二人の母親
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オスは何処から来たのかわからないと言ったけど、
実は、自分もそれを覚えてはいなかった。
まだ子供で、ドラゴンの姿だった頃、
本当の母の背に乗って各地を巡っていた。
おぼろげだけど、それが一番古い記憶。
何処までも続く草原と、広大な海が見える場所は覚えている。
やがてこの森に辿り着き、しばらくは母と二人で暮らしていた。
でもある朝、自分を残して母は消えてしまった。
一人でも特に問題はなかった。
木の実も豊富だし、水は綺麗で美味しい。
今にして思えば、自分が一人で暮らして行けるような場所を、
そんな環境を探してくれたのかもしれない。
一人暮らしも慣れてきた頃、魔女が現れた。
普通、他の生物が自分達ドラゴンを見ると一目散に逃げだすのが当たり前だ。
だから、魔女が逃げないどころか、話しかけてきたからかなり驚いた。
あの瞬間は、今でも鮮明に思い出せる。
「この大きな樹を寝床にしてるのかな?
もしよかったら、譲ってくれないか?」
あの大樹も、昔はただの大きな樹だった。
それでも雨風を凌ぐのに一番良くて、当時もお気に入りの場所だった。
だから渋っていると、魔女は奇妙な提案をしてきた。
「この樹の中で暮らしてみたいんだ。
どうだ?面白そうだろう?」
正直、言ってる意味はよくわからなかった。
でも好奇心には勝てず、魔女に大樹を譲る事に決めた。
「ありがとう。
私はしばらく動かないけど、そっとしておいてくれ」
魔女は大樹に触れたまま、本当に動かなくなった。
それが何日も続くものだから、本当に死んだのかもと何度も思った。
どう声を掛けようか悩んで、なんとなく上を見上げた。
すると、見違えるほど成長している大樹にやっと気が付いた。
なので、また静かに様子を見る事にした。
数日が経ち、大樹が現在の大きさまで成長した。
根元にぽっかりと穴が開き、魔女も動き始めた。
そこから色々な場所にも穴が開き、玄関や窓の形になっていった。
その頃が見てて一番面白かった。
出来たばかりの小さな窓から、一生懸命中を覗いていた。
「そんなに気に入ったのか?
なら提案なんだけど、その姿を捨てる気はあるかな?
私と似たような、小さな姿にしてあげようか?」
そうすれば自分も大樹の中で暮らせると魔女が言った。
その問いかけにはあまり悩まずに頷いた。
魔女は白い木の実のような物をくれた。
それを飲むと急激に眠くなり、抗う間もなく意識が遠くなった。
そのまま、何日眠っていたのかわからない。
次に目が覚めると今の姿に変わっていて、大樹の中で目が覚めた。
最初はあまりの変貌に戸惑ってしまったけど、
自慢の尻尾は残っていたし、動きやすいからすぐに気に入った。
魔女は不思議な生き物だった。
料理は教えてくれたのに魔女は食べないし、
眠る必要が無いと言うわりに、一緒に横になって目を閉じてくれた。
明らかに自分とは違う生き物だけど、母より母らしく感じるようになり、
いつしか本当の母のように慕っていた。
それを魔女に伝えると、とても嬉しそうに笑ったのを覚えている。
悠久とも思える時を魔女と過ごした。
此処からやっと本題になるのだけど、
晩年の魔女はほとんど動かずに、
此方が話しかけた時だけ返事をするようになっていた。
そして突然、丘に連れて行ってほしいと言われた時、
なんとなく魔女の最期を悟った。
願い通り、魔女を抱き抱えて丘に運ぶ。
魔女は久しぶりに立ち上がり、丘の木に触れた。
すると、魔女の身体がゆっくりと木に飲み込まれていった。
「この木になって、いつまでも見守っているよ」
それが魔女の最期の言葉だった。
…。




