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痕跡

 彼女の話を聞いてからもう一度じっくりと木を眺めた


見た目は他の木と大きな違いは無さそうだ


でも彼女が嘘をついているとは思わなかった


「全部飲み込まれるまで三日くらい掛かったのじゃ

 魔女は木に変わってしまったがこうして見守ってくれてるのじゃ

 御主を拾った日も…魔女に、呼ばれた気がしたのじゃ」


「…なら、僕は魔女さんにも助けてもらったんだね」


「そうじゃ。きっと魔女が教えてくれたのじゃ」


彼女は少し誇らしげに笑う


笑いながら頭に生えた小さな角を木の幹にこすり付けた


よく見れば同じ高さに似たような小さな傷が沢山付いている


これはきっと魔女に甘えているのだ


その姿を見ると角を持つ彼女が少しだけ羨ましくなった




 森に置いていかれた彼女の話を聞いて境遇が似てると思った


この森で、僕も一人で生きていく事はできるだろうか


幸いにも食べられる野草と木の実は少しだけ教えてもらった


後は水だけど、水辺は沢山あると言っていたからすぐ見つかるはず


それ以外は何が必要なんだろうか



 考え事をしていたはずなのにいつの間にか目を閉じていた


彼女に声を掛けられなければ眠っていただろう


「眠そうじゃな?眠い時は眠った方がよいのじゃ」


「…でも…」


「眠いという事は身体が休みたがっているのじゃ

 魔女もそう言ってたし…ほれ、楽な体勢になるのじゃ」


説得されて木の根元を枕に寝転がる


寝転がると視界が広がり、何処までも続く青い空が目に映った


もう少し見たかったがすぐに彼女の手が僕の目を覆った


彼女の手の平は温かくて心地良い


「眩しいじゃろって、魔女もこうしてくれたのじゃ」


「…そう、なんだ…」


彼女の話も魔女の話も、もっと沢山聞きたかった


でも眠気が抑えられずに身体の力が抜けていく


「…くふふ…おやすみじゃ…」


僕は眠気に抵抗できないどころか、彼女に返事もできなかった


…。


 魔女の墓の前で話をしたら懐かしくなった


思い出に浸りながらこのオスの隣で眠ろうかとも思ったが、


雨が降る前にこの丘を一周りして痕跡を探そうと思った



 丘と森の境目を歩いてみたけれど、違和感は一つもない


オスが一人で来たにしろ、複数で来たにしろ、


何かしら痕跡があるだろうと思っていただけに当てが外れた


結局、何も見つからずに二周りもしてしまった


時間が掛かったのでオスも起きてるかもしれない


起きて、何か思い出して、何処かに行ってしまったかもしれない


魔女と別れた場所だからそんな考えがチラついた



 木の根元で変わらずオスは眠っていた


音を立てない様にして、さっきより少しオスの近くに座る


しばらくの間、無防備に眠るオスの姿を見て過ごした


…。

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