花束
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今日、とても強い風が吹くそうだ。
しかし、気が付けば吹くまでにあまり時間は無く、
朝からバタバタとしていた。
「もう!ドーラさんがゆっくり寝てるから!」
「仕方ないじゃろ!
昨日主の匂いを嗅いでたら寝るのが遅くなったのじゃ!」
「はいはい。喧嘩しない。
私達は急いで雑貨屋に向かうよ」
「…いってきますなの…主さん…」
四人は慌てながらも仲良く雑貨屋に向かった。
僕はただ一人、家で待つ。
しばらくすると見慣れた人影が近づいてきた。
「やぁ坊や」
「フィーさん。手伝ってくれてありがとう」
「いいさ。謝礼はリーフの親父から貰ってあるんだ」
フィーさんに手伝って貰って、初めての服に袖を通す。
黒色で、しっかりした重い生地の服。
なんだか、全身に鱗が生えたみたい。
この姿を早くドーラに見て欲しいと、そう思った。
「うん。なかなか似合うね。
これは異国の服で珍しいそうだよ」
「そうなんだ。僕はこれからどうすればいい?」
「渡す花束を作ろう。
せっかく育てた坊やの花も使っていいんだよね?」
「花束?僕の花だけで足りるかな?」
「足りないから花屋には話をつけてある。
坊やの花を摘んで、花屋に向かおう」
育てた花を摘み、フィーさんと花屋に向かう。
途中、雑貨屋の前を通ったけど、
着替えにはまだまだ時間がかかるらしく、外には誰も居なかった。
「この花、なかなか上手に育てたじゃないか」
「フローラが手伝ってくれたんだ」
「フローラって、まだ別の女がいるのか?」
「フローラは魔女さんの本当の名前」
「…ふっ、坊やにだけ本名を呼ばせてるのか」
花屋に着くと、待ってましたとばかりに店員が出てきた。
皆がそれぞれが好きだと言った色を伝え、
僕が育てた花を中心に飾り付け、大きな花束を作った。
「飛ばすならこれくらい大きくしなくちゃダメだよ」
「そうなの?初めて聞いた」
「リーフは何も言わなかったみたいだね。
まぁ、坊やの負担になると思ったのかもしれないけど…。
それと坊や、約束は覚えてる?」
花束を抱えて、一足先に広場に向かった。
約束は二つ。
一つは花を渡すとき、一番最初にリーフに渡して欲しいと言う事だった。
「覚えてるよ。最初にリーフに花束を渡すんだよね」
「森人の中にも稀に複数で結婚する奴がいる。
ただ、誰が花を最初に受け取るかが重要なんだ」
「どうして?」
「昔から一番幸せになれると言われてる。
それに、他種族を引き連れてわざわざ此処で式をするんだ。
リーフの顔を立ててあげたら、喜ぶだろうと思ってさ」
最初、その話はドーラと一緒に聞いた。
ドーラは理由を簡単に聞いただけで、フィーさんの願いを聞き入れた。
「龍人も心が広いね。
自分はもう幸せだから、リーフに譲ってやるなんてさ」
「あはは。ドーラはすごく優しいんだよ」
「魔女に聞いてる分にはそう聞こえなかったところも多いけど、
坊やがそう言うなら、そうなんだろうね」
広場に着いた。
まだドーラ達の姿はなく、でも何人かの森人は既に見学に来ていた。
とりあえずベンチに座り、空を見上げる。
「もう一つの約束も覚えてる?」
「僕とフィーさんは友達になったんでしょ?」
「ああそうだ。だから、坊やの大樹に泊めてね」
フィーさんはこれから街と里を、何度も往復する事になる。
だからその中間にある大樹を仮拠点とできるなら、ものすごく楽なんだそうだ。
「魔女にも小物を作って貰って受け取りにもいけるし、
たまになら街からお使いも頼まれたって良いよ。
あ、私も大走鳥を買わないといけないのか」
「あれっていくらするの?」
「二匹で家が買えるくらい」
家の値段がわからないからピンとこないけど、ものすごく高いんだろう。
僕もフローラやグラみたいに働けば、お金の価値がわかるだろうか。
でも、僕に何ができるんだろう。
「僕も何処かで働いたりできるかな」
「坊やは働くより、皆と過ごしてやった方がいい」
「そう?」
「坊やは感じてないのかもしれないけど、魔女達は愛が重い。
坊やと過ごす時間を、今より減らすのはお勧めできない。
どうしても働きたいなら…魔女に裁縫を習って小物を作ってくれ」
「うん。わかった」
「…あの四人の愛を受け止めてる坊やは、大物なのかもしれないね」
フィーさんは最後にそう呟いた。
それから立ち上がって、両手を伸ばして大きく背伸びをした。
僕も真似をして背伸びをすると、風が少し強くなってる事に気が付く。
そろそろ、時間なのかもしれない。
「で、あいつらは何をしてるんだ?
そろそろ広場に集まった方がいいだろうに…。
せっかく坊やの花を使ったんだから、延期にはできない」
「何かあったのかな?」
「見てくる。坊やは待ってな」
フィーさんは急ぎ足で雑貨屋に向かう。
僕が一人になった瞬間、
すごい速さで大走鳥が走ってきて、男の人が飛び降りた。
そして僕の目の前に立ち、しかめっ面で口を開いた。
「小僧、娘を頼んだぞ」
「…もしかして、リーフのお父さん?」
「…。」
なんとなくの面影から聞いてみたけど、否定も肯定もされなかった。
ただ黙って手を差し出すので、それに応える。
その握手はとても熱く、力強いものだった。
すると、ゆっくりともう一匹の大走鳥に乗った女の人が現れて、
今度はリーフの母親と名乗った。
「ごめんなさいね。この人、あまり話すと泣きそうだからって…」
「おい」
「あはは、そうなんだ」
「リーフがお嫁に行くのが寂しいみたい。
とにかく、娘をよろしくお願いします」
「うん。僕に任せて」
物腰は柔らかいけど、やっぱりリーフに似ている。
その人とも握手をし、二人はあっという間に離れていった。
でも、見える場所には居る。
僕の視線に気づいたお母さんは、大きく手を振ってくれた。
しばらくして、ドーラ達が現れた。
白くて大きなドレスに身を包んだ四人が、此方に向かって並んで歩いてくる。
衣装に身を包んだドーラは新鮮で、とても綺麗だった。
「ドーラも皆も、すごい似合ってるよ」
「…くふふ…主もカッコいいのじゃ…」
「ありがとうドーラ。
風も強くなりそうだし、もう初めていいのかな?」
「はい!それじゃ、皆で主さんから花を受け取って風を待ちましょうか」
ドーラ達が現れて、辺りがどよめいているのがわかった。
ざわざわとして、皆、近くの人と何かを話している。
気になって辺りを伺っていると、
いつの間にか近寄っていたフィーさんが、皆の会話の内容を教えてくれた。
「いいね。お前達の衣装について皆が興味津々だ。
いい宣伝になってるよ」
「こんなに可愛いんだもん。すごいねフローラ」
「私も、似合ってるかな?主くん…」
「すごい似合ってるよ。
ドーラもリーフもフローラも、ライアもグラも…皆、綺麗だよ」
「…いつもライアの名も呼んでくれてありがとう"主"…」
初めてフローラに呼び捨てにされた。
それに、声が二つ重なって聞こえた気がする。
もしかするとライアの声だったのかもしれない。
それを確認する前に、フィーさんが僕の背中を叩く。
「ほら!急がないと風が吹いてしまうよ」
「そうだった!それじゃ一人ずつ…」
ベンチに置いた花束の一つを手に取った。
リーフはまだ自分の番は来ないんだと思っているのか、
静かに俯き、目を閉じていた。
…。




