里の暮らし
再び大走鳥に乗って、ゆっくりと歩く。
沢山の家が並び、煙突から煙が出ている家もある。
何もかもが珍しくて、オスと一緒にあちらこちらと見渡した。
しばらく進み、里の中心と思しき広場に着いた。
大走鳥を降りて、じっくりと里全体を見渡す。
大樹ほど大きな木も家もないが、どれも立派に見える。
「…ほぉー。なかなかいい場所じゃな?」
「因みに、此処で結婚式をするんです。
風に花を乗せて、空に飛んでいけば幸せになれるって言われてるんです!」
「いつするじゃ?」
「どうなんでしょうね?詳しく調べないとわからなくて…。
とりあえず、借りた家に行きましょう」
行商が用意した家は里の一番奥らしい。
人気が無くて、川も近いから水浴びも出来る。
ただ、入り口から遠いから里を出るのには不便らしい。
移動中、沢山の森人を見かけた。
誰もが遠巻きに見てくるだけで話しかけてはこない。
行商はそれを意に介していないようだった。
「着きました!此処が私が借りた家です!」
「大きいのじゃ!」
「広くていい家なんですけどね~。
さっきも言いましたけど、里の外に行くのに一番不便なんですよ。
でも、私達はピーちゃんに乗ればすぐなので問題ないです!」
来た道を振り返ると里の入り口は豆粒ほどの大きさに見えた。
きっと大樹から湖より遠い。
確かに徒歩だったら出掛ける気にはならなそうだ。
一先ず荷物を下ろし、皆で家の中を確認した。
無い物は竈とお風呂。
代わりにあるのは暖炉だった。
「竈が無いからパンが焼けないのじゃ」
「パン屋さんがあるので生地を作れば焼いてもらえます。
ちょっとお金は掛かりますけどね」
「お金じゃ?」
「焼くだけなら薪代だけでいいんです。
多分、薪を多く持っていくだけでも平気ですよ!」
「そう言えば水も無いのじゃ。水はどうするのじゃ?」
「ちょっと歩くと井戸があるので飲み水は汲みに行くんです」
聞けば聞くほど、大樹との違いに不便さを感じる。
だが魔女からすればいい環境なんだと言った。
「今日はすることが多いので、食事は私が買ってきます」
「私達は水を汲んでから掃除をしようか」
「また掃除じゃ~?」
「はいはい、文句を言わない。
ドーラは主くんと一緒に飲み水を汲んできて」
「あ、途中まで一緒なので私も行きますね」
大きな桶を持って水を汲みに行かされた。
行商に井戸の使い方を教わり、並々と水を注ぐ。
これはなかなかの重量だ。
それを見届けた行商は食べ物を買いに一人で行ってしまった。
一つの桶をオスと二人で持った。
最初は重いから自分が持つと言ったのに、オスが譲らなかった。
確かに、飲み水を汲みに行くのは面倒だけど、
オスと一緒にこうして運ぶのは好きかもしれない。
「帰ったのじゃ」
「ありがとう二人とも。それはこっちに置いて」
「ん?その水はなんじゃ?」
「これは川の水だよ。
掃除ならこっちの水でいいだろう?近いからね」
川は家のすぐ裏手にあるそうだ。
そこは大樹と似てる。
とりあえず寝室を中心に水拭きを始めた。
部屋はそこまで汚れてなかった。
掃除が一段落すると、ちょうど行商が大量の荷物を持って帰ってきた。
「ふー…。とりあえずこれくらいでいいですかね」
「すごい大荷物じゃ。何を持ってきたのじゃ?」
「パンと芋と豆と木の実と…ほとんどいつもと一緒です。
後はお茶も飲みたいのでハーブもありますよ。
食器は最低限揃ってると思いますけど、どうです?」
「どうじゃろうな?さっきまで寝室の掃除してたのじゃ」
魔女が家にある食器を確認してくれた。
一通りは揃っているし、鍋も綺麗ですぐに使えるようだ。
「ほー。ぶら下げて使うんじゃな」
「灰が舞わないように気を付けてね。
念の為、必ず蓋を忘れないように」
「わかったのじゃ」
それから魔女に暖炉の使い方を教わった。
ついでに沸かせたお湯を使って行商がお茶を淹れる。
なんだか久しぶりのお茶のような気がする。
それを飲むとやっと一息付けて、落ち着いた気分になった。
お茶で身体が温まっている間に裏手の川に水浴びに行った。
川の水は冷たかったけど、これはこれで気持ちが良い。
一応、里の奥で人目につかない場所だけど、
自分以外はタオルを巻いていた。
「…とっても冷たいの…」
「戻ったら暖炉で温まるといい。
それともお湯を沸かせるから、次からそれで拭く?」
「…ううん…皆と一緒が良い…」
「そう?せめて温かい昼間に済ませられたらいいね」
土竜は少しだけ冷たい水が苦手のようだ。
それでも、自分達と一緒に浴びる事を選んだ。
今はもう日暮れに近い時間だから、
確かにもっと早い時間ならマシかもしれない。
水浴びを終えて家に戻った。
再び暖炉に火を灯し、オスと土竜が温まる。
「主はわしが温めてあげるのじゃ」
「あはは、ありがとうドーラ。温かいよ」
ひんやりと冷たいオスに触れると気持ちが良い。
オスの身体が温まり始めると、
なんだか自分の体温が移った気になって嬉しい。
もっともっと、体温も匂いも自分に染まればいいと思う。
「今日はもう遅いね。
明日、皆で里長のところに挨拶に行こう」
「挨拶じゃ?」
「この里にしばらくお世話になるからね」
その後、魔女が作ったスープと行商が買ってきたパンを食べた。
パンは似たような味だけど、
自分達で作った方が美味しい気がするのはどうしてだろう。
食事をしてる間に夜が来た。
部屋の明かりは暖炉だけで薄暗い。
しかし、反対に外から光が入ってきた。
不思議に思って外に出ると、
里全体がヒカリゴケの影響で明るく光っていた。
少しだけ、夜の湖と同じような雰囲気を感じる。
「…綺麗じゃなぁ…」
「本当に良い場所だね」
オスも里の景色を気に入った様子だ。
ヒカリゴケを集めて瓶に詰めれば、家の中も明るくできるらしい。
それは明日やってみるとして、今日はもう寝る事にした。
寝室は広くなかったが二部屋あった。
でも、掃除の最中に魔女と土竜が協力し、
無理やり同じ部屋にベッドを移動させていた。
「部屋が狭いのじゃ」
「寝るだけなんだからいいだろう?
私達だって主くんと同じ部屋で寝たいじゃないか」
「隣が埋まってるのにじゃ?」
「当たり前だよ。できるだけ近くに居たい」
たまに忘れそうになるが、魔女とてオスのつがいなのだ。
できるだけ近くに居たいなんて、魔女もなかなかの執着だと見直した。
それを褒めると魔女は照れていたのか、複雑そうに笑っていた。
…。




