↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/82

花束

♢



今日、とても強い風が吹くそうだ。

しかし、気が付けば吹くまでにあまり時間は無く、

朝からバタバタとしていた。



「もう!ドーラさんがゆっくり寝てるから!」

「仕方ないじゃろ!

 昨日主の匂いを嗅いでたら寝るのが遅くなったのじゃ!」

「はいはい。喧嘩しない。

 私達は急いで雑貨屋に向かうよ」

「…いってきますなの…主さん…」



四人は慌てながらも仲良く雑貨屋に向かった。

僕はただ一人、家で待つ。

しばらくすると見慣れた人影が近づいてきた。



「やぁ坊や」

「フィーさん。手伝ってくれてありがとう」

「いいさ。謝礼はリーフの親父から貰ってあるんだ」



フィーさんに手伝って貰って、初めての服に袖を通す。

黒色で、しっかりした重い生地の服。

なんだか、全身に鱗が生えたみたい。

この姿を早くドーラに見て欲しいと、そう思った。



「うん。なかなか似合うね。

 これは異国の服で珍しいそうだよ」

「そうなんだ。僕はこれからどうすればいい?」

「渡す花束を作ろう。

 せっかく育てた坊やの花も使っていいんだよね?」

「花束?僕の花だけで足りるかな?」

「足りないから花屋には話をつけてある。

 坊やの花を摘んで、花屋に向かおう」



育てた花を摘み、フィーさんと花屋に向かう。

途中、雑貨屋の前を通ったけど、

着替えにはまだまだ時間がかかるらしく、外には誰も居なかった。



「この花、なかなか上手に育てたじゃないか」

「フローラが手伝ってくれたんだ」

「フローラって、まだ別の女がいるのか?」

「フローラは魔女さんの本当の名前」

「…ふっ、坊やにだけ本名を呼ばせてるのか」



花屋に着くと、待ってましたとばかりに店員が出てきた。

皆がそれぞれが好きだと言った色を伝え、

僕が育てた花を中心に飾り付け、大きな花束を作った。



「飛ばすならこれくらい大きくしなくちゃダメだよ」

「そうなの?初めて聞いた」

「リーフは何も言わなかったみたいだね。

 まぁ、坊やの負担になると思ったのかもしれないけど…。

 それと坊や、約束は覚えてる?」



花束を抱えて、一足先に広場に向かった。

約束は二つ。

一つは花を渡すとき、一番最初にリーフに渡して欲しいと言う事だった。



「覚えてるよ。最初にリーフに花束を渡すんだよね」

「森人の中にも稀に複数で結婚する奴がいる。

 ただ、誰が花を最初に受け取るかが重要なんだ」

「どうして?」

「昔から一番幸せになれると言われてる。

 それに、他種族を引き連れてわざわざ此処で式をするんだ。

 リーフの顔を立ててあげたら、喜ぶだろうと思ってさ」



最初、その話はドーラと一緒に聞いた。

ドーラは理由を簡単に聞いただけで、フィーさんの願いを聞き入れた。



「龍人も心が広いね。

 自分はもう幸せだから、リーフに譲ってやるなんてさ」

「あはは。ドーラはすごく優しいんだよ」

「魔女に聞いてる分にはそう聞こえなかったところも多いけど、

 坊やがそう言うなら、そうなんだろうね」



広場に着いた。

まだドーラ達の姿はなく、でも何人かの森人は既に見学に来ていた。

とりあえずベンチに座り、空を見上げる。



「もう一つの約束も覚えてる?」

「僕とフィーさんは友達になったんでしょ?」

「ああそうだ。だから、坊やの大樹に泊めてね」



フィーさんはこれから街と里を、何度も往復する事になる。

だからその中間にある大樹を仮拠点とできるなら、ものすごく楽なんだそうだ。



「魔女にも小物を作って貰って受け取りにもいけるし、

 たまになら街からお使いも頼まれたって良いよ。

 あ、私も大走鳥を買わないといけないのか」

「あれっていくらするの?」

「二匹で家が買えるくらい」



家の値段がわからないからピンとこないけど、ものすごく高いんだろう。

僕もフローラやグラみたいに働けば、お金の価値がわかるだろうか。

でも、僕に何ができるんだろう。



「僕も何処かで働いたりできるかな」

「坊やは働くより、皆と過ごしてやった方がいい」

「そう?」

「坊やは感じてないのかもしれないけど、魔女達は愛が重い。

 坊やと過ごす時間を、今より減らすのはお勧めできない。

 どうしても働きたいなら…魔女に裁縫を習って小物を作ってくれ」

「うん。わかった」

「…あの四人の愛を受け止めてる坊やは、大物なのかもしれないね」



フィーさんは最後にそう呟いた。

それから立ち上がって、両手を伸ばして大きく背伸びをした。

僕も真似をして背伸びをすると、風が少し強くなってる事に気が付く。


そろそろ、時間なのかもしれない。



「で、あいつらは何をしてるんだ?

 そろそろ広場に集まった方がいいだろうに…。

 せっかく坊やの花を使ったんだから、延期にはできない」

「何かあったのかな?」

「見てくる。坊やは待ってな」



フィーさんは急ぎ足で雑貨屋に向かう。

僕が一人になった瞬間、

すごい速さで大走鳥が走ってきて、男の人が飛び降りた。


そして僕の目の前に立ち、しかめっ面で口を開いた。



「小僧、娘を頼んだぞ」

「…もしかして、リーフのお父さん?」

「…。」



なんとなくの面影から聞いてみたけど、否定も肯定もされなかった。

ただ黙って手を差し出すので、それに応える。

その握手はとても熱く、力強いものだった。


すると、ゆっくりともう一匹の大走鳥に乗った女の人が現れて、

今度はリーフの母親と名乗った。



「ごめんなさいね。この人、あまり話すと泣きそうだからって…」

「おい」

「あはは、そうなんだ」

「リーフがお嫁に行くのが寂しいみたい。

 とにかく、娘をよろしくお願いします」

「うん。僕に任せて」



物腰は柔らかいけど、やっぱりリーフに似ている。

その人とも握手をし、二人はあっという間に離れていった。

でも、見える場所には居る。

僕の視線に気づいたお母さんは、大きく手を振ってくれた。


しばらくして、ドーラ達が現れた。

白くて大きなドレスに身を包んだ四人が、此方に向かって並んで歩いてくる。


衣装に身を包んだドーラは新鮮で、とても綺麗だった。



「ドーラも皆も、すごい似合ってるよ」

「…くふふ…主もカッコいいのじゃ…」

「ありがとうドーラ。

 風も強くなりそうだし、もう初めていいのかな?」

「はい!それじゃ、皆で主さんから花を受け取って風を待ちましょうか」



ドーラ達が現れて、辺りがどよめいているのがわかった。

ざわざわとして、皆、近くの人と何かを話している。

気になって辺りを伺っていると、

いつの間にか近寄っていたフィーさんが、皆の会話の内容を教えてくれた。



「いいね。お前達の衣装について皆が興味津々だ。

 いい宣伝になってるよ」

「こんなに可愛いんだもん。すごいねフローラ」

「私も、似合ってるかな?主くん…」

「すごい似合ってるよ。

 ドーラもリーフもフローラも、ライアもグラも…皆、綺麗だよ」

「…いつもライアの名も呼んでくれてありがとう"主"…」



初めてフローラに呼び捨てにされた。

それに、声が二つ重なって聞こえた気がする。

もしかするとライアの声だったのかもしれない。


それを確認する前に、フィーさんが僕の背中を叩く。



「ほら!急がないと風が吹いてしまうよ」

「そうだった!それじゃ一人ずつ…」



ベンチに置いた花束の一つを手に取った。

リーフはまだ自分の番は来ないんだと思っているのか、

静かに俯き、目を閉じていた。



…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。