ドライアドの恋心
今日は森人の提案で
私と主くんの三人で出掛ける予定だ
ドラにはかなり渋られたが
夜、ベッドで二人きりにしてあげる事を条件に
承諾してくれたようだ
「…暗くなる前に帰ってくるんじゃぞ…」
「わかってますよ!
ちゃんと寝室で二人にしますから
少しの間だけ我慢してくださいね」
森人がドラにもう一度言い聞かせてる間、
私は念の為にグラに頼み事をしておく
「グラ、ドーラが落ち込んでたら
慰めてやってくれないか」
「…どうしたらいいの…?」
「話を聞いてあげるだけでいい
主くんの事を聞いてあげて」
「…頑張ってみるの…」
グラも私と離れるのに不安を覚えるだろう
でもそれを口には出さず、
手を振って見送ってくれた
無事に出掛ける事が出来た
予定通り、事前に決めていた場所を目指して歩く
「グラさんが居てくれてよかったですね」
「ドーラも一人じゃ可哀想だからね」
「でもグラさん一人で大丈夫です?」
「あれで意外と聞き上手だから平気だろう
それに少しもドーラを恐れていないし」
理由は褒められたものではないが
ドラゴンに会いに来たと言うだけあって
ドラを少しも怖がる素振りを見せない
「きっと、もっともっと大きくて
恐ろしいドラゴンを想像していたんだろう」
「ふふ、想像力が豊かですね」
「物語が好きな子だからね
…さて、この辺りでいいかな」
普段はあまり来ない森の奥に着いた
此処なら間違ってもドラは来ないし、
我々だけの時間が過ごせる
「どちらにするか決めたかな?」
「えーと、先にいいです?」
「なら私は此処で待っているから」
立ち止まる私を主くんが不思議そうに見てくる
これは最近、二人きりになる機会が訪れないからと
三人で出掛けて時間を分け合う事にしたのだ
二人を見送った私は適当な場所に座る
そういえば一人の時間も久しぶりだと
気を抜いて、森の音に耳を傾ける
「…もう少し落ち着いたらどうかな?」
せっかく穏やかな気分だったのに
ライアの方はソワソワと落ち着かない
本を読んでから恋心を具体的に学んだようで
私の鼓動を勝手に強くする
生命としてはかなりの先達者のはずだけど
今は初恋に振り回される幼子のようにも思える
「なんでそんなに落ち着いてるのかって?
そんなのわかっているだろう?
私の感情だって伝わっているんだから…」
主くんの恋人のように振舞える
その立場にいられるだけで私は充分だが
どうにもライアは足りないと納得しなかった
それなりに時間が経った頃に
森人が満足そうな顔をして戻って来た
「それじゃ交代です!
暗くなる前に丘に来てくださいね!」
ゆっくり会話する間もなく
私に気を使ったのか、すぐ森に消えていく
そうして久しぶりに
主くんと二人きりの時間が訪れた
「リーフと森を散策してきたんだろう?
ほら、此処においで」
「疲れてないから平気だよ
フローラも森を歩くの好きでしょ?歩こうよ」
「いいから、私の膝においで」
有無を言わせない様に
まっすぐ見つめながら膝を叩くと
遠慮しながらも寝そべってくれた
「私は二人で過ごせればそれでいい
眠ってしまっても構わないよ」
「でも…」
「眠ったらゆっくり顔を眺めるけどね
それまで、話に付き合って」
私の目が届いていなかった事を中心に
色々な事を聞いていると
次第に眠くなっているのが伝わってきた
なので手でそっと目を覆うと
上手く寝かしつける事ができて
何とも言えない喜びを感じられた
起こさない様に注意しながら
髪を描き分け、頬を撫でる
寝顔を見る機会が無いわけじゃないが、
こうして近くでゆっくり見れるのは珍しい
そうしてしばらく見惚れていると
自然に主くんが起きてしまった
「…ごめん、寝ちゃった」
「謝る必要はないよ
私はとても楽しかった」
「そう?
でも今から少しでも歩こうよ」
「なら遠回りしながら丘を目指そうか
それと一つ、お願いしてもいいかな?
ライアと話してみて欲しいんだ」
ライアが身体を動かすことはできないけど、
出来る限り彼女の希望に沿う事は出来る
反応が一歩遅れる事になるが
気にしないで欲しいと伝えておけば大丈夫だろう
主くんと手を繋ぎ、ゆっくり歩き出す
ライアは予想外の事に戸惑いつつも
何を聞こうかあれこれ考えているようだ
「…ねぇ、ライアの事も、ちゃんと好き…?」
「もちろん好きだよ」
「…嬉しい…
…私もね…君が好き…」
ライアの考えをそのまま口にしているが
あまりにも直接的で少しだけ恥ずかしい
「…ちゃんと、君に触れてる、感覚があるの…
…だから、名前を呼んで、触ってくれたら…
…フローラじゃなくて、私だって、思うから…」
「なら沢山名前を呼ぶね、ライア」
その後も好きな花や木の実の種類なと
お互いに好きなものを確かめ合っていた
主くんの好みは知っているけど
ライアは自分で質問して
一つ一つを確認するのが楽しいようだった
…。




