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服の値段

雑貨屋の店主に話を付けてから十日ほどが経った。

魔女さん達は毎日のように服を作りに行っている。

帰りはだいたい日暮れ前。

ほぼ一日、ずっと服を作り続けているようだ。


一着目の原型が出来たという事で私だけが呼ばれた。

どうやら彼には結婚式まで秘密にしたいらしく、

その事について彼は疎外感を多少感じているのか、なんとなく寂しそうだ。


でも、彼は寂しいと私や龍人によく甘えてくれるから、

少し可哀想に思うけど、許して欲しい。



「わぁ!これがドレスですか?」

「想像以上に形になったよ。

 生地が良いのと、フィーが雇ってくれた子が器用でね」

「グラさん綺麗ですよ!」

「…そう…?…恥ずかしいの…」



作った服をグラさんに着せて見せてくれた。

純白の生地が幾重にも折り重なったように見えるスカート。

実物を見て、一気に欲しくなった。

これを着て結婚式をするんだと思うと胸が躍る。



「これで完成ですか?」

「細かい所は少し変えるけど、だいたいね。

 時間があればリーフの採寸もしたいんだけど、いいかな?」

「お願いします!」



私が採寸してる間、グラさんはドレスを着て店主の指示通りに動いていた。

歩いたり、その場で回ったり、

動くのは大変そうだけど、でもとても嬉しそう。

それが羨ましく思える程、私もこの服に魅かれ始めている。



「良い仕上がりだよ。出資してよかった」

「これは確かに女の子は欲しくなりますね」

「ああ。私とて着てみたいと少し思う」

「フィーさんがですか?」

「見せる相手が居ないのが残念だね」



ただ、あまりにも生地が多い気がする。

スカートだけで普通の服の何着分を使っているんだろう。

一着に掛かる費用を聞くのが少し怖い。



「これ、一着いくらで売る気です?」

「気になるか?」

「少し怖いですけど、気になります」



結局、好奇心に負けて聞いてしまった。

店主は私に向かって指をクイクイと曲げる。

近づき、耳打ちされた値段を聞いてびっくりした。

それは想像の二倍を軽く超える金額だった。



「…高すぎませんか?」

「ある程度高い方がいいんだよ。特別感があるからね。

 もちろん、この里の奴ならもっと安く売るよ」



店主はお金が好きだけど、この里の住人も大事にしてる。

里の住人なら生地の代金と手間賃くらいで売るそうだ。

改めて街への紹介を約束し、一足先にお店を出た。


彼と龍人が待つ家に帰る。

里の外は龍人もおそらく迷子になるから、

私か魔女さんが居ないと出てはいけない約束をした。


のだけど、家の中に二人の姿が見えない。



「あれ?出掛けたのかな…」



でも里の中なら特に制限はしていない。

けれど共通語が話せない人もいるし、

龍人に対する反応もまちまちなので、お勧めはしないとは伝えてある。


だから彼が居ない事に少し落胆し、

もう一度出かけようと外に出ると、水桶を運ぶ二人が見えた。



「あ、リーフ。おかえり」

「主さん!もう、居ないのかと思いました!」

「あはは。僕達だけだとこれくらいしかできないから」

「でも助かります!今日も里の中を散歩します?」

「散歩したいのじゃ」



彼より龍人の方が里の中を歩くのが好きだった。

あれやこれやと興味を示し、すぐ近づいていく。

そんな龍人に振り回される彼も楽しそうで、

里に連れてきてよかったと思えた。



「そういえば魔女達の様子はどうじゃった?」

「できた服をグラさんが着てたんですけど、すっごく可愛かったですよ!」

「ほぉー。気になるのじゃ」

「ドーラさんの服は最後ですよ。

 どうせ主さんに見せたくなっちゃうんですから、ぎりぎりまで内緒です」

「主の服はないのじゃ?」

「主さんのです?うーん…あれは完全に女性用ですからね…」



そういえば私達だけ着飾るのだろうか。

魔女さんが帰ってきたら聞いてみよう。


それとも、彼の服はこっちで準備するのも面白いかもしれない。

それを龍人に相談するといい反応が返ってきた。



「面白そうじゃ!内緒で進めるのじゃ」

「でも内緒だと魔女さんが準備しちゃいそうじゃないですか?

 用意はこっちでするって言って、内容だけ秘密にしませんか?」

「そうするのじゃ。まずどうするじゃ?」

「そうですねぇ…」



服の事なら服屋さんに相談するのが一番だけど、

服屋さんは今、雑貨屋の店主と協力関係にあるから忙しいはずだ。

それ以外となると途端にアテがなくなる。



「…お父さんに相談してみましょうか?」

「リーフの父親じゃ?」

「いろんなところを飛び回ってるから、珍しい服も知ってるかもしれません。

 多分そろそろ帰ってくると思うんですよね」

「まだ居ないじゃ?なら帰ってくるまで他の奴にも相談してみるのじゃ」

「他の人?里長にも聞いてみましょうか?」



という訳で、散歩の途中に里長の家にお邪魔してみた。

突然の訪問にも関わらず、家の中に案内してくれた。


水出しで丁寧に作ったお茶をご馳走になったけどかなり美味しい。

ただ、服に付いてはあまり詳しくないそうだ。

丁重にお礼を伝え、里長の家を後にした。



「冷たいお茶も美味しかったのじゃ」

「今度作ってみましょうか。でも時間が掛かるんですよね」

「時間ならいっぱいあるから作ってみたいのじゃ」

「じゃ、帰ったら作りましょ!」



確かに大樹に居た頃よりも時間に余裕がある。

里の外に散策に行くのは確かに不便だけど、

少し足りない物があっても、その辺で買えるからだ。


夕暮れ近くになると魔女さん達が帰ってきた。

そろそろかと思ってスープも完成したし、ちょうどいい。



「グラ。リーフが可愛いって言ってたよ。僕も早く見たい」

「…恥ずかしいけど、私も早く見て欲しいの…

 …ほんとにね、素敵なんだよ…」

「ほんとにグラは綺麗だったよ。

 あまりに似合い過ぎてフィーがグラを街で雇おうとしたんだ」

「グラを街で?」


魔女さんの言葉に、彼の顔から笑みが消える。

食事の準備中だったグラさんに近づき、そっと手に触れた。



「グラは、なんて答えたの?」

「…心配いらないの…私は貴方の傍にずっと居るの…」

「よかった。約束だよ」



そういって二人は抱き合った。

グラさんはとても嬉しそうな顔をしてる。


正直、彼に心配は掛けたくないけど、

ああして感情を露わにされると羨ましい。

きっと日中二人がずっと居ないから、いつもより心配になったんだ。



「ねぇ魔女さん。一日くらい休めないんですか?」

「うん?フィーに言えば多分平気だと思うけど、どうして?」

「私達が居るからってあんまり主さんほっとくのも可哀想ですよ」

「…つまり私とグラに一日ずつくれるっていう事?」

「それはドーラさんが良いって言わないとあれですけど…」



皆の視線が龍人に集まった。

龍人は私に余計な事を言うなという視線を向けた後、

ため息と共に、渋々と言った様子で許可を出した。



「…じゃあ、明日は魔女で明後日はグラに主を貸すのじゃ…」

「本当かい?日暮れまで他の皆で出かけてきてくれる?」

「主を襲う気じゃないじゃろうな?」

「抜け駆けはしないよ。一緒に居られなくなるからね」

「なら、まぁ、よいじゃろう…」

「嬉しいな。今日のうちにフィーに二日休むと伝えてくるよ」



もうすぐ食事だと言うのに魔女さんは出掛けて行った。

グラさんも上機嫌で嬉しそう。

私と龍人は二日も彼と過ごせないからつまらない。

でも、彼の為には仕方がない。


…。

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