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森人の里

散策から戻ると行商が少し離れた場所で眠っていた。

魔女に聞けば、夜通し焚火の番をする為の仮眠だそうだ。



「火があると温かいし、誰か起きていると安心するだろう?」

「薪、もっと集めるじゃ?」

「そう?なら、あと少し頼むよ。

 もう少ししたら火も付けてもらおうかな」



薪を集めてる最中、辺りが暗くなり始めた。

頭上を探すが夜鳥は一匹もおらず、

オスも一匹くらい見たいと、ずっと探している。

でも、結局は見つからなかった。


完全に暗くなる前に焚火を始めた。

鍋を煮るわけじゃないから最低限の火だけ。

この後の予定は何もなく、パンを食べて寝るだけらしい。



「リーフはまだ起きないのじゃ?」

「私達が眠る直前まで眠るはずだよ。

 野営はリーフの方が慣れてるから任せよう」



僅かな明かりの中でパンを食べる。

普段ならお茶を飲んだり、お風呂を済ませると時間が経つ。

でも今日はする事がない。

早々に横になってみるが、まだまだ眠くない。



「魔女、星が見える場所を探してもよいじゃ?」

「迷子になるからダメ。

 それにこの辺はずっと森だから難しいよ」



する事がないならオスと星が見たかったけど、それも無理そうだ。

ならオスとのんびりイチャつこうかと思ったけど、

魔女にそれを見られると後で真似されそうだから我慢した。

するなら、二人きりの時が良い。



「リーフの里はどんな感じじゃった?」

「とても良い場所だったよ。

 山に囲まれた森の中に、沢山の家があってね」



しばらくリーフの故郷について教えて貰った。

山に囲まれた森の中に集落があって、

そこに沢山の森人が居て、街ほどじゃないがお店もあるそうだ。



「お店が存在するほど大きな集落も珍しいよ。

 貴重な体験になるね」

「大樹より過ごしやすいじゃ?」

「どうだろう?人によるんじゃないかな」



その答えに危機感を覚える。

万が一、オスが森人の故郷を気に入ってしまったらどうしよう。

起き上がって、魔女にだけ聞こえるようにこっそりと相談する。



「…主が帰りたくないって言ったらどうすればよい…?」

「そしたら一緒に里に住めばいいじゃないか?

 さっきも言ったけど、良い場所だよ。

 まぁ、お風呂はないけどね」

「お風呂無いじゃ?なら大丈夫じゃな」



オスはお風呂が大好きだからきっと大丈夫だ。

安心したので、オスの隣にいそいそと戻る。


一応こっそりと話したけど、

オスは既に半分寝てるようなので今の会話に反応はない。

自分もそろそろ眠ろうかと、オスに抱き着いて目を閉じる。


翌朝、目が覚めると行商が一人で焚火の前に居た。

小さな火をただじっと見つめている姿は少し寂しそうに見えた。



「あれ?ドーラさん早起きですね。まだ寝ててもいいですよ?」

「何を考えてたのじゃ?」

「え?」

「寂しそうに見えたのじゃ」

「そう見えました?

 なんというか、私もいよいよ結婚するんだなって…」

「…やっぱり主としたくないじゃ?」

「ふふ、そんなわけないじゃないですか。

 すっごく嬉しいに決まってます。

 此処まで長かったなって、思い出に浸ってただけですよ」



まだ寝るオスに念入りに毛布を掛けた後、行商の隣に移動する。

なんとなく焚火に薪を追加すると、パチパチと小気味のいい音が鳴った。



「結婚式がしたいって言ったのは私ですけど、

 里には私より可愛い森人もいるし、ちょっと不安なんです」

「なんでじゃ?」

「だって、あっちの子の方が良いなってもし言われたら…」

「…くふふ…リーフもそんなことを考えるんじゃな」



あまりにバカバカしい事を言うものだから笑ってしまった。

行商もそれがわかっているようで、恥ずかしそうに不貞腐れた。



「笑わなくてもいいじゃないですか」

「いや、気持ちはわかるのじゃ。

 わしじゃってリーフに同じ思いを抱いたことがあるのじゃ」

「私に?」

「リーフの方が主に似てたから、似てるメスがよいのかなって思ったのじゃ」

「…皆、同じような事を考えるですね」

「心配しなくても、ちゃんと好かれてるから大丈夫じゃ。

 リーフが街に行った後、主が寂しがって大変なんじゃよ?」

「…そうなんですか?なんでもっと早く教えてくれないんですか?」

「じゃって悔しいんじゃもん」

「…ちょっと抱き着いてくるので火を見ててくださいね。

 主さーん!寂しがらせてごめんなさーい!」



行商は止める間もなく、まだ寝ているオスに抱き着きに行った。

大声で叫ぶものだから、オスも魔女も土竜も全員が目を覚ます。

オスは寝起きで混乱しながらも、ちゃんと行商を抱き締めてじゃれていた。


火の番を魔女に代わってもらい、行商をオスから引き剝がした。

それからしばらくして、行商が朝の顛末を説明してた。



「あはは。でも僕、いつも寂しかったって言ってたよ?」

「主さんが言うのと、ドーラさんが言うのとでは全然違うんです!

 主さんはちょっと寂しくてもそう言ってくれるでしょ?

 でもドーラさんが言うと、本当に寂しいんだなって思う訳です!」



行商が元気になったのはいいとして、

隣でこうもベタベタされるなら言わない方がよかった。


どうしたものかと顔を上げると魔女と目が合う。

魔女は目配せをして、行商に近づいた。



「リーフ、そろそろ出発しないか?

 持ってきた水も心もとないしね。

「そうですね!それじゃ、行きましょう!」



行商はやっとオスと離れ、大走鳥に木の実を上げ始めた。

こっちは手分けして広げた荷物を集める。

荷物と言ってもあと一回分の食料と人数分の毛布だけ。

本当にこれだけでよかったのかと不安になるほど少ない。


再び大走鳥に乗って行商の故郷を目指した。

知らない森だと流石に方向感覚も無くなった。

浮かれ気味の行商は少し速くて、見失わないようにするのが大変だ。



「リーフ!少し速いのじゃ!」

「ごめんなさーい!それと、もうすぐ着きますよ!」

「もう着くじゃ?何もないのじゃ」

「ん~、此処からは大走鳥を降りて、少し歩きましょうか」



そう行商が言うので、大走鳥から降りて歩き始めた。

少し進むと森が密集して、先がまったく見えなくなった。

木の枝も低く、森に閉じ込められる気分になってくる。



「…ほんとにこっちでよいじゃ?行き止まりじゃないのじゃ?」

「心配しなくて大丈夫ですよ。ほら、見てください」



やっと森のトンネルを抜けて視界が開けた。

すると、遠くの山間に沢山の家が見える。

これが森人の故郷。

確かに良い場所に思えた。



「此処からまた大走鳥に乗りましょうか。

 後は道なりに行けば、私の故郷です!」



…。

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