優しくされた記憶
二人がお風呂から戻って来た
モグラの子は頭から大きいタオルを被り
怯えている様子だ
フローラは気を利かせたのか
席に案内するのではなく、
部屋の隅っこに連れて行って話を聞いていた
「怖がらなくて大丈夫
此処に恐ろしいドラゴンは出ないから」
「…居ないの…?
…ぐすっ…じゃ…私、どうしたら…」
「君はドラゴンに会いたかったのか?
どうして?」
「…私を食べて欲しかったの…」
「…ゆっくりでいいから
その辺、詳しく教えてくれるかな?」
フローラが質問すると
モグラの子は泣いてしまった
泣きながら、少しずつだけど
自分の事を話してくれた
彼女はモグラ族の落ちこぼれ
集落は山を三つ越えた先にあって
少し前に故郷を追放されてしまった
理由は食料の不作により
食い扶持を減らすという事らしい
「…私…他の子より身体が…
…倍くらい…大きくて…
…沢山…お腹空いちゃうから…」
「…先祖返りだね
昔のモグラ族は皆、同じくらい大きかったよ」
「…図体ばっかり大きくて…
…力がでないから…土も…掘れなくて…
…役立たずって…ずっと言われてて…」
「…それで、どうしてこの森に?
ドラゴンが出るって知ってたんだろう?」
「…一人で生きていく自信なくて…
…死のうと、思ったけど…
…自分じゃ死にきれなくて…
…だから、食べてもらおうって思って…
…でも…やっぱり怖くて…ぐすっ…」
「…だいたい分かった
話してくれてありがとう
とりあえず、何か食べようか
用意してくるから、此処で待っていなさい」
フローラは彼女を慰めた後、
僕達に事情を教えにきてくれた
リーフ曰く、
一族を追放されるのはよく聞く話らしい
だいたいは町を目指し、
そこで働き口を見つけるのだという
「畑を作るのに人手はいくらあっても
いいですからね
私が買い出しに行ってる町も
よく入り口で募集してますよ」
「…あの子は生きたいわけじゃないからね
…身体を洗った時も
ガリガリに痩せてて、驚いたよ…」
「…可哀想ですね…」
「私はあの子と隅で食べるから
皆は普通に食べておくれ」
とりあえずフローラの言う通りにした
僕達だけで食事を取った後、
そろってお風呂を済ませる
フローラは変わらず、彼女の傍に居た
本当ならフローラと二人の時間だ
でも、今日は我慢するらしい
「私も此処で眠るよ
一人にすると不安だろうからね
布団を持ってきてくれるかな?」
「わかったのじゃ
でも、よいのじゃ?主との時間…」
「今日は仕方ないよ
さぁ、行きなさい」
有無を言わせない様子に
僕達も従うしかない
彼女の事をフローラに任せ、
布団を届けた後は二階で眠った
…。
まともな食事は久々だったのだろう
最初は遠慮していたのに
一口食べると止まらない様子だった
そんな自分に嫌気が差したのか
途中から泣き始めたけど
食べる手は止まっていなかった
きっと心の底では生きたがっている
皆が二階に上がった後に
一緒に歯を磨いた
それから部屋が明るい事に気付いたのか
それを質問してくれた
「…どうして明るいの…?」
「壁にヒカリゴケと同じことをしてもらっている
…暗い部屋もあるんだが、そっちがいいか?」
「…此処が、いいの…」
「そうか
では、私達もそろそろ眠ろう」
布団は一組しかない
だから一緒に寝ようと誘ったのに
何もない床でいいと言って譲らない
「床じゃ流石に寒いだろう?」
「…外よりマシだから平気なの…」
「…言う事を聞かないなら
皆を起こして相談するぞ?」
「…わ、わかったの…」
やっと観念したのか
布団に入ってきてくれた
が、かなり端っこに居座った
他人に迷惑を掛けるのが嫌なんだろう
「…柔らかくて…温かいの…ぐすっ…」
「…さぁ、今は何も考えなくていい…
…ゆっくりお休み…」
何か言いたそうにこちらを見たが
結局、何も言わなかった
それに疲れていたのか
あっという間に眠ってしまった
家族に置いて行かれた私と
一族を追放されたこの子
何処か似たような境遇に
一度だけでも手を差し伸べたくなった
結果、この子が再び死を選ぼうと
せめて、誰かに優しくされたと
そんな記憶を少しでも抱きながら
安らかに眠って欲しい
…。




