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もどかしい時間

 たまには魔女にも癒しの時間が必要だ


それが理解できるから


素直にオスを残して大樹に戻ってあげた


けど、連れて来たモグラは歩いている間も


ずっとおどおどしている


「グラもわしが怖いじゃ?」


「…こ、怖くはないの…」


「なら、何に怯えてるのじゃ?」


「…だって…魔女さん以外…

 …何、話していいかわかんないから…」


真面目な顔でそんなことを言うので


行商と共に笑ってしまった





 モグラは何を笑われてるかも


わかっていない様子だった


一応笑った事を謝り、


魔女にオスと過ごす時間をあげたいと伝えた


「…あの二人は…どういう関係なの…?」


「…ん~、複雑なんじゃけど…

 とりあえず、主はわしのじゃ」


「…主さんは…ドーラさんのなの…」


「私のでもありますけどね」


「…主さんはドーラさんのだけど…

 …リーフさんのでもあるの…」


やまびこのように同じことを口にはするが


よく理解していないようだ


そういえばちゃんと説明していなかったので


改めて、オスが誰のものなのか


誰が一番好かれているかを教えてあげた




 行商にお茶を作ってもらってる間に


自分がどれだけオスを愛しているか、


また、オスにどれだけ愛されているかを教えた


モグラは真剣な顔をして耳を傾け、


何度も小さく頷いてくれて気分が良い


「グラは話を聞くのが上手いのじゃ」


「…そう…?

 …それならよかったの…」


「グラは好きなオスは居なかったのじゃ?」


「…居ないの…

 …皆…虐めてきたから嫌いなの…」


そこからお茶を持ってきた行商も


話に加わった


話せる範囲でいいと前置きし、


モグラがどういう境遇で育ったかを聞いた




 モグラの家族は年長者が一番偉い


このモグラが生まれた時、


一番偉いのは祖母だった


「…おばあちゃんだけ、優しくしてくれたんだけど…

 …ちょっと前に、死んじゃったの…」


祖母が死に、守ってくれる人が居なくなった


そして偉いのが父親に代わったが


力仕事が苦手なこのモグラに対し、


十分な愛情を与えなかった


皆から木偶の坊と罵られ続け、


最後には追放された


「…この本も捨てられてたから…

 …持ってこれたの…」


「捨ててあったのじゃ?

 こんなに面白いのに勿体ないのじゃ」


「…おばあちゃん以外、読めなかったし…

 …皆、興味無さそうだったの…」


モグラに頼み、本を見せてもらった


が、中身は意味がわからない


行商は少し理解できる部分もあるそうだが


完全に読めはしないようだった




 暗い話は此処までにして


お茶を飲みながら、本の感想を言い合った


ほとんど自分と行商しか話していなかったが


モグラも楽しそうに聞いていた


「続きが楽しみじゃな~」


「早いですけど食事の準備しちゃいましょうか?」


「そうするのじゃ」


そもそもそのつもりで帰って来たんだった


まぁどうせ魔女もまだ帰ってこないだろうし


ちょうどいい暇つぶしになった


行商と共に調理場に向かうと


後ろからモグラも付いてきた


「もしかして、手伝いたいのじゃ?」


「…いつも私だけ何もしてないから…

 …迷惑じゃ…なかったら…だけど…」


正直、二人いれば事足りるが


簡単な作業を教えてやらせてあげた


そこまで器用とも思わないが


オスよりも手際がいいかもしれない




 魔女達は食事が出来る少し前に帰って来た


モグラに手伝わせた事がわかると


よくやったと褒められた


オスの前で褒められるのは


鼻が高く、ものすごく気分が良い


「…手伝わせてもらったの…」


「それはよかったね

 これからも手伝ってあげるといい」


「…うんっ…」


こうして魔女に相対するモグラを見ると


母親に甘える子供のようだと思った




 食事も終わり、やっと本の続きが聞ける


そう思ったのにお風呂の後になった


これは魔女の好みだが


物語は寝る前に聞きたいらしい


「…魔女達はまだじゃ?」


「さっき入ったばかりですからね~」


「早く続きが聞きたいのじゃ…」


物語の中で離れ離れになった二人が


気になって仕方がない


逸る気持ちを抑えながら


オスとじゃれて気を紛らわせたが


こういうもどかしい時間も悪くなかった




 時間を持て余した行商が


今度はじっくりとお茶を淹れてくれた


普段より味がかなり濃くて


クセがあるが、これはこれで美味しい


「口の中がすごい事になってるのじゃ」


「スーッとするでしょ?

 眠気覚ましにもなっていいかなって」


「確かにそうじゃ

 でも主が途中で眠くなったら

 そこまでにするのじゃ」


オスは構わず聞いていいと言うが


オスと一緒に聞きたいのだ


もし本当に寝そうになったら


自分とオスだけで寝室に行けばいい




 待ちに待った魔女が帰って来た


行商がお茶をさらに二人分用意する間に


自分が魔女を席まで引っ張る


「そんなに焦らなくていいだろう?

 本は逃げないよ」


「主が寝てしまうかもしれないじゃ」


「おや、それは考えてなかったね

 それならすぐに読み始めようか」


魔女の対面にオスと並んで座った


行商とモグラは魔女の両隣で


皆が揃って固まって、物語の続きに耳を傾ける


皆で揃って聞いた物語は


想像してたよりもずっとずっと面白かった


…。

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