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私の仕事

♢



リーフさんの里に来てから、今日で何日目になるんだろう。

主さんと離れるのは寂しいけど、

まさか雇って貰えて、お金が貰える日がくるなんて、夢にも思わなかった。


本当はお金は全部、リーフさんやドーラさんに渡そうと思っていた。

今まで食べていた食料のほとんどは、

リーフさんが街まで買い出しに行ってくれた物だったし、

元々はドーラさんの鱗の代金だった。

だから、少しでも恩返しがしたかった。


どちらに渡そうか魔女さんに相談したら、自分で使いなさいって言われた。

だから迷ったけど、一度だけ私の好きな事に使う事にした。


雑貨屋で働いてると、棚の奥に綺麗な鉱石を見つけた。

忘れられているかのように、少し埃を被っていたそれは、

キラキラしてて、とても素敵だと思った。


土竜族には土を掘って見つけた石や鉱石の中で、

もっとも綺麗な物を大切な人に贈る風習がある。

私は土を掘るのが得意じゃないからできないけど、

その代わりに、主さんにこれを贈ってみたいって密かに思ってた。



「よし。それじゃグラを借りて行くよ」

「ああ。でもあまり無茶はさせないでね」

「わかってるよ。ほら、仕事に行くよグラ」

「…うん…」



今日もフィーさんの雑貨屋で働いている。

私は裁縫ができないから服作りは手伝えない。

でもその代わり、フィーさんがいつの間にか請け負ってきた仕事を手伝っている。


一番多いのは家の模様替えの手伝い。

私は土竜族の中では考えられないほど非力なんだけど、

森人に比べればとても力があるみたい。

二階から一階へ棚を運ぶだけなのに、ものすごく感謝された。



「役に立つね。

 ほんとに土竜族の中では非力なのか?」

「…うん…それに土を掘ると手が傷だらけになっちゃうし…」

「なるほどね。この傷跡はそういう理由なんだ」



お仕事の帰り道、中央の広場で休憩しようと言われた。

普段はまっすぐ帰って、掃除や品出しをするはずなのに。

不思議に思っていると、主さんの事について聞かれた。



「グラもあの坊やが好きなんだろ?何処が好きなんだ?」

「…主さん、優しいの…」

「例えば?」

「…私の手、触ってくれるし…パンもくれたし…

 …あんなに優しい人、初めて会ったの…」

「ふぅん。まぁ優しそうだとは思うよ。

 でも、それだけでそこまで惚れるものなのか?

 私には人を好きになる感覚がよくわからないから、聞いてみたかったんだ」

「…私でいいの…?

 …他の人に聞いた方がいいかもしれないの…」

「いや、グラにしか聞けないよ。

 リーフも魔女も普通とは違うから参考にならないし、龍人はもっと特殊だ。

 里の奴にも恥ずかしくて聞けないから、頼むよ」



そうフィーさんが言うから主さんを好きになった理由を話した。

その流れで生まれ故郷でいじめられて、逃げ出した話もすると、

少し渋い顔になって謝られた。



「嫌な事を思い出させて、すまなかったな」

「…ううん…おかげで主さんと会えたから…」

「前向きなのは良い事だ。

 辛い過去のおかげで坊やに出会えたと思えるなら、グラは強いね」

「…そういって貰えると嬉しいの…」



自分の事をずっと弱いと思っていた。

力が出ない事だけじゃなくて、性格も含めた全てが弱いと思っていた。


だから、強いって言われるとなんだかくすぐったい。

皆と一緒に居て、強くなれてたらいいなと思った。


話は続き、一通りの事を話した。

主さんはドーラさんが一番好きで、二番目はリーフさん。

次に魔女さん、そして最後に私なんだと話す。



「グラは四番目でいいんだ?」

「…何番目でもいいの…少しでも好きになってくれたら…」

「私が新しく四番目になって、グラが五番目になってもいいって事?」

「…それは…嫌なの…」

「冗談だからそんな顔しないでよ。

 さて、面白い話も聞けたしそろそろ帰ろうか」



最後に少しからかわれた後、雑貨屋に帰った。

雑貨屋に戻ったフィーさんは、

私の話を元に、魔女さんにも色々と聞いていた。


主さんを好きな理由と、三番目でいい理由。

そういえば聞いた事なかったから、私も興味はある。



「魔女は坊やの何処が好きなんだ?」

「うん?なんだ突然に」

「さっきグラにも聞いたから、興味が沸いたんだ」

「何処と言われてもね。気が付いたら好きになってたんだよ」

「一番になりたいと思わないのか?」

「思わない。でももっと愛して欲しいとは思う」

「うん?どういう事だ?」

「一番に愛してくれとは言わない。

 でも、今よりもっと求めて欲しいとは思う」

「ふぅん。なんとなくわかった」



フィーさんはなんとなくって言ったけど、

私は魔女さんの気持ちがよくわかった。


私も他の人より好きになって欲しいとは思えないけど、

確かにもっともっと、愛して欲しい。

今のままでも十分なのに、それは我儘な願いなんだろうか。


それを雑貨屋からの帰り道に、魔女さんに聞いてみた。



「ハハッ。好きな人にもっと好かれたいと思うのは当然だろう?」

「…そう…?」

「正直、ドーラやリーフより愛して貰えるとは思ってない。

 でも、やっぱりもっと愛して欲しいとは思うだろ?」

「…すごく、よくわかるの…」

「確かに我儘かもしれない。

 でも、気持ちは止められない」



そんな話をしてると早く主さんに会いたくなった。

ううん、広場でフィーさんと話してる時から、ずっと会いたかった。

私達が借りてる家の煙突から煙が見えてる。

そこに居るんだと思うと、気持ちが逸る。



「行っておいで」

「…でも…魔女さんだって…」

「私は後でいい。ほら」



そういって背中を押してくれた。

そうするともう我慢できなくて、残り短い帰り道を走って帰る。


家に着いた。

息を切らせて現れた私に、ドーラさんとリーフさんは少し驚いていた。

でも主さんはいつもと同じく、優しい笑顔でおかえりって言ってくれた。



「おかえりグラ。慌ててどうしたの?」

「…ただいまなの…主さんに会いたくなって急いで帰って来たの…」

「ほんと?僕もグラに会いたかった」



迷ったけど、主さんに抱き着いた。

普段ならドーラさん達に遠慮して、見える所ではあまりできなかった。

でも、今日は気持ちがどうしても収まらない。


遅れて帰ってきた魔女さんが二人に説明してくれた。

そのおかげで、少しの間だけど、そっとしておいてもらえた。



「もう落ち着いたのじゃ?」

「…急にごめんなさいなの…」

「帰ってきていきなり主に抱き着くなんて、

 グラも大胆になったものじゃな~」

「…うぅ…あんまり言わないで欲しいの…」



晩御飯を食べながら、今度は皆に少しだけからかわれたけど、

急に抱き着いた事も、笑って許してくれた。


それから、いつもみたいに交代で水浴びに行った。

今日は私と主さんとドーラさんが一緒。


最初の頃は水が冷たくて驚いたけど、

慣れるとこれはこれで、気持ちが良いような気がする。


冷たい川の中で髪と身体を洗い、暗くなりつつある空を見上げる。

久しぶりに昔の話をしたからか、少し感傷に浸ってしまう。

もう一度、主さんに抱き着きたい。



「グラ、平気じゃ?」

「…ちょっとボーっとしてたの…ごめんなさい…」

「仕方ない奴じゃな~…。

 主、もうちょっとグラに抱き着くのじゃ」

「…えっ…ほ、ほとんど裸だからいいの…」

「よいから、早くこっちに来るのじゃ!」



強引に主さんの前に連れてこられた。

一応、大事なところはタオルで隠してる。

でも、服を着てる時とは全然違う。


恥ずかしくて動けなくなっていると、

主さんは、優しくそっと抱き締めてくれた。



…。

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