出発の日
大掃除をした翌日。
さっそく行商の里に出発するのかと思っていたけど違った。
そういえば土竜は大走鳥に乗った事がないらしく、
一日だけ、乗る練習をする事になった。
「グラさんは当日も私と一緒に乗りましょうね。
とにかく後ろからギュッと抱き着いてみてください」
「…こう…?」
「そうです!…グラさんって、胸大きいですよね」
「…そ、そう…?」
土竜の練習を最初は見てたけど、すぐ飽きた。
オスを誘い、大樹に戻ってお茶でも飲もう。
「戻ったのじゃ」
「おかえり。グラはどうだった?」
「後ろに乗るだけなら大丈夫そうじゃった。
リーフがグラの胸が大きいって呟いてたのじゃ」
「ハハッ。グラは確かにすごいね」
今日も魔女は細かい場所の掃除をしていた。
持っていく服と二日分の食料は既に準備されている。
それ以降の食べ物は行商がなんとかしてくれるらしい。
「食べ物はパンだけじゃ?」
「野営も一日だけだからね。
鍋も向こうのを借りるし、持っていくと邪魔になるから明日はパンだけ」
「木の実、炒ってもよいじゃ?」
「ああ。皆の分も頼もうかな」
オスが喜ぶだろうと、道中で食べる木の実を炒った。
残りの火でお湯を沸かし、お茶の準備をする。
行商達も休憩するようにと、魔女が伝えに行った。
お茶を飲んだ後、行商達はまた練習に行った。
自分はオスが望んだので展望台に向かう。
「此処に来るのも久しぶりじゃ」
「大樹を離れる前に此処からの景色を見たかったんだ」
「明日は出発するじゃろうか?」
「多分、そうだね」
全ての準備が終わりつつある。
その段階になり、やっと此処を離れるんだと実感が沸いた。
オスと出会ったこの森を去る。
それが急に寂しく思える。
「必ず帰ってこようね」
「…うむ!」
オスも同じ気持ちなんだ。
なら、寂しくても気分は良い。
寄り添いあって見飽きていたはずの森を眺め、
暗くなる前にその場を後にした。
夕食は魔女が作ってくれた。
あれほどあったパンは無く、スープと魚が沢山焼かれていた。
「今度はパンが無いのじゃ」
「明日パンだけだから今夜はいいだろう。
作り置きがそんなになくて助かったね」
思えば魚を食べるのが下手だったオスも上手くなった。
急に何もかもが懐かしく感じる。
昔を思い出すと、何とも言えない寂しさに襲われるから不思議だ。
「皆、森の中の移動は慣れてないのでゆっくり行きます。
だから朝から出発しますね」
「そんなに違うじゃ?」
「目の前に枝があったりしますからね。
気をつけないとぶつかりますよ」
食事をしながら明日の予定を行商が話す。
行商が父から大走鳥を二匹借りてきたそうなので、
それに乗って朝から出発するそうだ。
「私とグラさんが一緒に乗って先頭を歩きます。
その後ろにピーちゃんに乗ったドーラさんと主さん。
最後は魔女さんが一人で乗ります」
「主と一緒じゃ!」
「もし私を見失ったらその場から動かないようにお願いしますね」
他にも少しだけ注意事項を聞いた後、お風呂を済ませた。
魔女達も済ませた後、いつものようにお茶を飲む。
きっと、そろそろ寝る時間だ。
でも明日此処を離れると思うと、なかなか寝室に行く気にならない。
「ドーラが不安になる気持ちもわかる」
「魔女もわかるじゃ?」
「住処を捨てざるを得なかった事は何度もあるからね。
でも、私達は大樹に帰ってこれるんだから大丈夫だよ」
この気持ちは大樹に対しての執着心なんだろうか。
魔女に諭されて、やっと寝室に向かう。
それでも、なかなか眠れない夜を過ごした。
翌朝、寝不足の自分の為に行商がきつめのお茶を淹れてくれた。
「これを飲んで目を覚ましてくださいね」
「すごく濃いのじゃ…」
「主さんと一緒に乗るんですからお願いしますよ?」
「心配なら私が主くんと一緒に乗ってあげようか?」
「もう目が覚めたから大丈夫じゃ」
「そうか?いつでも主くんは預かるよ」
魔女を軽く流しつつ、朝食を済ませた。
そしていよいよ、此処を離れる時が来た。
大走鳥に乗って進み始め、丘で一度大樹を振り返る。
「リーフの里から大樹は見えるじゃろうか?」
「流石に見えませんね。でもすぐ帰ってこれますよ」
「…そうじゃな。よし、行くのじゃ」
丘を越え、普段は行かない森の中を進む。
それが最初は寂しかった。
でも時間が経つにつれ、少しずつ楽しくなってくる。
「なんだかワクワクしてきたのじゃ」
「そうだね。この先に何があるかな?」
「きっとずっと森じゃ。でも楽しいのじゃ」
知らない植物に興味を惹かれるが、
オスを迷子にするわけにもいかないので自制する。
それからも進み続け、一度目の休憩になった。
「ふぅ。皆さん疲れてませんか?トイレとか大丈夫です?」
「…お尻が疲れたの…」
「よく揉んでおいてくださいね!」
「しかし、思ったよりゆっくり進むんじゃな?」
「この辺の木は枝が低い位置にあるから仕方ないんですよ。
もうちょっと我慢してくださいね」
行商の言った通り、しばらくすると速度が上がった。
小走り程度だが、確かに森の中だと緊張感が増す。
時々枝を避ける為に頭を下げるのだが、
オスと息を合わせて避けるのが面白い。
そうしてあっという間に目的地に着いた。
「今日はこの辺りで泊まりますね」
「まだ全然明るいのじゃ」
「ドーラさんが大走鳥に乗るが上手くて順調に進みましたからね。
魔女さんどうします?余裕があるから焚火でもします?」
「火が燃え移らなそうな場所があればしてもいいね」
「探してみますね」
行商が場所を定め、その辺から薪を集めた。
すぐに火は起こさず、暗くなる前に始めるそうだ。
それまで少し時間が出来たので、
オスと土竜を連れて近場を散策するとしよう。
…。




