諦めていた夢
大樹に戻ると龍人達は起きていた
龍人にも彼を急に独占したお礼を言うべきだが
とにかく、まずは土竜に謝罪した
「…さっきはごめんなさい!
勝手に嫉妬して、変な事言っちゃって…」
「…ううん…気にしないで欲しいの…
…可愛いって言われたの初めてだから…
…ちょっと、嬉しかったの…」
「グラさんは可愛いですよ!
…今日、帰って来た時のグラさんを見て、
あまりに可愛くて、それで不安になったんですもん」
「…あ、ありがとうなの…」
あんな一方的な言い方をしたら
文句を言われても仕方ないのだけど
土竜はとても優しく接してくれた
遅めのお風呂を済ませた後、
いつも通りに彼と魔女の時間を作った
普段は先にベッドで待っているが
今日は階段の上部に座って待つことにした
「今日は主とほとんど一緒に居られなかったのじゃ…」
「…ごめんなさいなの…」
「謝らなくてもよいのじゃ
グラは昨日頑張ったから
一日くらい仕方ないのじゃ」
思えば龍人も優しくなったものだ
表情が穏やかになったし、
こうして彼を待つ間も落ち着いている
それに付いてこようとはしたけど、
一応二人きりにもしてくれた
「私もすみませんでした
急に主さんと出掛けちゃって…」
「リーフの気持ちもわかるのじゃ
だから、まぁそれも仕方ないのじゃ」
仕方ないと言いながらも
魔女と抱き合う眼下の彼を
今か今かと大人しく待っていた
その大人しい様子に
私が諦めていた夢を思い出した
ずっと結婚式に憧れていた
それには私の故郷に連れていく必要があるから
到底無理だと諦めていた
けれど、最近の龍人は大人しいから
里の皆も受け入れてくれるかもしれない
後は龍人が許してくれるかどうか、そっちが問題だ
「ねぇドーラさん?
ちょっと相談があるんですけど…」
「なんじゃ?
主なら貸さないのじゃ」
「流石に今日は盗らないですよ…」
「明日も貸さないのじゃ」
遠回しな聞き方で警戒させてしまった
その後は取り付く島もなくて
それ以上の相談は一旦やめておいた
ベッドに着いた龍人は
彼を守るように抱き締めて、
彼は顔が胸に埋まり、少し苦しそうだったけど
慣れると意外と落ち着くのか、すぐ眠ったようだった
翌日、龍人は彼と二人で出掛けていき、
その間に魔女と土竜にもどう思うか聞いてみた
「ドーラが許さないんじゃないか?」
「やっぱり、そう思います?」
「ドーラがするならまだしも
リーフだけするのは難しいだろうね」
「いえ、するなら皆で一緒にどうかなって…」
「一緒に?
ああ、森人は一夫多妻でも認められるのか」
聞けば人間は一夫一婦が基本のようで、
土竜族はそもそも結婚の為の儀式はないようだった
「…結婚式って何するの…?」
「夫婦になる誓いを立てるんだよ
皆の前で固く約束をするんだ
土竜族は何かなかったのかい?」
「…なかったの…」
「興味はある?」
「…ちょっとだけ…」
聞く限り人間のそれとは多少異なるものの、
二人とも興味はありそうだった
森人にとっての結婚式とは
森に夫婦として認めてもらう事だ
夫が妻に好きな花を贈り、
受け取った花を風に乗せて飛ばす
上手くいくまで何度でも繰り返し、
時々、日を改める事もある
「森が認めてくれると
精霊が風を運んでくれるって言われてますね」
「本当にそんな都合よく吹くのか?」
「えっと、実はある程度なら吹く日がわかるんですよ」
この辺ではあまり見かけないけど
里には綿毛の植物が沢山生えている
この植物は種を風に乗せて運ぶから
よく見ていれば強い風の周期を教えてくれる
「その綿毛の種が熟したらそろそろかなって」
「なるほどね
それで花が上手く飛んでいけばいいのかな?」
「そうですそうです
里の中心が風の通り道なので強風が吹くんですよ
…できれば、したいんですけど…」
「…そうだねぇ…」
「…やっぱり、無理ですよね?」
魔女も悩んでいる様子だ
龍人を里に連れていくとどうなるか
正直、見当がつかない
こっそり連れて行っても
里の中心に足を運ぶ必要があるから
当日だけはどうしても隠せない
やっぱり、諦めるしかないのだ
…。




