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緑色の鉱石

♢



朝食を済ませると主くん以外は大走鳥に乗って出掛けてくれた。

これで夕暮れまでは独占できる。

ああ、こうして過ごせるのは何時ぶりだろう。

もしかして、これほど長い時間は初めてなんじゃないだろうか。


唐突に訪れた幸運を噛みしめながら、ゆっくりとお茶を淹れた。

それを飲みながら、まずは主くんに近況や里で過ごしてみた感想などを聞こう。



「この里の暮らしは主くんに合ってるかな?」

「合ってると思うよ。落ち着いてて好きかも」

「大樹とどっちがいい?」

「ずっと暮らすなら大樹かな?

 でも、もう少しこの里に居たい気持ちもあるんだ」

「まだまだこの里に居る予定だから安心して。

 だから大樹が恋しくなっても、少し我慢してね」

「あはは、わかった」



環境が変わった事への不満がなくて安心した。

お茶を飲み終え、手と繋いで家を出る。

私もベッドでゆっくり過ごしてみたいけど、

それは後でのお楽しみにして、まずは里を歩いてみたい。


この里では沢山の森人が生活している。

私達の事は里中の噂になっているらしく、

此方を見て来る人もそれなりに居る。


そういう人らには笑顔で会釈をすると、向こうもだいたいが合わせてくれる。



「ほら、此処で服を作ってるんだ」

「此処でフローラとグラが働いてるんだね」

「服はまだ内緒だけど、入ろうか」



服作りは休みにして貰ったけど、フィーは普通に雑貨屋を営業している。

昨日、店に寄るかもしれないと伝えてあるから、服も隠してあるはずだ。



「いらっしゃい。本当に来たのか」

「ああ。別に構わないだろう?」

「いいけど、来たからには何か買っていきなよ。

 これが魔女の旦那になる男?」

「そう。主くんだ」

「自慢しに来たのか?」

「ハハッ。そういう訳だ」

「別に羨ましくは無いけど…。

 でもま、魔女には世話になってるよ。よろしく坊や」



挨拶を済ませた後、店内を見て回る。

一応此処で働き、フィーに少ないながらも給料を貰っている。

久しぶりにお金を手にした時から、

主くんに初めて何かを買い与えてあげたいと考えていた。



「主くん。何か欲しい物はある?」

「でも僕、お金ないよ」

「買ってあげる」

「え、悪いよ」

「坊や。買わせてあげなよ。

 好きな奴に贈り物をするというのは楽しい。これが魔女の為になる」

「…そうなの?」



私が頷くと主くんが改めてお店を見渡し始める。

フィーの手助けもあって、その気になってくれたみたいだ。

色々な物を手に取り、物珍し気に眺めている。


そんな中、主くんが一番興味を示したのは花の種だった。



「これ、何色の花が咲くのかな?」

「気になる?買って一緒に育ててみようか」

「…五つ買ってもいい?」

「いいよ。でも五つに意味はあるのかい?」

「結婚式では花を飛ばすんでしょ?

 僕が育てた花を皆にあげたいなって」

「四つじゃなくて?」

「…ライアの分もいい?」



主くんの言葉に身体が勝手に動く。

フィーが見てるけど構わない。

これは私の意思なのか、ライアの意思なのかわからない。

とにかく二人分の思いを乗せて口を重ねた。


予備も含めた花の種をいくつかと、植木鉢を買った。

フィーは私の行動には口を出さなかったけど、

多少呆れている表情はしていた。


そうして店を後にする。

おまけ代わりなのか、花が育ちやすい土をくれた。

今日まで稼いだお金のほとんどを使ってしまったけど、

元々フィーに貰った物だからある意味ではタダ同然だ。



「帰ったら日当たりのいい場所に置いて、花を植えてみようか」

「フローラは何色の花が好き?」

「白かな」

「ライアは?」

「ライアは…。ライアも白だって」

「そっか。白が沢山咲くといいな」



二人で玄関近くに植木鉢を並べて花を植えた。

川から水を汲んできて適量与え、無事に育つことを祈る。


実に有意義な一日だった。

普通の人里の中で過ごせるなんて夢にも思わなかった。

それはドラの事もあるし、この子との関係もそうだけど、

様々な幸運が重なって、恋人として普通に過ごせる事に感謝をした。


最後に私もベッドで過ごした。

残された時間はさほど多くないけど、

それでも十分すぎる程に満たされた気分になる。


やがてドラ達が帰ってきた。

二人きりにしてもらったお礼を伝え、食事の準備をする。

最近、スープは作るけどパンは買ってくるのが当たり前になった。


あまり高くない事も要因の一つだけど、

この里にお金を使う事も恩返しの一つになるだろうと私が言った。


因みに代金は私と森人とグラが少しずつ出している。



「…魔女さん…私、明日どうしたらいいかな…」

「うん?明日はグラが二人きりになるんだろう?」

「…私も里の中を歩きたいけど、不安だから…

 …できたら付いてきて欲しいの…」

「ああ、グラも里の中でデートをしてみたいんだね?

 わかった。後ろから付いて行くから安心しなさい」

「…ありがとうなの…」



皆が外で植木鉢を見ている間、グラにそう相談をされた。

グラもきっと本で読んだ二人のように、人里を歩いてみたいんだろう。

できるだけ邪魔しないように、後ろで見守ってあげればいい。


翌日、私も残ると告げるとドラに不思議な顔をされた。



「グラ、魔女も一緒でよいのじゃ?」

「…里を歩いてみたいけど、二人じゃ不安だから…

 …後ろから付いてきて貰うの…」

「なるほどじゃ。なら魔女、グラと主を頼むのじゃ」



そう言ってドラは森人と共に大走鳥に乗って出掛けて行った。

私達三人はとりあえずお湯を沸かし、

昨日同様、ゆっくりお茶を飲むことから始める。



「私は居ないと思ってくれていい。

 困ったとき以外は無視してくれていいからね」

「…でも…」

「滅多にない機会を大事にしなさい。

 物語みたいに、こんな場所で過ごせる機会なんてもう無いかもよ」

「…そうだよね…わかったの…」



私が過去に見た恋人達に憧れているように、

グラは本に出てきた二人に憧れを持っている。

だから、気持ちがよくわかる。


二人が手を繋いで歩き出す。

それを会話が聞こえない程度に離れて付いて行く。


グラ達は結婚式をする広場で立ち止まった。

この場所は里を一望できるから、休憩するにはいい場所だ。

ベンチに座り、肩を並べて休む姿に微笑ましくなる。


しばらく過ごした後、意外にも二人は雑貨屋に向かった。



「…お邪魔します…」

「いらっしゃい。グラも買い物にくるとは感心だね。

 ゆっくり見て行きな」



そうしてグラ達は店内を見渡し始めた。

その間、私はフィーと雑談しながら様子を伺う。



「あの頼りない感じの坊やがそんなにいいのかね?」

「主くんは誰より優しい」

「ふぅん?騙されてるんじゃなくて?」

「ハハッ。私ならあれだけど、リーフを騙せると思うか?」

「確かに…。

 行商人を騙せる奴なんてこの世に居ないか」



かなり時間を掛けてグラが選んだのは石だった。

緑色の宝石が混じってる手の平くらいの大きさの原石。


あれに価値を見出せるのは鉱石が好きなドワーフくらいだと思うが、

グラがなぜそれを選んだのか気になった。



「グラはその石をどうするんだい?」

「…主さんにあげたいの…」

「主くんに?」



土竜族は好きな相手に綺麗な石を贈る風習があるそうだ。

自分で初めて稼いだお金の使い方としてはとてもいい。


フィーもそれなりの値段の石が売れて上機嫌だ。

ただ、お金は少し足りないようだった。



「足りない分は給料の前借としてあげよう」

「…ごめんなさいなの…」

「いいさ。これが売れると私も嬉しい。

 この里の奴らは石に興味を示さないから、どうしたものかと思っていたんだ」



グラがフィーから買い取った鉱石を主くんに渡す。

取引を見ていた主くんが、その値段から受け取るのに戸惑っていたけど、

昨日同様にフィーから説得されて、受け取っていた。



…。

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