備はフローラとグラがしてくれるそうだ。
その間に、僕達三人は久しぶりにお風呂を楽しんだ。
久々のお湯はやっぱり気持ちよくて、身体がほぐされていく感じがする。
「リーフ、ちょっと主に近づき過ぎじゃろ?」
「そうですか?」
「前はもっと離れてたじゃろ?」
「結婚式もしたし、夫婦なんだからいいじゃないですか」
「…ダメじゃ!もっと離れるのじゃ!」
「ちょっ、狭いんだから暴れないでくださいよ!」
「あはは」
いつも通りのやり取りを聞くと、帰ってきた実感が増す。
その後、騒ぎを聞きつけたフローラが現れて、
二人を軽く叱り、落ち着いた。
夕食に具沢山のスープを食べた。
フローラは里でも何度も作ってくれた。
でも、大樹で食べると、不思議と落ち着くのはなんでだろう。
洗い物は僕達が請け負い、フローラ達がお風呂を済ませた後、
皆で揃って丘に出向き、星を見上げた。
里と違って星明りだけの、暗くて静かな空間。
ドーラと繋いだ手だけが温かい。
この場所でドーラに触れると、いつも助けても貰ったあの日を思い出す。
「…あの日、主を拾ってよかったのじゃ」
「僕も思い出してた」
「…くふふ…懐かしいのじゃ」
思い出に浸りながら、しばらく星を眺めて過ごした。
それから家に戻り、懐かしい大樹のベッドに並んで寝転がる。
こうやって、しばらく皆でゆっくり過ごせると思ってた。
だけどリーフが明日、大樹を離れると言った。
「私、明日にでも街に行ってきますね」
「帰ってきたばっかりなのに?」
「しばらく鱗も渡しに行ってないし、パン粉とかもほとんどないですからね」
「…せめて明後日にしない?」
「ふふ、寂しいんですか?
でも早くしないと、食事がスープだけになっちゃいますよ?」
「それでもいいから」
「…えへへ…じゃあ、明後日にしますね…」
最近、里でずっと一緒に過ごしていたから、
前より離れるのが寂しいと感じてしまう。
三日も四日も、リーフが居なくなることを受け入れたくなかった。
翌日はのんびりと過ごした。
久々に森を散策し、丘でゆっくりと過ごす。
その後、里から持ってこれた少量の粉でパンを作ったりして、
あっという間にリーフが街に行く日になってしまった。
「そういえば、大走鳥達は返さなくてよいのじゃ?」
「いつでも皆で里にこれるようにって、お母さんに貰いました」
「ほぉー。その気になれば皆で街にも行けるわけじゃな?」
「まぁそうですけど、街に行きたいんです?」
「リーフが居なくなると主が寂しそうじゃから言ってみただけじゃ」
「…ふふ、私が居ない間、主さんをよろしくお願いしますね」
「…嬉しそうにしおって…。早く行って早く帰ってくるのじゃ!」
「あ、待ってリーフ。最後に…」
「わかってますよ主さん。ほら、ぎゅーってしてください!」
抱き締めた腕の力を、なかなか抜くことができなかった。
出来る事なら、行かないでほしい。
でも必ず帰ってくるって、リーフが耳元でささやいてくれた。
「それに大走鳥が増えましたから、荷物も沢山運べます。
だから街に行く回数も格段に減りますよ」
「…うん、わかった」
「帰ってきたら、またこうして抱き締めてくださいね」
リーフの旅立ちを見送った後、皆を展望台に誘った。
でも、あの場所は狭いからとフローラが言うので、
結局、ドーラと二人だけでやってきた。
「主に寂しがってもらえるリーフが羨ましいのじゃ。
もしわしが街に行っても、それくらい寂しがってくれるじゃ?」
「それは、僕を置いて?」
「仮の話じゃけど、そうじゃ」
「…絶対にダメだよドーラ。僕を一人にしないで」
「するわけないじゃろ?たとえ話じゃ」
「…たとえ話でも、僕はドーラと離れたくない」
多分、今までで一番強くドーラを抱き締めた。
普段は苦しかったら可哀想だと思って、本気を出した事はなかったけど、
今はそんなこと、考えている余裕はなかった。
「…はぁー…力強くて良いのじゃ…。
…そうやって、ずっと、いつまでも捕まえてて欲しいのじゃ…」
「わかった。だから何処にも行かないで」
「…くふふ…ずっと一緒じゃから安心するのじゃ。
主の執着心は、きっとドラゴン並みじゃ」
僕はずっと、この森でドーラと一緒に生きていきたい。
出会った時から、この気持ちは変わらない。
初めてキスをしたこの場所で、
改めてそんな願いを込めながら、ドーラと口を重ねた。
…。




