↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/82

夜に飛ぶ鳥

♢


もうすぐ夜になるからと、彼女に起こしてもらった。

慌てて空を見ても、僕には変化がわからない。

でも彼女がそう言うのだから、きっと間違いないのだろう。


昨日の夜に見た風景を思い出す。

確かに星空は綺麗だった。

でも寒くて寂しくて、とても怖い場所だった。


それがこれから僕を襲うのだと思うと、

勝手に下を向いて、空から目を背けていた。

僕は夜に向き合う気持ちの準備すら出来ていない。



「さて、そろそろ帰るのじゃ」



途方に暮れていると彼女が立ち上がった。

夜が来るだけじゃなく、彼女ともお別れなんだ。

なら眠らず、ずっと話していればよかった。

もっと彼女の声が、沢山聞きたかった。


いや、別れを惜しんでる場合じゃない。

これが最後なら、お礼を言うべきだ。

それはわかる。

でも、どうしても俯いたまま、彼女の顔が見れなかった。



「…もしかして、まだ眠たいのじゃ?

 眠くても、大樹まで頑張って帰るのじゃ」



その言葉に顔を上げると、彼女と目が合った。

彼女は不思議そうに首を傾げて笑っている。



「どうしたのじゃ?」

「…僕も、一緒に帰っていいの…?」

「当たり前じゃろ?

 置いていったりしないのじゃ」



そう言って、僕に向かって手を差し伸べた。

その手に軽く触れると、力強くギュッと掴んで、立ち上がらせてくれた。

この温もりは、何にも代えがたい。

そう強く思った。



「…ほんとに、ありがとう…」



今度はお礼を言えた。

彼女は満足そうに笑って、一緒に大樹への帰路につく。


その途中、彼女は何もない森の真ん中で、ふいに立ち止まった。



「あそこを見るのじゃ」

「どこ?」

「指の先じゃ」


彼女は木の上の方を指差した。

彼女の指の先を追って目を凝らすと、数匹の鳥を見つける事が出来た。



「あ、何か動いた」

「あれは夜鳥(よるどり)と言う名前の鳥じゃ」

「夜鳥…」



あの鳥は夜にだけ飛ぶらしい。

なので、あの鳥が集まり始めると夜が来る合図になるそうだ。

群れで行動するらしく、

もうすぐ沢山集まってくると彼女が言った。


彼女が言った通り、少し待つだけで一匹、また一匹と姿を現した。

それが思ったよりも増え続け、見てるだけで面白い。

しばらく夢中になって眺めていると、静かに彼女が歩き出していた。


遅れて気づき、早足で追いかける。

追いつくと彼女は"夜鳥を知っていたか"と、そんな質問をしてきた。



「ううん、知らなかったよ。

 忘れてるだけかもしれないけど…」

「どんな種族も、絶対に教わる事じゃ。

 夜鳥を見かけたら、その森から逃げるようにって。

 …絶対、必ず、そう教わるって、魔女がそう言ってたのじゃ…」

「どうして?」

「…。」



彼女は一度もこっちを見ないまま話を続けた。

夜鳥は夜にしか飛ばないから、日中は眠り続けて無防備だ。

だから天敵に襲われ放題で、一時期絶滅する勢いで数を減らした。


だけど、彼らは生き残るために知恵を付けた。

誰もが恐れる種族の近くで暮らせばいいんだと。

それが自分なんだと、寂しそうに教えてくれた。


夜鳥の話の後、彼女は大樹に着いても何も話さなかった。

だから僕から、玄関前で俯き、立ち止まる彼女に話しかける。



「ねぇ、君の名前はあるの?」

「…わしの名前じゃ…?」

「あれは夜鳥っていう名前の鳥でしょ?

 なら、君にもあるんじゃないかと思ったんだ」

「…今の話を聞いて、わしが怖くないのじゃ…?」

「僕は怖くないよ」



彼女はゆっくり僕を見た。

そして深く息を吐いた後、申し訳なさそうに、

それでも少しだけ嬉しそうに、名前は無いと言った。



「あ、でも魔女はわしをドラと呼んでいたのじゃ」

「ドラ?」

「半分ドラゴンじゃから、ドラじゃ」



姿は大きく変わってしまったけど、ドラゴンの特徴は多く残っている。

半分人の形、半分のドラゴン。

ドラゴンの半分、だからドラ。



「名前と呼んでいいかわからないけど、そう呼ばれてたのじゃ。

 でもまぁ、御主の好きなように呼んで欲しいのじゃ」

「ほんと?ちょっと考えてもいい?」



名前と言うにはそのまますぎると思った。

好きに呼んでいいと言ってくれたから、何か考えてみたい。

でも、記憶がないのが仇になって、何も思い浮かばなかった。


今日教えてもらった物の名前しか頭に浮かんでこない。

諦めきれずに考えていると、空はどんどん暗くなって、夜鳥が増え続けた。


やがて、それらが一斉に飛び立った。

想像を超える数の夜鳥が空を覆い尽くし、鳴き声を上げた。

その鳴き声は遠くまで響き、森全体に木霊するようだ。

その音に合わせ、自然に口が動く。



「…ドー…ラ…」

「ドラじゃ?魔女と一緒じゃ」

「…ううん。少し伸ばして"ドーラ"って呼びたい。

 ドーラって、君をそう呼んでいいかな」



夜鳥の長く透き通る鳴き声を聞いて出てきた名前。

正直、ドラとほとんど変わらない。

でも、僕は彼女をドーラと呼びたくなった。



「…ドーラ…。…ドーラ…、…ドーラ…」



彼女は響きを確かめるように何度も名前を呟いた。

それがあまりに長くて、

気に入らなかったのかもと不安になっていたけど、

突然、彼女は、ドーラは叫び出した。



「…気に入ったのじゃ!わしは今からドーラじゃ!」



ドーラははしゃぐように両手を上げて、満面の笑みを向けてくれた。

気に入ってくれた様子に僕もホッとする。


だけど喜んでいたのも束の間で、ドーラは急に静かになった。

そして、暗くなった空を見上げ始めた。


夜鳥の時のように何か見えるのかと、僕も隣に移動して空を見た。

でも、目に映るのは暗くなった空だけだ。



「…御主は、なんて名前だったんじゃろうな…」



なんとなく、それは僕に向けた言葉ではないような気がした。

森に、あるいは魔女に聞いているのかもしれない。

その質問に答えるように、冷たい夜の風が僕達の間を通り抜けた。


…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。