恋をする余裕
あの時、森で土竜族を見つけた時は驚いたが
それ以上に迷わず助けた魔女に驚いてしまった
一族を追放される理由は色々聞いた事はあるけど
そのどれもがあまりいい内容ではなかった
大抵は盗みや浮気が多いけど
誰かを死に追いやったりしているかもしれない
なので、本来なら様子も見ずに
流浪者を助けるべきではない
「ねぇ魔女さん
どうしてグラさんを助けた時に
少しも迷わなかったんです?」
「そういえば危険な行為だったかな?
あの時はとっさに身体が動いたんだが
気を付けなければいけないね」
「結果的にグラさんが良い人だから
よかったですけど…
悪い人だったかも知れないんですよ?」
「ドーラが近くに居るから気が抜けているのかもね」
身体が人間に近づいた影響か
どうにも感情で動く事が多くなったと言った
確かに龍人が居れば大抵の事はなんとかなる
でも、万が一何かあれば
悲しむのは彼なんだから
もう少し気を付けるべきだと伝えた
そんな説教をドライアドに対して、
ましてや彼の母に向かって言ってよかったのかな?
なんて口にしてから思ったが、
魔女はなぜか嬉しそうに褒めてくれた
「リーフが主くんの傍に居てくれて助かるよ」
「急になんですか?」
「ドーラとは違った側面で
主くんを守ってくれるから安心できる
リーフが愛されてる理由がよくわかるよ」
「ふふん、そうでしょう?」
気分よく話の区切りがついたところで
正面に視線を戻すと
龍人が一心不乱に窓の外を見ていた
「二人の様子はどうですか?」
「ん~…
さっきからずっとしゃがんでいるから
よく見えないのじゃ…」
これは魔女が言い出したのだが
今、彼と土竜の二人を外に出している
お嫁さん三人で大事な話があるから
二人は少し外で遊んでて
と、食後にそう伝えたのだ
本当の目的は話し合いの方ではなくて
彼と土竜を二人にする事だった
「どうして二人にする必要があるのじゃ?」
「グラは身体こそ大きいけれど、まだ若い
だから主くんと遊んで欲しかっただけだよ」
「遊ぶならわしでよいのに…」
「グラだから意味があるんだ
もう少しだけそっとしておこう」
恋人と過ごすのではなく、
ただ友人と遊ばせたいらしい
確かに今、私が二人きりになれたら
触れたいし、恋人のように甘えたい
それはこの二人も同じだろうし、
確かに土竜にしか任せられない
私も龍人の隣に移動して
二人の様子を伺ってみた
地面にしゃがみ、
何やら話しながら手を動かしている
「何をしてるんですかね」
「…わからないのじゃ…
…魔女、わしも外に行ってよいじゃろ?」
「あと少しだけ」
このやり取りも何度もしてる
その度に龍人はがっかりして、
ため息を吐きながら彼を見つめる
それを見てるこっちが悲しくなるほど
寂しそうな瞳だった
それからあまり間を置かずに
龍人が我慢の限界に達した
「わしも外に行くのじゃ!」
「待ちなさい
あと少しだけ…」
「もう待たないのじゃ!」
魔女の制止の言葉も聞かず、
走って外に出て行った
「もう限界か、困ったね」
「ちょっと可哀想じゃありませんでした?
それにほら、主さん達も驚いてますし…」
急に現れた龍人が泣いているものだから
彼も土竜も慌てふためいている
ただ、彼に抱かれながら撫でられる姿を見ると
感情に素直になれる龍人が
羨ましいなと思わなくもない
我慢させた理由を聞けば
ただの魔女の私欲だったのだが、
それは同時に私の為にもなりそうだった
「いつか、主くんと二人で
お風呂やベッドを共にしたいじゃないか
ドーラにも多少我慢してもらわないとね」
「…そんなに先を見越してるんです?」
「いやまぁ、今日はついでにね
どれくらい我慢できるか知っていた方がいいかなって」
「まぁ確かに…」
確かに知っていた方が安心だし、
いつか二人きりで眠ってみたいし、
魔女の言っている事はよくわかる
「ドーラも見えないくらい遠くなら
我慢もできるんだろうけど、
半端に近いと難しいのかもしれないね」
「色々、協力していきましょうね」
「ハハッ、心強いよ」
恋敵ではなく、協力者として
お互いがお互いの利益の為に行動しようと
魔女と固い握手を交わした
外を見れば龍人も泣き止んで
三人で何やら遊んでいるようだ
その姿を魔女と眺めながら
ついでに土竜をどうしたいのかと聞いてみた
「やっぱり、主さんの最後のお嫁さんにって
考えてるんです?」
「もちろん考えた事はあるさ
でも、自然に任せようと思っている」
「自然に、ですか?」
もし自然に土竜が彼を好きになったなら
魔女もやぶさかではないと考えてるみたいだったが
それを決めるのはまだまだ早いとも言った
「今のグラに恋をする余裕はあるかな?」
「そこは何とも言えませんけど…」
「だろう?だから、結局様子見なんだけど、
それに、グラの異性の好みはどうなんだろうね
因みにリーフは?主くんの何処に惚れたんだい?」
「え、恋バナしますか?」
外で子供のように遊ぶ三人はさておき、
私は魔女とゆっくり恋バナをした
彼が身を挺して守ってくれた事を筆頭に
森で泣かされてからキスをしてもらう場面まで
事細かにしっかりと聞かせてあげようと思う
…。




