緑色の鉱石
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朝食を済ませると主くん以外は大走鳥に乗って出掛けてくれた。
これで夕暮れまでは独占できる。
ああ、こうして過ごせるのは何時ぶりだろう。
もしかして、これほど長い時間は初めてなんじゃないだろうか。
唐突に訪れた幸運を噛みしめながら、ゆっくりとお茶を淹れた。
それを飲みながら、まずは主くんに近況や里で過ごしてみた感想などを聞こう。
「この里の暮らしは主くんに合ってるかな?」
「合ってると思うよ。落ち着いてて好きかも」
「大樹とどっちがいい?」
「ずっと暮らすなら大樹かな?
でも、もう少しこの里に居たい気持ちもあるんだ」
「まだまだこの里に居る予定だから安心して。
だから大樹が恋しくなっても、少し我慢してね」
「あはは、わかった」
環境が変わった事への不満がなくて安心した。
お茶を飲み終え、手と繋いで家を出る。
私もベッドでゆっくり過ごしてみたいけど、
それは後でのお楽しみにして、まずは里を歩いてみたい。
この里では沢山の森人が生活している。
私達の事は里中の噂になっているらしく、
此方を見て来る人もそれなりに居る。
そういう人らには笑顔で会釈をすると、向こうもだいたいが合わせてくれる。
「ほら、此処で服を作ってるんだ」
「此処でフローラとグラが働いてるんだね」
「服はまだ内緒だけど、入ろうか」
服作りは休みにして貰ったけど、フィーは普通に雑貨屋を営業している。
昨日、店に寄るかもしれないと伝えてあるから、服も隠してあるはずだ。
「いらっしゃい。本当に来たのか」
「ああ。別に構わないだろう?」
「いいけど、来たからには何か買っていきなよ。
これが魔女の旦那になる男?」
「そう。主くんだ」
「自慢しに来たのか?」
「ハハッ。そういう訳だ」
「別に羨ましくは無いけど…。
でもま、魔女には世話になってるよ。よろしく坊や」
挨拶を済ませた後、店内を見て回る。
一応此処で働き、フィーに少ないながらも給料を貰っている。
久しぶりにお金を手にした時から、
主くんに初めて何かを買い与えてあげたいと考えていた。
「主くん。何か欲しい物はある?」
「でも僕、お金ないよ」
「買ってあげる」
「え、悪いよ」
「坊や。買わせてあげなよ。
好きな奴に贈り物をするというのは楽しい。これが魔女の為になる」
「…そうなの?」
私が頷くと主くんが改めてお店を見渡し始める。
フィーの手助けもあって、その気になってくれたみたいだ。
色々な物を手に取り、物珍し気に眺めている。
そんな中、主くんが一番興味を示したのは花の種だった。
「これ、何色の花が咲くのかな?」
「気になる?買って一緒に育ててみようか」
「…五つ買ってもいい?」
「いいよ。でも五つに意味はあるのかい?」
「結婚式では花を飛ばすんでしょ?
僕が育てた花を皆にあげたいなって」
「四つじゃなくて?」
「…ライアの分もいい?」
主くんの言葉に身体が勝手に動く。
フィーが見てるけど構わない。
これは私の意思なのか、ライアの意思なのかわからない。
とにかく二人分の思いを乗せて口を重ねた。
予備も含めた花の種をいくつかと、植木鉢を買った。
フィーは私の行動には口を出さなかったけど、
多少呆れている表情はしていた。
そうして店を後にする。
おまけ代わりなのか、花が育ちやすい土をくれた。
今日まで稼いだお金のほとんどを使ってしまったけど、
元々フィーに貰った物だからある意味ではタダ同然だ。
「帰ったら日当たりのいい場所に置いて、花を植えてみようか」
「フローラは何色の花が好き?」
「白かな」
「ライアは?」
「ライアは…。ライアも白だって」
「そっか。白が沢山咲くといいな」
二人で玄関近くに植木鉢を並べて花を植えた。
川から水を汲んできて適量与え、無事に育つことを祈る。
実に有意義な一日だった。
普通の人里の中で過ごせるなんて夢にも思わなかった。
それはドラの事もあるし、この子との関係もそうだけど、
様々な幸運が重なって、恋人として普通に過ごせる事に感謝をした。
最後に私もベッドで過ごした。
残された時間はさほど多くないけど、
それでも十分すぎる程に満たされた気分になる。
やがてドラ達が帰ってきた。
二人きりにしてもらったお礼を伝え、食事の準備をする。
最近、スープは作るけどパンは買ってくるのが当たり前になった。
あまり高くない事も要因の一つだけど、
この里にお金を使う事も恩返しの一つになるだろうと私が言った。
因みに代金は私と森人とグラが少しずつ出している。
「…魔女さん…私、明日どうしたらいいかな…」
「うん?明日はグラが二人きりになるんだろう?」
「…私も里の中を歩きたいけど、不安だから…
…できたら付いてきて欲しいの…」
「ああ、グラも里の中でデートをしてみたいんだね?
わかった。後ろから付いて行くから安心しなさい」
「…ありがとうなの…」
皆が外で植木鉢を見ている間、グラにそう相談をされた。
グラもきっと本で読んだ二人のように、人里を歩いてみたいんだろう。
できるだけ邪魔しないように、後ろで見守ってあげればいい。
翌日、私も残ると告げるとドラに不思議な顔をされた。
「グラ、魔女も一緒でよいのじゃ?」
「…里を歩いてみたいけど、二人じゃ不安だから…
…後ろから付いてきて貰うの…」
「なるほどじゃ。なら魔女、グラと主を頼むのじゃ」
そう言ってドラは森人と共に大走鳥に乗って出掛けて行った。
私達三人はとりあえずお湯を沸かし、
昨日同様、ゆっくりお茶を飲むことから始める。
「私は居ないと思ってくれていい。
困ったとき以外は無視してくれていいからね」
「…でも…」
「滅多にない機会を大事にしなさい。
物語みたいに、こんな場所で過ごせる機会なんてもう無いかもよ」
「…そうだよね…わかったの…」
私が過去に見た恋人達に憧れているように、
グラは本に出てきた二人に憧れを持っている。
だから、気持ちがよくわかる。
二人が手を繋いで歩き出す。
それを会話が聞こえない程度に離れて付いて行く。
グラ達は結婚式をする広場で立ち止まった。
この場所は里を一望できるから、休憩するにはいい場所だ。
ベンチに座り、肩を並べて休む姿に微笑ましくなる。
しばらく過ごした後、意外にも二人は雑貨屋に向かった。
「…お邪魔します…」
「いらっしゃい。グラも買い物にくるとは感心だね。
ゆっくり見て行きな」
そうしてグラ達は店内を見渡し始めた。
その間、私はフィーと雑談しながら様子を伺う。
「あの頼りない感じの坊やがそんなにいいのかね?」
「主くんは誰より優しい」
「ふぅん?騙されてるんじゃなくて?」
「ハハッ。私ならあれだけど、リーフを騙せると思うか?」
「確かに…。
行商人を騙せる奴なんてこの世に居ないか」
かなり時間を掛けてグラが選んだのは石だった。
緑色の宝石が混じってる手の平くらいの大きさの原石。
あれに価値を見出せるのは鉱石が好きなドワーフくらいだと思うが、
グラがなぜそれを選んだのか気になった。
「グラはその石をどうするんだい?」
「…主さんにあげたいの…」
「主くんに?」
土竜族は好きな相手に綺麗な石を贈る風習があるそうだ。
自分で初めて稼いだお金の使い方としてはとてもいい。
フィーもそれなりの値段の石が売れて上機嫌だ。
ただ、お金は少し足りないようだった。
「足りない分は給料の前借としてあげよう」
「…ごめんなさいなの…」
「いいさ。これが売れると私も嬉しい。
この里の奴らは石に興味を示さないから、どうしたものかと思っていたんだ」
グラがフィーから買い取った鉱石を主くんに渡す。
取引を見ていた主くんが、その値段から受け取るのに戸惑っていたけど、
昨日同様にフィーから説得されて、受け取っていた。
…。




