大掃除
最後に湖に星を見に行ったのは何時だろう。
考えれば、ずいぶんと久しぶりな気がする。
最近、夜は皆でゆっくりお茶を飲んだり、
土竜が持っていた本を最初から読んだりしていた。
「…本当に湖で夜を過ごすの…?」
「そうだよ。夜の湖はとっても綺麗なんだ」
「…お家があるのに外で過ごすのは、不思議な感じなの…」
「グラは運がよいのじゃ。
星を見るなら、主の隣が良いのじゃ」
「…一晩中、主さんが隣に居るの…?」
「そうじゃ。主が冷えないようにちゃんとくっつくのじゃ」
「…わかったの…」
久しぶりとはいえ、何度も行ってるからオスも準備に慣れてきた。
毛布や食べ物をさっと準備して湖に向かう。
湖に着いたら野営する場所を決め、暗くなる前に食事を済ませる。
そして辺りが暗くなり始めると、土竜がソワソワとしだした。
「グラ、もしかして怖い?」
「…ちょっとだけ…」
「手を繋ごうよ。湖は明るいから安心して」
オスと手を繋いだ土竜は大人しくなった。
本格的に暗くなり、湖が輝いて見え始める。
久しぶりに過ごす夜の湖は、行商が居ないのも相まって静かだ。
たまにはこうして、静かな夜を過ごすのも悪くない。
「…綺麗なの…」
「来てよかったでしょ」
「…うん…素敵なの…」
おやつとして、炒った木の実を皆で食べた。
これはオスの好物だけど、土竜も気に入った様子だ。
そして予想通り、食べ終わるとすぐに眠気を感じる。
自分はなぜか湖にくるといつもこれだ。
「主はやっぱり眠くないじゃ?」
「あはは。ドーラはまた眠くなったんだね?」
「そうじゃ。…寝転がって欲しいんじゃけど、よい…?」
「いいよ。グラも星を見ようよ」
「…うん…」
オスが横になってから抱き着く。
もう逃げる心配はないから、すぐに身体の力が抜けていく。
二人におやすみと言って、目を閉じた。
眠りに落ちる直前、
オスと土竜は二人だと何を話すのだろうと気になった。
「…ドーラさん、寝ちゃったの…?」
「ドーラは湖にくると一番早く眠るんだ」
「…主さんは…?」
「僕はもうちょっと星が見たい。
グラも眠たかったら寝ていいんだよ」
「…私も、星が見たいの…。
…ね、また手を繋いでもいい…?」
「いいよ」
土竜から手を繋ぎたがるのは意外だった。
いつも受け身だから、オスに何かをお願いするなんて思わなかった。
「…ずっと聞きたい事あったの…」
「僕に?」
「…どうして、私を選んでくれたの…?
…ほんとは、嫌じゃなかった…?」
「グラが選んで欲しいって言った時、嬉しかったよ。
グラと一緒に暮らしたいってそう思った」
「…私の事…ちゃんと好きになってくれる…?」
「あはは、もうちゃんと好きだよ?」
「…嬉しい…。
…私も、主さんが好きなの…」
正直、土竜はどれくらいオスが好きなのかわからなかった。
行商のように、隙あらばオスと出掛けようともしないし、
本当に好きなのか心配だった。
土竜の事は魔女が勧めてきたし、無害だと思って簡単に許し過ぎた。
そう思った日もある。
でも、こうして二人になれば執着を見せるのだと安心した。
奥手で遠慮がちだが、ちゃんとオスが好きなんだ。
なら今、オスの最後のつがいとして自分は土竜を認めよう。
それからも二人は何かを話していたけど、
あまり盗み聞きしても悪いから、本当に先に眠る事にした。
そうして四日の間、オスと土竜とずっと三人で過ごした。
毎日一緒にお風呂にも入り、一緒に眠る。
そんな日々を過ごしていると土竜の印象も変わる。
慎ましいが、気が利くいいメスだ。
「ただいま戻りました!主さーん!」
「おかえりリーフ!フローラも!」
「お待たせ主くん。何も問題はなかったかな?」
「何もないけど、寂しかった」
ある日の夕方、やっと二人が帰ってきた。
オスは嬉しそうに行商と魔女と交互に抱き着き、喜んでいる。
その様子を土竜も嬉しそうに見ていた。
「主の隣が埋まってしまって残念じゃな?」
「…でも、主さんが嬉しそうだから…」
「グラは良い奴じゃな~。
今日から朝と夜、二回キスしてよいのじゃ」
「…えっ…。…あ、ありがとうなの…」
行商達がオスとしばらく戯れる。
それが落ち着くのを待って、やっと話を聞けた。
どうやら、自分も行商の故郷に行ってもいいらしい。
「里長はドーラさんにぜひ来て欲しいって言ってました」
「ぜひ来て欲しいじゃ?」
「森が平和なのはドーラさんのおかげらしいです」
「魔女、どういう事じゃ?」
「深い森には少なからず獣が生息するのが普通だ。
でもこの森はドーラが居るから、そう言う危険な生き物が居ない。
だから感謝されているんだと思うよ」
「ほー…。…それで、いつ行くじゃ?」
「しばらく離れるなら掃除がしたいね。
明日は全部掃除に使って、明後日出発にしようか」
「わかったのじゃ」
翌日は朝から大忙しだった。
布団も全部干して洗濯して、隅々まで拭き掃除もした。
人手が増えたと言ってもなかなかの重労働だ。
一度休憩を挟み、皆でお茶を飲む。
「私達が居ない間、主くんを独り占めしてないね?
ちゃんとグラとも仲良くした?」
「もちろんじゃ。前より仲良くなったのじゃ」
「それはよかった。少しだけ心配だったんだ」
「ちゃんとお風呂も一緒に入ったのじゃ」
「…グラ?私より先に主くんとお風呂に入ったのかい?」
「…だ、だってドーラさんが…」
その後、土竜が頑張って魔女に説明をしていた。
タオルを巻いて肌を見せてない事を中心に話すと、
なんとか納得していた様子だった。
「仕方ないじゃろ?急に二人も居なくなったら主が寂しがるのじゃ」
「寂しがってくれるのは嬉しい。けど、先を越されると複雑だね。
…それはさておき、掃除の続きをしようか」
魔女は庭を掃き掃除すると言い、早々にオスと二人で外に出た。
自分も付いていこうとすると、行商と土竜に止められる。
「ちょっと二人にしてあげませんか?
魔女さん、すごく一生懸命ドーラさんの説明をしてくれたんです」
「…お願いなの…」
「仕方ないの~…」
それなりに長い時間、二人は姿を見せなかった。
ただ戻ってきた魔女の機嫌は良く、何かしてたのは明白だ。
オスの匂いを注意深く嗅ぐと、身体から強く魔女の匂いがする。
まぁ、それでも襲われてはないようなので大目に見てあげよう。
…。




