泥まみれの来訪者
外に出てすぐにフローラを見つけた
でも、なぜか泥まみれで
茂みに向かって話しかけている
「おかえりフローラ
何してるの?
それに服が泥まみれだけど…」
「おや主くん、ただいま
…それはほら、この子がね…」
「この子?」
フローラが身体をずらした場所から
茂みを覗くと誰かの足が見えた
「誰じゃ?
潜って遊んでおるのじゃ?」
「怖がって隠れてしまったんだ
この子はモグラの一族みたいでね
…そろそろ暗くなるし、困ったね…」
「引っ張り出すじゃ?」
「それは可哀想だからやめておこう
…ほら、此処は安全だから出ておいで…」
フローラがそう声を掛けても反応はない
よく見れば小さく震え続けているし
何かに怯えているように見えた
フローラが僕以外の二人に
先に大樹に戻って、食事の準備を始めるように頼んだ
ドーラは僕を残す事を嫌がっていたが
リーフが何かを耳打ちし、
渋々だけど納得した様子だった
「この子、どうしたの?」
「…丘を越えた森の奥で見つけたんだ」
フローラ達はピーちゃんに乗り、
違和感のある方向に進み続けた
やがて誰かが生活をしている痕跡を見つけ、
周辺を探すとこの子が倒れていたらしい
「森の知識がなかったんだろうね
寝やすいように葉っぱは集めていたけど
木の実を食べた様子もなかったんだ
…主くんも何か、話しかけてみてくれるかな?」
「わかった
…ねぇ、何を食べてたの?」
「…。」
「ちょっと待ってて」
お腹が空いているだろうと思い、
急いで大樹から
お気に入りの木の実を持ってきた
いつでも食べられるようにと
定期的にドーラが炒ってくれている物だ
上手い場所に隠れているのか
この子はお尻までしか見えない
仕方ないので足をつつき、
その近くに木の実入りの子袋を置いた
「お腹空いてるでしょ?
これ、美味しいから食べてみて」
「…。」
「僕が好きなやつなんだ
いっぱいあるから、どうかな…」
「…。」
返事はなかった
けど、大きなお腹の音が鳴ると
がさがさと動く音がした
「…うぅっ…ぐすっ…」
少しして、その子は泣きだした
多分、泣きながら木の実を食べている
フローラは小さな声で
「よくやった、ありがとう」
そう言って褒めてくれた
落ち着いた頃合いに
もう一度フローラが話しかけた
すると、今度はその声に応えて
後ろ向きのまま、
お尻から茂みを出てきてくれた
そしてチラっと僕を見て、
か細い声でお礼を言ってくれた
「…木の実…おいしかったの…」
「でしょ?僕が一番好きなやつなんだ
さっき一緒に居たドーラが作ってくれたんだよ」
「…ごめんなさい…全部、食べちゃったの…」
「あはは、いっぱい採れるから平気だよ」
最初の印象は大きい子だなと思った
申し訳なさそうに身体を縮こまらせているが
それでも、僕達の中で一番背が高い
そして、なぜかわからないが
汚れた布を大事そうに抱えている
「ほら、土を落とそうか
主くんも背中を手伝ってくれるかな?」
「うん、いいよ」
その子も泥だらけだった
でもフローラとは違い、
昨日今日着いた汚れには見えない
落とせる部分は落とした
でも、まだまだ汚れている
「これでは埒が明かないね
一緒に身体を洗おう
服は…まぁ、ぎりぎり私のが入るだろう」
「…でも…」
「ほらそれ、宝物なんだろう?
それもできるだけ綺麗にしてあげるから」
「…。」
それが後押しになったのか
その子は頷き、フローラについて
大樹に向かってくれた
フローラ達がお風呂に行って居る間、
僕はリーフにも経緯を聞いた
「ピーちゃんは二人しか乗れないから
私、走って帰って来たんですよ」
「そんな遠くから走って来たのじゃ?」
「足腰には自信がありますからね
森の中を走るならドーラさんより早いですよ」
フローラはあの子を支えながら
乗ったから服が汚れていたらしい
その時は意識が朦朧としてたようだけど
大樹に着いた途端、怖がり出したようだ
「どうしてあんなに怖がったのかな?」
「知らない間に森の中心に居たら
誰だって怖いですよ
恐ろしいドラゴンの噂もありますから」
「ドーラは怖くないのに…」
「私だって今は怖くないですけど…
普通、夜鳥を見ただけで逃げ出しますよ」
でも、だからこそ
あの子が居た理由がわからないと
リーフが首を傾げていた
…。




