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宝物の正体

 様子を見ながら数日が経過した


グラはずっとフローラの後ろについて回り


何をするにも一緒だった


なんだかフローラを盗られた気がして


ちょっとだけ寂しい


でも、避けられている訳じゃないから


今は仕方ないと我慢した




 グラも少しずつ元気になった


顔色も良くなり、身体が軽そうだ


そろそろ大丈夫だとフローラが言うので


ドーラが会いたがっていたドラゴンだと打ち明ける


「グラはドラゴンに会いたかったんじゃろ?

 わしがこの森のドラゴンじゃ」


「…想像してたより小さいの…」


「魔女がこの姿にしてくれたのじゃ

 じゃから、グラを食べる事はできないのじゃ」


「…残念なの…」


残念、とは口にしたけど


どことなくホッとしている様子だった




 フローラが丘に行くと言うので


僕達も付いていく事にした


今日は久々に何もしない、


ゆっくりとした日になりそうだ


「…魔女さん…これ、ありがとうなの…」


「いいさ

 本に触れるなんて久しぶりで楽しかったよ」


本とはグラが大事そうに抱えていた例の宝物だ


泥でかなり汚れていたので


フローラが毎日少しずつ、丁寧に綺麗にしていた


今は綺麗な布に包まれて、


此処に来てから一番嬉しそうなグラに抱かれている


「あんまり綺麗にならなくてすまないね」


「…ううん…元より綺麗なの…」


「今度、気が向いたら読ませてくれないか?

 もちろん、グラが嫌だったら断っていい」


「…読っ…

 …読め、るの…?」


グラは中身が読めないらしく、


かなり驚いていた


本と魔女を交互に視線を変えて


何かを言いたそうにしていた




 読んで欲しいと頼んだのは


かなり時間が立ってからだ


僕から見てもそれは丸わかりだったので、


きっとフローラは


グラから言い出すのを待っていたんだと思った


「…あの…あのね…

 …これ、読んで欲しいの…」


「読ませてくれるのかい?

 皆にも聞かせていいかな?」


「…いいの…」


「よかった

 主くん、隣においで

 ほら、ドーラにリーフも近くに…」


フローラは皆を集めた


そしてグラから預かった宝物の本を


大事そうに、ゆっくりと一ページ目を開いた




 本には物語が書かれていた


主人公は人間の男の子と女の子


二人はまだ子供で、とても仲が良かった


しかし、女の子がとある理由で引っ越して


離れ離れになってしまう


それを成長した男の子が探しに行く物語だった


その話を聞いている途中から


グラはボロボロと泣き続けた


「…ぐすっ…また聞けるとは思わなかったの…」


「前は誰に読んでもらった?」


「…おばあちゃん…

 …もう、死んじゃったけど…

 …おばあちゃんだけ…優しくしてくれたの…」


「…そうか…

 …私でよければ何度でも読んであげるよ」


フローラは本を閉じると


丁重に布を巻き、グラに返してあげた




 グラはそれを受け取ると


再び大事そうに抱き締めながら


何度もお礼を口にした


「面白かったのじゃ

 男の子と女の子は会えたのじゃ?」


「それを聞いたらつまらないだろう?

 続きはまた今度だ」


「でも気になるのじゃ

 グラ、どうなるか教えて欲しいのじゃ」


「…此処から面白くなるから…

 …読んでもらった方がいいの…」


「余計に気になるのじゃ!

 魔女、お願いじゃから読んで欲しいのじゃ!」


「せめて夜の食事が終わるまで待ちなさい

 …グラ、また後で貸してくれるかな?」


「…私も聞きたいからいいの…」


夜聞けるならとドーラも渋々我慢した


その後、本の感想を言いあいながら


ゴロゴロと日向ぼっこをして過ごす




 暗くなるにはまだ時間はありそうだ


なのに、ドーラは食事の準備をしに帰ると言った


「早く食べて早く聞くのじゃ」


「賛成です!

 私も続きが気になります!」


「流石リーフじゃ

 ほれ、主も行くのじゃ」


ドーラが僕に手を差し出した


その手を掴んで立ち上がったけど


フローラに引き留められる


「…夜、本を読んであげる代わりに

 少しだけ、二人きりにしてくれないかな?」


「…食事が出来上がる頃には戻るんじゃぞ

 ならグラ、一緒に来るのじゃ」


「…私も…?

 …ま、魔女さん…私、どうしたら…」


「わし達と一緒に帰ればよいのじゃ」


グラはずっとフローラに


不安そうな視線を送っていたけど


リーフに説得され、


ドーラに引っ張られながら歩き出した




 久しぶりにフローラと、


それにライアにキスができた


グラの前だと決して見せなかった


甘えた姿に僕も一安心できた


「…主くん、寂しかったよ」


「僕も寂しかった

 ちょっとだけ、なんだけど…

 フローラがグラに盗られた気がしてた」


「…ふふ、嫉妬してくれたのかい?

 少し、昔の自分とグラが重なってね…

 どうしても、ほっとけなかったんだ」


その後、フローラは昔の話をしてくれた


今の姿からは想像できないけど、


グラと同じくらい物静かで


引っ込み思案だったらしい


だから、できるだけグラに優しくしてと


そうお願いをされた


…。

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