大切な本
皆と一緒に食事をするようになってから、三日目の朝。
食べ物を沢山貰ってるおかげで、
最近は調子も良くて、身体に力が入るようになった。
「…魔女さん…おはようなの…」
「おはようグラ。起こしてしまったかな」
「…ううん…でも、私も手伝うの…」
「そう?なら、お願いしようか」
魔女さんは毎朝、皆が起きるより早く起きて掃除を始める。
私を起こさないように気を遣っているから、いつもは寝たふりをしてる。
でも、今日は勇気を出して声を掛けてみた
魔女さんと一緒にテーブルの周りから水拭きしていく。
これだけ身体が動くなら、きっと今日からお手伝いができる。
何をするかわからないけど、今までの分も頑張りたい。
少しでも、恩を返せるように。
「…今日から、皆のお手伝いをしたいの…」
「最初だからあまり無理をしないようにね」
「…うん…」
掃除も終わり、お水を飲んで一息つく。
ずっと泥にまみれて生きてきたから、
綺麗になった部屋を見るのが楽しかった。
しばらくして、皆が起きてきた。
主さんもドーラさんもリーフさんも、
魔女さんと私に向かって挨拶してくれる。
ただそれだけの事が嬉しい。
「私とグラは散歩してくるよ。おいで」
「…いってきます…」
散歩に行くとは聞いてなかったけど、魔女さんに付いて行く。
何か内緒の話があるのかと思った。
でも、特にそういうわけじゃなかったみたい。
「外を歩いてみて、足に不安はないか?」
「…大丈夫そうなの…」
「そうか、よかった」
歩きながら、何処に何があるかを説明して貰った。
丘や湖、それと私が暮らしてた洞穴の方角も教えて貰った。
何処を見ても一緒に見えるけど、頑張って覚えよう。
教わりながら、ゆっくりと大樹の周りを一周ぐるっと散歩した。
改めて見ると、木の中がお家なんて不思議だ。
「此処は私が作ったんだよ」
「…すごいの…」
「良い場所だろ?きっとグラも気に入るよ」
「…うん…もう、気に入ってるの…」
「それはよかった。
きっと、これからはのんびり生きられるよ」
そう言って、魔女さんは頭を撫でてくれた。
森に住むドラゴンがドーラさんなら、此処は素敵な場所だと思う。
本当にこの場所で生きていけたら、どれだけ幸せなんだろう。
一生懸命働けば、そうなってくれるかな。
「…私、頑張って働くの…」
「やる気なのは良い事だ。でも、無理はダメだよ。
さて、そろそろ戻ろうか」
大樹に戻って、皆と一緒に食事をした。
その後、今度は主さんとドーラさんが散歩に行って、
帰りを待ってから、皆揃って外に出た。
これから仕事なんだろうか。
ちゃんとできるかな。
此処で頑張れなければ、きっと追い出されちゃう。
そんな心配をしながら、皆の後ろに付いていく。
「ねぇドーラ。今日は何するの?」
「魔女が皆で丘に行きたいんじゃって」
「フローラ、丘で何するの?」
「それはついてのお楽しみ」
森を進んで開けた場所に出た。
小高い丘の中心にある木の根元に着くと、
魔女さんの隣に座るように指示される。
「主くんも私の隣に座ってもらおうかな?」
「それ、なに?」
「これはね、グラの宝物だよ」
魔女さんは私の本を持ってきていた。
毎日少しずつ、綺麗にしてくれた私の宝物。
完全に泥汚れは落ちなかったみたいだけど、
見違えるほど綺麗になって、すごく嬉しかった。
「勝手に持ち出してごめんね。
明るい場所で中の状態が見たかったんだ」
「…いいの…」
魔女さんが本をぱらぱらと捲る。
濡れてくっついちゃったページも、
少しごわごわしてるだけで、ちゃんと捲れるようになってた。
「グラが布に巻き続けてくれたおかげで良い乾き方をしたね」
「…私が綺麗にしようとしたところ、汚くなっちゃったの…」
「擦っちゃダメなんだ。叩くように、軽くトントンとね。
しかし、これ以上は難しいかな」
「…十分なの…本当に嬉しいの…」
「それで、グラに相談なんだけど」
「…なに…?」
「皆に、読み聞かせてもいいかな?」
思ってもみなかった事を魔女さんが言った。
驚き過ぎて、顔をまじまじと見てしまって目が合った。
急いで視線を逸らしたけど、どうしても確認したい。
「ハハッ。グラも驚く事があるんだね」
「…読、めるの…?」
「これは古い人間の文字だから、確かに読める人は珍しいね。
…それで、どうかな?」
「…。」
上手く声が出ない。
代わりに何度も頷くと、魔女さんはにっこり笑って、
最初の一ページ目をゆっくり読み始めた。
久しぶりに聞いた物語の冒頭。
お話は懐かしくて楽しい。
でも同時にお祖母ちゃんを思い出して、少し悲しくなる。
「…辛いなら、読むのをやめようか?」
「…ううん…聞きたいの…グスッ…」
「それじゃ、続きを読むね」
本の内容は、人間の男の子と土竜の女の子が出てくる。
別々の村に住んでいるけど、二つの村の間には森がある。
そこで偶然出会い、内緒で遊び日々が続く。
でも突然、男の子は遠い場所へと引っ越すことになった。
悲しくて、森で一人で泣き続けた女の子。
いつしか大人になって、男の子の存在を忘れかけていた。
だがある日、街から一人の青年が村にやってくる。
と、そこまで読んで、魔女さんは本をパタンと閉じた。
「ふぅ。久々に読むと目が疲れるね」
「終わりじゃ?続きは無いのじゃ?そこからどうなるのじゃ?」
「まだまだ続くけど、少し休憩」
「早く聞きたいのじゃ!気になるのじゃ!」
「こういうのはね、ゆっくり楽しむものなんだ。
皆でこの先を予想したらどうだ?」
ドーラさん達は集まって、主さんにくっついて話し合いを始めた。
私は涙が止まらなくて、動けない。
「本を濡らさないように気を付けないとね」
「…うん…グスッ…」
「グラは内容を知ってるだろうけど、皆に教えるのは我慢してね」
「…うん…うん…ヒック…」
皆はまだ本の内容について話してる。
それが嬉しくて、まだまだ涙が引っ込む気配がない。
…。




