内緒の話
私達がいる間に、大きな風が吹く日が二度あった。
それが、この里で結婚式を行える日。
普段なら一組か二組、結婚式を挙げる人達がいるそうだけど、
今は私達に遠慮してるのか、誰もしなかった。
「準備がほとんど出来たので、次の風の日に結婚式をします」
「やっとじゃ?この里ともいよいよお別れじゃな~」
「式をしても、しばらく居てもいいですよ?
私はどっちでもいいですけど」
「ん~?まぁわしもどっちでもよい気分じゃ」
「主くんに決めて貰ったらどうだ?
私達は主くんの居る場所なら、結局何処でもいいんだと思うよ」
皆の視線が主さんに集まった。
主さんは立ち上がり、玄関に立って外を眺める。
大樹とこの里と、どっちにするかを真剣に考えてるのかもしれない。
そう思っていると、ふいに此方を振り向いて、私に声を掛けてきた。
「グラは大樹とこの場所と、どっちがいい?」
「…主さんにお任せするの…」
「そっか。なら、この場所も好きだけど、一度帰りたいな」
「主が帰りたいなら、そうするのじゃ」
静かにしてた私を気に掛けてくれて、気持ちを聞いてくれた。
それが、とにかく嬉しい。
確かにこの里は私を受け入れてくれたから、本当に良い所だと思う。
此処で暮らすのも、きっと悪くは無いんだろうけど、
私も彼が過ごしたい場所で、一緒に過ごしたい。
おそらく、後十日ほどで強い風が吹く予想だ。
数日前になればもっと確実な日取りがわかるみたい。
主さんが植えてくれた花も、ちょうどいい感じに咲きそうだった。
「わしは赤い花が良いのじゃ」
「私は黄色ですかね~」
植木鉢には色んな色の花のつぼみが沢山ある。
結婚式では咲いた花を主さんから受け取り、風で飛ばすと聞いた。
上手く飛ばせると幸せになれると言い伝えがあるみたい。
気が早いかもしれないけど、今から少し緊張してしまう。
「フローラとライアは白だよね。
グラは何色がいい?沢山あるから誰かと重なっても平気だよ」
「…えっと…」
もう一度、植木鉢のつぼみをよく観察する。
赤や白や黄色、後はオレンジにピンクがある。
似合わないかもしれないけど、私はピンクがいい。
「…ピンクでもいい…?」
「もちろんいいよ。
僕もオレンジの花を飛ばしてみようかな?」
「男性が花を飛ばすところは見た事ないですけど、いいですね!
皆で一緒に飛ばしましょうよ!」
こうして、それぞれの花の色が決まった。
もし当日に咲かなければ次回まで待つそうだけど、
リーフさんの見立てではおそらく大丈夫だそうだ。
「…明日、フィーさんに次で式をするって言っていい…?」
「いいですよ。お仕事もいよいよ終わりですね。
里の皆もグラさんに感謝してましたよ!」
沢山の人に感謝され、必要とされて嬉しかった。
そんな機会をくれたフィーさんにお礼がしたくなった。
何か出来る事はないかと考えてはみるものの、
何も思い浮かばずに、次の日になってしまった。
翌朝、魔女さんと一緒に雑貨屋に向かう。
魔女さんが教えていた森人の女の子達も、
私達がもうすぐ居なくなると伝えると、何処か寂しそうだった。
「やっぱり里を出て行くのか?」
「大樹に帰るよ。
この里も悪くはなかったけど、やはり他種族だから目立つ」
「お前達なら永住しても許されそうなものだけど」
「かもしれないが、帰るよ。世話になったね」
「お互い様だ。それに私達も街に行くから、どの道お別れだ。
でもまぁ、帰っても引き続き小物は作ってもらいたいからね。
輸送とか報酬とか、まぁその辺はリーフと話し合うよ」
お別れは寂しいけど、繋がりが無くなるわけじゃなさそうだ。
私は関係ないかもしれないけど、少しだけホッとした。
「…私もフィーさんにお世話になったから、お礼がしたいの…」
「お礼?お礼を言いたいのは稼がせて貰った私の方だよ」
「…でもフィーさんが居なかったら働けなかったから…」
「グラは本当に良い子だね。お礼と言うなら…、
やっぱり、一緒に街に来ないか?」
「…それは嫌なの…」
「因みに、なんで嫌なんだ?」
「…主さん、居ないから…」
「ま、そうだろうな。
うーん、そのお礼なんだけどさ。坊やと二人で話をさせてくれないか?」
「…主さんと…?」
思わず魔女さんと顔を見合わせる。
何かのお礼に主さんと二人で話したいなんて、
まるで私達がドーラさんにお願いするような事だと思った。
「この前、帰りに付いてきた時に主くんと少し話をしたじゃないか」
「あの時は魔女とグラの旦那に挨拶をと思っただけだ。
それとは別に話がある」
「聞かれちゃまずい話か?」
「まずくはないよ。
それに二人で話したいというより、リーフには内緒にしたいだけだ。
なんなら、龍人様も同席して貰っても構わないよ」
ドーラさんも一緒なら、私はいいかなって思った。
魔女さんはフィーさんの真意を探るようにいくつか質問してたけど、
最終的には頷き、明日、広場で待ち合わせる事になった。
その日の仕事を終えて家に帰った。
明日の事をどう説明しよう。
リーフさんに嘘は通じないから、どうやって伝えればいいのか悩んだ。
「明日、主くんとドーラは広場に行ってくれないか?」
「ん?別によいけど、なんでじゃ?」
「フィーが二人に話したい事があるんだって。
リーフには聞かれたくない話があるらしいよ」
「え、なんですかそれ。怖いんですけど…」
魔女さんは堂々とそう言った。
当然、リーフさんは少し変な顔をしてたけど、
何か思い当たる節があるのか、文句は言わなかった。
翌日、主さん達は出掛けて行った。
私達は仕事も休みにして貰って、
リーフさんと三人で久しぶりに里の外にハーブを摘みに行った。
「なぁリーフ。フィーは何の話をしてると思う?」
「うーん…。いろいろ想像はできますけど、
悪い人じゃないので、気にしない事にします」
「帰ったら主くんに聞いてみる?」
「ん~、それもやめときます。
内緒の話を聞いても、主さん困っちゃいそうだし…」
口ではそう言うけど、思い悩んでいるような表情だ。
元気がないリーフさんとある程度採取を続けて、
まだまだ明るい時間だったけど、家に帰る事にした。
遠目で広場を見ると人影はなかった。
既に話は終わってるみたいで、そのまままっすぐ家に向かう。
家に近づくにつれ、リーフさんの表情は曇っていった。
「…主さん!」
家に着いた瞬間に、リーフさんは大走鳥を飛び降りて家の中に走っていった。
主さんは急な事に驚いていたけど、
リーフさんを受け止めていた。
「おかえりリーフ。早かったね」
「…フィーさんに、変な事言われてないですよね?
私と結婚するの、嫌になったりしてないですよね?」
「あはは、なるわけないじゃないか」
「…そう、ですよね…」
主さんは抱き着くリーフさんを少しだけ離した後、
俯くリーフさんに、主さんからキスをしてた。
ドーラさんの目の前で主さんから誰かにするのは、
無くは無いけど、かなり珍しい。
チラっとドーラさんの様子を伺うと、ちょっと渋い顔をしていた。
「誰に何を言われたって、僕はリーフとも結婚するよ。
フィーさんとの話は…、
内緒の方がリーフが喜ぶって言われたから、何を話したかは内緒なだけ」
それを聞いたリーフさんはやっと安心した。
でも、普段冷静なリーフさんがああも動揺する姿に少し驚いた。
今の姿に少しだけ羨ましさを感じるのは、いけない事なんだろうか。
主さんにとってドーラさんが一番大切で特別なのはよくわかってる。
でも、今の姿を見ればリーフさんも特別に見える。
私もお嫁さんの一人なのに、ものすごい差を感じる。
何番目でも、最後でも、少しだけでも好きになって欲しいと言ったけど、
今はもっと好きになって欲しいと、そう願っている。
…。




