表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/73

色々な約束

 望んだ答えが得られるはずもなく、


風が収まるとドーラは少し落胆した様子だ


名前がわからないなら、同じようにすればいい


そう伝えたけど、ドーラは躊躇しているようだった


「…わしが考えてよいのじゃ?

 御主は忘れているだけで、きっと本当は名前が…」


「僕もドーラに名前を付けて欲しい

 …思い出すまででもいいから…」


ドーラは僕をじっと見つめてきた


頷くと本気なのが伝わったのか


再び、空を見上げて考え出した


「…そうじゃなぁ…」


再び森の声を聞くためか、ドーラは目を閉じた


それからあまり時間を置かずにヌシと、そう言った




 魔女に、お前は森の主だねと言われたことがあるらしい


意味を聞いたドーラは主という言葉を大層気に入っており、


他人を指す言葉も御主にしていると言った


「御主は、相手を指す言葉らしいから、名前じゃないから…

 …わしもちょっと変えて、主って呼びたいのじゃ」


「いいのかな?

 ドーラの話を聞くと強い存在だけみたいだけど…」


主の意味を聞くと森で一番強いとか、そんなような意味だ


ドーラには似合うかもしれないが、僕は釣り合っていない


「…もしかして、気に入らないじゃ?」


「…いや!」


ドーラの悲しげな声にとっさに強めの否定してしまった


ドーラが一生懸命考え、決めてくれた名前だ


不釣り合いでもいいじゃないか


今日から主として生きてみようと思った


「僕も気に入った

 今日から僕は主だね」


「よかったのじゃ!

 そろそろ冷えるから中に入るのじゃ

 …。…ぬ、主…」


「そうだね、ドーラ…」


「…名前を呼び合うのは、ちょっと照れるのじゃ…」


確かに少し照れるのはわかる


でも、お互いに名前を呼び合うのは心地よかった




 大樹に入ると中は明るかった


夜が来たはずなのにどうして明るいのかと尋ねると


玄関の脇に置いてあったガラスの容器を持ち上げた


「これも覚えてないんじゃな

 これは念の為の予備じゃが、ヒカリゴケじゃ」


中には白い苔の乾燥したものが入っていた


使う場合は水を入れ、生き生きとさせないといけない


それを日差しを浴びせておけば暗くなった後、勝手に光るようだ


その苔と同じ事を大樹にしてもらってる


なんて事を魔女が言ってたらしいけど、


それはドーラにも詳しくはわからないようだ




 靴を脱いだ後、ドーラは丁寧にそろえ直した


それから水で手を洗い、勧められて水を飲んだ


「水分補給は大事じゃって、魔女が言ってたのじゃ」


靴を揃えて並べる事も、帰ったら手をしっかり洗う事も、


こまめに水を飲む事も魔女と約束したらしい


約束なら僕も守りたい


そう伝えるとドーラは嬉しそうだ




 それから改めて大樹の事を説明してくれた


この大きな広間にテーブルと調理場があり、


奥にはトイレとお風呂がある


…らしいのだが、僕にはどちらもよくわからない


「トイレもわからないじゃ?

 えーと、そうじゃな…なんて言えば…

 …まぁ、実際に行って見てみるのじゃ」


案内された小部屋で詳しい説明を受ける


とにかく催したら服を脱いで此処に座るらしい


身振り手振りでトイレの仕方を教わり、


最後に必ず葉で拭いて、此処でも手を洗う約束をした




 次に案内された部屋は湯気が立ち込める部屋だ


此処がお風呂と呼ばれる場所で、


大樹が吸った水を日差して温めて流してくれているそうだ


「ここで身体を洗うのじゃ

 水浴びと違って温かくて、すごく気持ちよいのじゃ」


ドーラがお湯に手を入れた後、僕を手招きする


真似をして手を入れると確かに気持ちがいい


僕が気に入ったのが伝わったようで


このまま入っていく事を勧められた




 改めてお風呂の入り方を教わった


ひとつ前の部屋で服を脱ぎ、汚れた服を籠に入れる


次に浴槽に浸かる前に掛け湯をし、


粗方の汚れを落としつつ、お湯の温度に身体を慣らす


そして浴槽に浸かり、身体が温まったら終わりだ


「…で、あってる?」


「大丈夫そうじゃな

 何かあったら大声で呼んでくれればよいのじゃ

 わしは食事の準備をしたいから、主はゆっくり入るのじゃ」


そう言い残してドーラは去り、


部屋に僕一人だけになった


…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ